異世界召喚され英雄となった私は、元の世界に戻った後異世界を滅ぼすことを決意した

白い彗星

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もう一つの異世界召喚

探し魔族

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「暗殺者"疾風"……名を、ノットと言うそうです」

「ノット、か」


 ガニムの口から告げられる、暗殺者"疾風"……その名前。ケンヤにとっては当然聞き覚えのない名前だ。名前だけでは、やはり性別すらもわからないか。

 まあ、ケンヤの世界とは違うのだ……ガルヴェーブやガニムなど、性別がどちらともわからない名前がたくさんあるから、名前はたいした手がかりになりはしないだろう。

 ……暗殺者などと呼ばれる存在なのだから、男も女も関係なく、恐ろしい存在なことに違いはないだろう。


「その、ノットを探せば、なにか手がかりは掴めるかもな」


 裏の世界に通じ、呪術という力を操るという。正直ケンヤは、呪術がどういう力なのか、いまいちわかっていない。ガルヴェーブに、危険な力と言われただけだ。

 それでも、その名前から、並々ならぬものを感じさせるが。


「じゃ、明日からは城の外に出てみるか」

「そうですね。それに、いい加減体もなまってしまいそうですし」


 このところ、あの図書室と呼べる部屋で本を読んでばかりいた。いい加減、目と頭を使いすぎて疲れてしまった。

 ガニムの言うように、体がなまってしまうというのもある。座っても立っても、本を読んでいるだけだったのだから。

 それも、文字文字文字……文字ばかりを、見続けていたのだから、文字にゲシュタルト崩壊を起こしてしまいそうだ。


「明日に備えて、今日は早く寝ようか。どこまで行くか、なにが起こるかわからないからな」

「はい、そうですね」


 今日は、解散とし……ケンヤとガニムは、それぞれが部屋に戻っていく。ケンヤは自室に戻る前に、ガルヴェーブを寝かせている部屋へと顔を出す……これが、ケンヤの日課となっていた。

 ガルヴェーブの姿は、ガニムのおかげで……この城に戻ってきたときと同じままの姿だ。腐敗はあのとき以来進んではいない。もっとも、もはやこれ以上ないくらいに腐敗はしているのだが。

 それでも、ケンヤにとって大切な存在であることに、変わりはない。禁術についての手がかりは、今日まで得られなかったが……彼女の顔を見れば、諦めてしまう気持ちが払拭される。奮い立つことが、できる。

 こんな状況になってしまっても、まだ彼女から勇気をもらうことができる。それが嬉しいような、それとも情けないような……


「お休み、ルヴ」


 今日会った出来事を話したりなんかして、最後は、必ずお休みと告げて部屋を出る。そして、自分が使っている部屋へと戻り……就寝へと、移行する。

 最近は、調べものをしてばかりで疲れているのか、よく寝れる。城に戻ってくる前、ろくに整った環境で寝たことがなかったから、環境の整ったこの場所ではぐっすり眠れるのだろう。

 今日は、明日に備えて早めに眠りに入ったおかげもあってか……すぐに、眠りにつくことができた。


「ぐぅ……」


 ……夜が、更けていく。

 寝ている間は、時間はあっという間だ。次に目が覚めたときには、朝になっていた。もっとも、この世界……土地かもしれないが、空は全体的に暗い。当然時計もない。

 それでも、この時間帯が朝だとわかるのは……この世界に来てから、ずいぶん経ち、慣れたからだろう。それに、朝はやはり心なしか少し明るい。気がする。


「ふぁ、あ……さてと」


 今日は、城の外に出て行動する。暗殺者"疾風"ノットという人物を探すために。

 探しだした初日から見つけられるとはさすがに思わないが、やれることは全部やるつもりだ。

 ガニムと今日の行動について話し合い、城を出る。あまり遠くに行っては、城に戻るのに苦労する……と初めの頃は思っていた。だが、城に戻ってきて以来、例の瞬間移動が自由に使えるようになっていた。

 念じた場所に移動できる。これは便利だ。使い方を体が覚えたのか、城という拠点を得たことで体が休まったからかもしれない。

 ただ、行ったことのある場所に対してしか発動することはできない。ケンヤの行ったことのない場所は、念じることができないので、当然と言えば当然であるが。


「さ、まずは……ガニムがいた村に戻ってみるか」

「そうですね」


 結局、行ったことのある場所ならば人探しならぬ魔族探しは自分の足で行うことになる。それでも、城にすぐに帰れる……これは利点だ。

 ガニムと出会った村に移動し、そこから行き先……いや方角を決め、進む。とはいえ、"疾風"を探すというよりは、どうやってその者に依頼をするか、だ。こうしてただ歩いていても、その望みは叶うまい。

 結局、手がかりという手がかりはなく、やはり足で探すしか……


「……ん?」


 ふと、視線の先になにかが映る。咄嗟に身を隠す。近くに人二人は隠せる大岩があってよかった。

 そっと頭を出し、先ほど映ったなにかを確認する。そこには、なにやら鎧のようなものを着た、数人の……人間がいた。


「あれは……」

「人間……」


 ほとんどの魔族がいなくなった……いや、勇者の手によって滅ぼされた、魔族。その土地に、なぜ人間がいるのか。この世界に来て、初めて目にした人間であるが、不思議とケンヤの胸にはなんの感情も湧かなかった。

 いや、なんの、というのは誤りだ。ただただ、不信感のみ。


「なにしてるんだ?」


 その疑問に、答える者はいない。建物一つ一つを調べたり、あちこちをキョロキョロしている。まるで、誰かを探しているかのよう。

 鎧のようなものを着た人間たち……それは、ケンヤの知識では兵士というニュアンスが合う。人間の土地に済む、どこかの兵士だろうか。

 そこへ、一人の兵士が戻ってくる。その人物は、あの中で唯一鎧を着飾っていない人物の前に立ち……離れた位置から観察している二人ケンヤとガニムにも聞こえるほどの大声で、話す。


「バーチさん! どうやら、この村には、魔族の生き残りはいないようです!」


 手を挙げ、敬礼のようなものをしている。誰かを探しているのは本当だが、それは生き残りの魔族がいないかというもののようだ。なぜ……?

 それを命じたのは、あの中で一番立場が上であろう、バーチと呼ばれた人物によるものだろうか。
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