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もう一つの異世界召喚

それぞれの目的のために

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 ケンヤ、ガニム、バーチ、ノット……人間魔族が入り交じった者たちの出会い。そのうち一人は、この世界の人間ですらない。

 ケンヤとガニムの目的は、禁術によりガルヴェーブを生き返らせたい。そのためであれば、どれだけの血を犠牲にしても、自分たちが犠牲になったとしても、構わないと思っている。

 バーチの目的は、面白いことがしたい。マルゴニア王国の王子、ウィルドレッド・サラ・マルゴニアの側近になった理由は、刺激のある日々が欲しかったから……刺激が貰えるなら、たとえ人間であろうと躊躇なく殺す。

 ノットの目的……というか、彼女はただ依頼をこなすだけだ。どんな依頼であろうと、一度受けた依頼は確実に遂行する。"疾風"と異名を取るように素早く、迅速に。

 魔力を纏った異世界の人間、数少ない生き残りの魔族、王国の王子側近、暗殺者……魔王城の地下にある部屋を拠点とすることにして、それぞれの目的のために動き出す。


「あぁ、私は呪術を使える。てか、そっちのでかいのも呪術の力を持ってるじゃないか」


 フードを脱いだノットは、美しい女性であった。腰まで伸びた朱色の髪を持ち、見た目麗しく、抜群のプロポーションを惜しげもなく晒すスタイルだ。そのノット本人の肯定により、ノットが呪術使いだと確証を得る。同時に、ガニムも呪術の力を持っていることが明らかに。

 対象の視界を奪い、その視界を視る力……魔力とは異なる力は、やはり呪術の力だったようだ。ちなみにガニムの右目にある刀傷は、生まれつき……物心ついた頃にはすでにあり、視力は失われていたらしい。

 どういう原理かはわからないが、いつからか己の右目の使い方を、ガニムはわかっていた。対象とする者の視界を奪い、同じ景色を視る。

 さらにその先、右目を開き、目玉を取り出して握りつぶす……そうすることで、自分が視た光景を他者にも脳内映像として見せることができる。これを使用したことはなかったが、方法はわかっていた。そして実際、使用することができた。

 これは攻撃性のあるものではないが、使い道によってはとても有効だ。遠くの景色を見ることも可能である以上に、対象の見た景色を視ることのできる力……用途は広い。


「必要なのは呪術の力……なにができるかは問題じゃない」


 視界を奪うガニム、燃え尽くす炎を出せるノット……その力が禁術にどう役立つのか。疑問を持ったケンヤであるが、必要なのは呪術という『力』で、呪術によりできることは、問題ではない。

 ややこしい話ではあるが、とにかく呪術という力を持つノット、そしてガニムの存在は、すでに必要不可欠だということだ。

 ノット、そしてバーチには、禁術の方法を知りたいとは言っていても、誰を生き返らせたいとまでは言っていない。二人を信用していないわけじゃないが、あまり積極的に話すことでもないと思えた。

 幸いと言うべきか、向こうから聞かれることもない。なので、聞かれない限りこちらから話すことはない。


「たくさんの、血……」


 禁術に必要なものは、人間魔族含め、たくさんの血だ。そのためには、生き残っている魔族を探すことも、人里に降りて人間を殺すことも、してみせる。

 そのためにノットという暗殺者もいる。彼女に頼めば、何人であろうと手にかけてくれる。金は、城の金庫部屋と思わしきところにたくさんあった。

 城に住んでいた頃、ガルヴェーブから金の場所や価値などを教えてもらっていた、そのおかげだ。

 それから禁術を行うため、それぞれが行動に移った。普段はケンヤとガニムは生き残りの魔族を探し、バーチはマルゴニア王国に戻り王子の側近として勤めを果たす。ノットは、人里で暗躍していた。

 その暗躍の最中、情報を得た。『氷狼』と呼ばれる伝説の種族がこの世界にはおり、さらには氷狼の住む村があるのだと。人間でも魔族でもないが、それほど珍しい種族ならば、流す血はよほど希少なものだろう。禁術に使えるかもしれない。量より質という話だ。


「……!」


 バーチとノットは、マルゴニア王国の兵士を引き連れ……氷狼の村へと、攻め入った。結果として村は崩壊、氷狼も一匹を残して全滅。

 氷狼を一匹だけ残したのは、奴隷として売ってしまうためだ。ただでさえ希少な生き物が、一匹しか残っていない……珍しさは跳ね上がる。バーチの好きなものは刺激と金……今回の氷狼の村襲撃は、その両方を満たすに最適であった。

 人間、魔族、氷狼……次々と手にかけ、血を流した。流した血……それは、血を集めるというより、血を染み込ませた武器を集めるとした方がやりやすい。ノットは、一つの得物で何人も、何十人も斬り、血を染み込ませた。

 幾人もの血を吸った武器は、それだけで凄まじい力を持つ。怨念おんねんとかそう呼び方をしてもいいかもしれない。たくさんの血を吸わせたそれが、禁術には必要となる。


「なぁ、その剣って……」


 いつだっか、ケンヤはバーチの持っていた剣が気になった。それは、普通の剣とは異質な感じがして……尋ねたことがあった。

 バーチは呪術の力を持たない。しかし、呪術の力を持った武器なら持っている。呪術の力が備わった剣のことを『呪剣』といい、どうやらその効果は共通ではないようだ。炎を出す、視界を奪う、と呪術に様々な種類があるように。

 その『呪剣』は、斬った者の自我を奪う……というもの。この世界には、『呪剣』のように呪剣の力を持つ武器が、いくつか存在しているらしい。

 それは氷狼の村を襲撃したときに、大いに効果を発揮した。だがその後、『呪剣』はどこかへ姿を消してしまったという。バーチは肌身離さず持っていたわけではないし、呪いの剣ならば勝手に動くこともあるだろうと気にも止めていなかったが。


「……」


 バーチ以外にも、マルゴニア王国に工作員ノットのぶかを忍ばせたり、あちこちで暗躍をしていった。すぐにでも禁術のために血を流したいが、そういうわけにもいかない。こっちは四人、慎重に事を運ばなければならない。

 禁術を行うという『計画』は、順調に進んでいた。しかしある日、順調に進んでいると思われた『計画』にひびが入った。


「マルゴニア、王国が……?」


 マルゴニア王国に潜り込ませていた工作員からの連絡が、途絶えた。それだけではない……バーチとの連絡も、取れなくなった。

 魔族の土地には、人間の里でなにが起こっても情報は入ってこない。なにが起こったか、すぐに知るのは無理だったが……原因を、突き止めた。

 マルゴニア王国が滅んだ……いや、滅ぼされたという話。どうやら、国一面を覆うほどの雪が積もり、国に住む人々はバーチや王子含め殺され、国としての機能を停止した。

 国一つ侵食するほどの雪など、自然現象ではあり得ない。また、国から逃げた者がいないというのも、気にかかる。まるで逃げる前に、誰かに殺されてしまったかのような。


「……くそっ!」


 これでは『計画』に支障をきたす。禁術を行うために、たくさんの血が必要なのだ。ただ血を流せばいいわけではない、血を吸わせた武器が、必要なのだ。

 それを、こんな……まさしく無駄な血だ。いったい、どこの誰が。


「なに……?」


 その正体が知れたのは、ガニムの能力あってだ。マルゴニア王国を滅ぼした者たちの中に、氷狼がいるという情報があった。ならば、その後氷狼の村へ向かう可能性が高い。そう推理し、万一のため捕らえておいた人間たちを、氷狼の村へと向かわせた。

 彼らには、ノットが呪術の力を分け与えた。正確には、呪術の力を液体にして、それを飲むことで一時的に力を得ることができる。ノットの出す炎と同じものを出すことができる。

 いくらなんの力もなくても、呪術の力と数があれば氷狼であってもたかだか一匹、もう一人と合わせても楽に殺せるはずだと。しかし、結果は惨敗……呪術の力の時間切れが来るのは予想していたが、相手が思いの外粘り強かった。

 結局殺せはしなかった……が、正体を暴くことはできた。


「『英雄』……アンズ・クマガイ……?」


 男たちの視界を奪い、視たガニムの能力。それにより、判明した。『英雄』と呼ばれる存在、ノットも姿はよく知っていた。そして、ケンヤと同じ世界の人間……

 魔王を討ち、元の世界に戻ったと聞いていた。それがなぜ、どうして。


「……邪魔だな」


 彼女の存在は、邪魔になる。そう予感し、ケンヤは行動に移した。元々、行き当たりばったりで成功するとは思っていない……なにかで試そうとは、思っていたのだ。

 かつての勇者パーティーメンバーを禁術により生き返らせる。禁術は成功し、自然と笑みが生まれた。

 さらには念を入れ、ノットに彼女らの殺害を依頼。想像したものを創造することができる呪術の力を使い、ケンヤは日本刀を造りだし……ノットに持たせた。

 うまくいく、これで……すべてはうまくいく。もう止まるわけにはいかない。『英雄』を殺し、邪魔をする存在を消し、願いを叶えるその時まで……
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