異世界召喚され英雄となった私は、元の世界に戻った後異世界を滅ぼすことを決意した

白い彗星

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もう一つの異世界召喚

"疾風"を探して

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 結局禁術についての手がかりは途絶えてしまい、ケンヤもガニムも肩を落とす。これだけの本があれば、いくら禁術という物騒な言葉であっても、少しくらいの手がかりがあるはずだと、思っていた。

 結果として、手がかりはあったが手がかりを得ることは、できなかった。それも、本を書いた人物により手がかりを見つけ、本を書いた人物により手がかりを潰されるという、なんともな結果だ。

 本には他にも手がかりがないか調べ、結果なにもなかった。本を閉じてから、ケンヤとガニムは部屋を出て……この日の調べものは、これで終わりとした。

 希望から絶望に突き落とされた気分だ……さすがに、このまま作業を続ける気には、なれなかった。

 また明日から、同じようにあの部屋で本を調べるのか。それとも他の方法を試みるのか……それは、まだ決めてはいない。それを話すのも、どこか躊躇われた。

 とにかく頭を一旦整理して、話し合うとしよう。


「"疾風"?」


 そんな単語を聞いたのは、その日の夜のことだった。これから、どうするか……それはあの本の手がかりが消されていたから、出た話題ではない。

 元々、これからどうするかを話し合ってはいたのだ。あの、図書室とも呼べる部屋にある本に、禁術についての手がかりがまったくなかった場合……その先になにをすればいいか、足止めとなってしまう。

 だから、予めなにをするかの予定を立てておけば、次に動くための時間が少なくて済む。今回、手がかりが消されていたことで、その気持ちはいっそう強くなった。

 そんな中で、ガニムの口から出てきた言葉が……


「はい、"疾風"……そう呼ばれる者を、探しましょう」

「"疾風"とは、なんだ?」


 疾風という単語自体は、ケンヤも聞いたことがある。強く吹く速い風……そんなイメージが強い。

 しかし、ガニムの言う疾風とはそのような意味ではないだろう。というか、そう呼ばれる者、と表現するあたり、それは何者かを指している言葉だ。

 疾風というのが名前の可能性もあるが……ニュアンスとしては、ケンヤの知識にある異名、二つ名のようなものに近そうだ。


「"疾風"とは……簡単に言えば、暗殺を生業なりわいとし、裏の世界に通じている者、です」

「……つまり、暗殺者か」


 暗殺者……ガニムがなぜ、暗殺者を探そうと言うのか? ケンヤたちが探しているのは、殺し屋じゃなくて禁術の方法だ。

 そりゃあケンヤだって、城の魔族など、ガルヴェーブにひどいことをした連中が残っているなら、殺し屋にそいつらを殺してもらうことを頼むのもやぶさかではないが……


「聞いたことがあるんです。"疾風"という、裏の世界の情報に詳しい者の存在を。呪術という力を操り、その生業ゆえいろいろな情報を持っていると」

「! それって……」


 そこまで聞いて、ピンとくるものがある。裏の世界に通じている……それはつまり、普通に生活していても知り得ない情報を、手にすることができるということ。

 裏の世界とは、要するに金とか陰謀とか、そういうのが渦巻く世界のことだろう。魔族にも裏の世界があるんだ、という感想は今は一旦置いておこう。

 良質な情報を持っている可能性と、加えて、呪術という力を操ると。呪術という力のそのさらに先に、禁術という力がある。ならば、それについても知っている可能性は大だ。


「そんな人物が、いるのか……」

「えぇ、思い出しました。転々と暮らしている頃、そんな話を耳にしたのを」


 ガニムは、一つの場所に留まらず、転々と移動を繰り返していた。その点では、ガニムもいろんな情報を得ることができたと言える。

 一つの場所にいては、限られた情報しか得ることはできないから。


「けど、どこを探せば……それに、その"疾風"はまだいるのか?」


 腕を組み、ケンヤは考え込む。"疾風"がどんな人物であれ、今や魔族はほとんどが滅んだと言っていい。壊滅状態だ。人間に蹂躙され、病の発症により獣と成り果て……

 その"疾風"が、どちらの毒牙にもかかっていないと、楽観視することはできない。


「……今も生きているという、確証はありません。けれど……」

「……どうせなら、情報を、持っている可能性を探した方がいい、か」


 "疾風"が生き残っているかは、わからない。だがどのみち、図書室の本で情報を得られなければ、生き残りの魔族を探しに行く予定だったのだ。

 ただ闇雲に、情報を持っているかもわからない一般魔族を必死になって探しても仕方がない。ならば、情報を持っていそうな魔族を探すのが、効率がいいだろう。

 とはいえ、やはりどこにいるともわからない者を探すというのは容易ではない。その上、暗殺者というのならそう簡単に姿は見せてくれないだろう。


「暗殺者……ってことは、誰かから依頼を受けてるってことだよな。なら、その"疾風"に依頼する方法があれば……」


 知識をかき集め、推論を立てていく。暗殺者という生業しごとならば、暗殺を行うにあたって誰かから依頼を受けるはずだ。ただ殺したい奴を殺すのでは、暗殺者とは言われないだろう。

 つまり、誰かから受ける依頼……それを、自分たちがやることができれば。自分たちが、暗殺者"疾風"に依頼することができれば。探すまでもなく、向こうから接触してくるということだ。


「道は、見えてきたな……ところで、その"疾風"というのは、名前はわかるのか?」


 "疾風"というのが通り名なら、もちろん本当の名前もあるはずだ。もっとも、名前まで知られているのかはわからないが。

 だが意外にも、ガニムはうなずいた。


「はい。暗殺者"疾風"……名を、ノットと言うそうです」
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