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もう一つの異世界召喚

禁術に必要なもの

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 今の今まで、村にいたはずだ。それが、ほんの少し目を閉じていて……開いたらそこは、無機質な建物の中であった。しかも、見覚えのある構造をしている。

 それはそうだろう……ここは、行きたいと願っていた城の中だ。信じられないかもしれないが、間違いない……間違いないと、ケンヤの中の直感が言っている。

 これまで、何度か例の瞬間移動が使えないか、考えたことはあった。だが、それが実現することはなく……今日まで、歩いて過ごしてきたのだ。

 それが、今日……この瞬間、驚くほどあっさりと実現した。成功した。正直、拍子抜けだ……これまでの試行錯誤は、なんだったのかと思いたくなるほどに。

 ガニムの言った通り、これは強く念じた結果だろうか。そう繋げた方が、もっとも自然だろう。だが、これまでだって念じたことは一度や二度じゃない。なのになぜ。

 ……もしやと、ケンヤは当たりをつける。宛もなく放浪していた頃念じても城に行けなかったのは……心身共に消耗していたからではないだろうか。今回は、万全とはいえないまでも体力に余裕はある。きっと、ガニムと会って時間にゆとりができたおかげだろう。


「……ここは……?」


 当のガニムは、急に景色が変わった事実に混乱している。周囲をキョロキョロと見回し、壁に触れたりなんかもしている。

 ガニムは、城に訪れたことがない。だから、ここが城であると、即座に結び付かないのだろう。


「ここが、城だよ」

「! じゃあ、本当に?」


 ケンヤの言葉を、今さら疑いはしないだろう。元々、ガニムの提案によりケンヤが、城への道を望んだのだ……その結果がこれだというのなら、ここはケンヤの力で移動したしろだということはわかる。

 事前のケンヤの発言、今のケンヤの表情から、この現象が初めて成功したのだということがわかる。初めて、自分の意思で。

 なんにせよ、これで拠点にしようと定めた城へ、たどり着くことができたということだ。どれほどの距離があったのかは知らない……その、どれほどの距離を一瞬にして埋める移動。

 まさに、瞬間移動だ。


「……本当に、誰もいないのか……」


 ケンヤの話では、城に住んでいた魔族は『病』を発症し、またそうでない魔族も勇者に滅ぼされ……もぬけの殻になってしまっているということだ。

 疑っていたわけではない……が、こうも広い城の中に、誰の気配も感じないというのは、なんとも不可思議な気分ですらあった。


「……部屋は、いっぱいある。あとは……」

「姉貴の体なら、お任せを。俺の魔力なら、腐敗を遅らせることもできます」


 ケンヤには、死体の腐敗を防ぐ、もしくは遅らせる芸当はできなかった。が、ガニムにはそれが可能だという。部屋を用意し、そこにガルヴェーブを寝かせ、腐敗を遅らせる。

 もっとも、こうなってしまってからやることに、果たして意味があるのかは、わからないが。それでも、このまま朽ちて朽ちて、なにも残らないことだけは、避けたかった。


「ここに寝かせておけば、姉貴も安全だ」


 ケンヤの元いた世界で言う、冷凍保存……それと似たやり方で、ガルヴェーブの体を一室に横たえる。それは、もはやガルヴェーブだと一目で判断するには変わり果てすぎた姿かもしれない……

 それでも二人にとっては、大切な存在であることには変わりはしない。

 ……さて、拠点を確保し、ガルヴェーブを一室に寝かせ。思いの外順調に事が進んでいく。あとやるべきことは、禁術についての情報集め。死んだ人間を生き返らせることができるという、文字通り禁忌の術。

 死んだ者を生き返らせようというのだ、代償は少なくないだろう。こういうものはだいたい、代償として生け贄が必要というのがベターだろう。

 もしも生け贄が必要というのなら……生け贄とする魔族を捕らえる必要がある。ケンヤにとって、ガルヴェーブを死に至らしめた魔族はもはや滅んでもいい存在となっていた。城にいた魔族、村にいた魔族……誰もが、ガルヴェーブに殺意をぶつけた。

 そんな連中を使って生け贄とすることができるなら、喜んで生け贄として捧げよう。その気持ちは、ガニムも同じだ。同じマド一族で、なによりガルヴェーブの妹である彼は、その気持ちは強いだろう。

 もし生け贄が必要となれば……問題はやはり、魔族を見つけること。情報を集めるにせよ、生き残った魔族を探すことは必要だということだ。


「さて……ところでガニム、他に魔族が生き残ってそうなところに、心当たりはないか?」


 魔族がいる場所となると、それはやはり村などのある程度環境が整った場所……それこそ拠点が必要だろう。魔物でもなければ、拠点もなしにさ迷って生きることなど難しい。

 だから、これまであの村を拠点としていたであろうガニムに、心当たりを聞いてみたのだが……


「すみません、俺はずっとあの村にいたわけではないので……どことは、明確には」


 申し訳なさそうに、ガニムが言う。だが考えてみれば、そうだ……ガニムが一つの場所に留まり続けているはずがない。彼は、ガルヴェーブと同じくマド一族……一つの場所に留まればその分、正体がバレる可能性が高まる。

 それに、ガルヴェーブが今まで弟を探してこなかったとは思えない。それでも発見できなかったのは、ガニムが移動を続けていたからだ。

 いわば、ガニムもケンヤと同じように生活を送っていたということだ。わかるのは、ガニムがいたあの村にはもう、生き残りはいないということ。
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