異世界召喚され英雄となった私は、元の世界に戻った後異世界を滅ぼすことを決意した

白い彗星

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もう一つの異世界召喚

理解不能の男

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 数多くいた味方を殺し、一人立つバーチ。その表情には笑顔が浮かび、口元についた返り血をなめとっていた。そのおぞましい光景に、思わず身震いをしてしまう。

 同じ人間であるはずだ。しかし、彼から感じるのはただただ異様。ケンヤも、人間でありながら魔族しか持たない魔力を纏ってはいるか、それとはまた違ったもの。

 本能が激しい警戒の鐘を鳴らす。味方を躊躇なく殺したこともそうであるが、今の動きは一切の無駄がない、鮮やかなものだった。思わず踊っているのかと、錯覚してしまうほどに。

 それほどの動きの持ち主だ。少しでも隙を見せようものならば、次の瞬間には自分の喉がかき切られる……なんてことも、ありうるだろう。


「……っ」


 ただ呼吸をすることにすら、気を張り詰めてしまう。バーチの行動、いや仕草の一つ一つに注意し、次になにをするのかを警戒する。

 そんなケンヤとガニムの様子に、バーチは今度は苦笑いのような笑みを浮かべ……


「やだなぁ、そんなに怖い顔をしないでくれよ」


 なんてことを、言い放った。怖い顔をしている自覚などはないが、やめてくれと言われても無理だろう。

 今のバーチの一連の行動を見て、警戒を少しもするななど、不可能な話だ。


「貴様、なんのつもりで……!」

「あぁー、これか? いいじゃないか、キミらにとっては敵だろう?」


 倒れた兵士たちを指して、これを言い捨てるバーチ。とても味方に、いや同じ人間に向ける言葉だとは思えない。はっきり言って、異常だ。

 その警戒を受けている本人は、涼しい顔で……


「落ち着いてくれ。なにも、魔族を取って食おうってんじゃない。危害を加えるつもりはないさ」

「つもりはないって、さっきそこの兵士たちが……」


 警戒心を解かせるためだろうか、比較的穏やかな声色で話すガニムの言葉を、しかし信じられるはずもない。だってそれはそうだろう。

 生き残りの魔族を殺せ……すでに命尽きた兵士たちは、確かにそう言っていた。兵士たちよりも立場が上であったはずのバーチの命令により、生き残りの魔族を殺すつもりではなかったのか。


「あぁ……少なくとも『こいつらは』そのつもりだったようだが」

「は?」


 こいつらは、と、地面に転がる兵士たちを指す。なにを言っているのか、よくわからない……が、そこでふと思い出す。

 バーチは、兵士の一人から生き残りの魔族がいないと報告を受けていた。そして本人は、生き残りの魔族を探していても、それは殺すために、というわけではなかったということか。


「じゃあ、兵士たちはなんで殺すなんて……」

「さあな。生き残りの魔族がいるか確認しに行く……としか行ってないから、殺しに行くのだと勘違いしたんだろう」


 バーチは、元々魔族を殺すために探しに来たわけではなかった。それを、兵士たちが勘違いし、殺すために探しに来たのだと解釈して……この場所にまで来た。

 勘違いした方も勘違いした方だが、話さなかった方も話さなかった方だ。もっとも説明したところで、生き残りの魔族を、殺すためでなんのために探しに行くのだという疑問は、生まれるだろうが。

 それになんと答えるのか……それが、不明なわけだが。


「ならあんたは、なんのために魔族を探して……?」


 ついに、焦れったくなったケンヤが問う。いくら考えても、答えの出ない問いだ。ならば、これは本人にその胸の内を聞くしかない。

 魔族を、生き残りがいないかを確認してまで探す理由。それも、味方の兵士たちを殺してまでだ。なにか、よほどの理由が……


「なんのため、か……つまらないんだよ、なにもかも」

「……は?」


 深刻な雰囲気を出しつつ、なにやらよくわからないことを言っている。つまらない、とは……いったいなにを言っているのか。

 そんな、ケンヤとガニムの困惑に気づいているのかいないのか、バーチは言葉を続ける。


「退屈なんだ、この平和な世の中が。異世界から来た部外者ゆうしゃが魔族を滅ぼしたせいで、刺激がなくなってしまった。そんなのは耐えられない。だから、こうして刺激を求めて生き残りの魔族を探しに……」

「いや、待て……待て待て待て待て」


 やたら饒舌に、頬を赤らめてすら話を続けようとするバーチに、ケンヤはストップをかける。頭を、抱える。

 どうしよう、バーチがなにを言っているのか、さっぱりわからない。チラッとガニムを見ると、目があった。どうやら彼も、同じ気持ちらしい。


「えっと……退屈な世の中が嫌で、だから刺激がほしいから、魔族を探してたと?」

「そうだ」

「……」


 なんの迷いもない、即答。確認してはみたが、やはり聞き違いではないらしい。頭が痛い。

 しかもバーチの浮かべるその表情は、なぜそんな質問をするのか……そういった表情だ。理解が追い付かない。頭が痛い。


「……ガニム、これは……」

「……真面目に向き合って、いいものかどうか」


 目の前の男(バーチ)には、とりあえず殺意はない。それに、嘘も言っていないのだろう言っていないからこそ、反応に困ってしまうのだ。

 殺意がないのならば……とりあえずケンヤとガニムも、応戦の意思は引っ込める。警戒は、引き続き行うが。
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