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予期せぬ再会

国の警備隊

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 巨体が、倒れる。比較的に建物などがない場所まで誘導していたため、先ほどの場所で戦うよりは被害は抑えられるだろう。

 とはいえ、大型トラックくらいの巨体だ。それが地面に衝突すれば、衝突の際に起こる風圧などで被害がまったくのゼロとは言えないだろう。トラックではなくて生き物だし、あんなにでかい生き物の衝突した被害なんてわからない。

 それでも、ここまで移動してきたのはだいぶマシ……


「……?」


 巨体は、地面に衝突した。ドスンという、重々しい音も確かに聞こえた。地面が揺れる感覚もあった。それなのに……衝突の際に起こるはずの衝撃が、発生していない?

 ものが壊れるどころか、土煙さえも上がらない。それは、ありえないことだ。


「あ、みなさんお疲れ様でーす」


 しかしその疑問は、直後に誰かに向けられて発せられた声により中断する。声の主はお面の店員。言葉を向けたのは……皆さんって誰?

 彼女が視線を向けるその先に、答えはあった。


「お疲れ様って、これはこっちのセリフですよ、アコさん!」

「まぁた一人で無茶なことを……」

「私がいなかったら、もっと被害は広がってたんですよー? お国を守るためにむしろそっちが早く来てくれないと」

「それは、返す言葉がないが……」

「それに、最後はちゃんと間に合ったんだからいいじゃないですか」


 視線の先にいたのは……一般人では、ない。十かそこらの人数の人たちが、そろって同じ制服を着ている。たとえば学校で生徒が同じ生徒を着ているように、たとえば自衛隊の人が同じ服を着ているように。

 会話の内容から察するに、あの人たちは国を守る警備隊ってところか。マルゴニア王国のように鎧じゃなくて制服なのは、単に国の違いによるものだろう。

 おそらく全員が、魔法を使える。その証拠に、あの魔獣は地面に衝突する、その寸前で浮いている。魔法の力で宙に浮かせ、衝突の衝撃を殺したっていうことか。衝撃を殺せば、少なくとも周囲への余波は防げる。

 彼ら……国の警備隊が間に合うように時間を稼いでいた。事前に打ち合わせていたのかはわからないけど、場所も指定していたということだ。


「アコさんの活躍にはいつも助かっていますが……一応アコさんも、一般人なんですから」

「む、一般人ってなんか引っかかる言い方だなー」


 ふむ……どうやら、あの女性は料理店の店員でありながら、国の警備隊の人たちとそれなりに仲が深いらしい。ただの……とはいえないが、一店員がそれなりの地位の人間と仲が良いのは……

 やはり、彼女の力が原因か。あの力があれば、今回のような出来事があったときに交流があったっていうことだろう。

 国から協力の要請があった……というよりは、彼女が積極的に首を突っ込んでいっているっぽいが。


「それで、この魔獣は……」

「いつもと同じ、外から入ってきたっぽい。私が来たときには、結構暴れてて……ここまで連れてくるのに、苦労したよ」

「また、ですか」


 ……いつもと同じ、か。この国に魔獣が現れるのは、どうやら一度や二度ではないらしい。それは、魔獣の存在がすでにこの国では周知の事実になっていることを意味する。

 魔物、魔獣は私たち勇者パーティーが魔王を討ち取った際に、この世から消滅したはずの存在だ。なのに、私は魔獣と遭遇した。この国では、何度も魔獣の襲撃があるという。


「そうそう。嫌んなっちゃうよねー」

「『英雄』様が魔王を討ち、世界は平和になったはずなのに、どうして……」

「……『英雄』、ね」


 疑問の答えは、私にもわからない。わかることは、現実で目の前で起きていることだけだ。

 魔獣は全ては消滅しなかった。もしくは、新しく生まれた、か。どちらにしろ、私が以前相手にした魔獣たちとは、レベルが違うのは確かだ。


「グゥアアァア!」

「この、おとなしくしろ!」


 魔獣の咆哮が、轟く。どうやら、宙に浮いたまま動けないらしい。

 なるほど……あれはただ魔獣を浮かしているだけじゃなく、拘束も兼ねているのか。念力とかで金縛りにあわせる、みたいな感じかな。

 あの巨体も、あの人数がいれば抑え込むことはできるってわけだ。それに加え、国の警備隊なのだから一人一人のレベルも高い。


「でもここに誘い込むまで、結構被害出しちゃった……」

「それは仕方ないですよ。それに、あれだけの騒ぎの中で死傷者はゼロ……建物や建造物などはまた建て直せばいいですが、人の生き死にはどうしようもないですから」

「えぇ、みんな無事でなにより。これ以上の成果はありません」


 あれだけの騒ぎがあって、死傷者はなしか……魔獣というのは知性も理性もないとはいえ、バカみたいに暴れるだけだったんだろう。

 ああして捕らえられては、これ以上あの魔獣が暴れるのは期待できない。もっとこの国をめちゃくちゃにしてくれれば、私もそれに便乗して、事を進めやすかったんだけど。

 仕方ない。少し離れたところに移動して、そこで……


「グ……ゴォ……ロルル……!」

「!」


 その場から背を向け、歩き出そうとした瞬間……背後から、凄まじい魔力が溢れ出す。背後……それはつまり、つい今しがた視線を向いていた場所なわけで……

 振り返る。凄まじい魔力を放出しているのは……お面の店員でも、国の警備隊でもない。あの、捕らえられている魔獣だ……!
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