349 / 522
もう一つの異世界召喚
主として
しおりを挟むガルヴェーブの見た景色が、感じた想いまでが……ガニムの中に、流れ込んでくる。こんなことは初めてで、それでも困惑はなかった。ただ、胸の中を心地よさが、支配していた。
間違いなく、ケンヤは信頼に値する人物だ。それだけの根拠が、この映像にはある。
「……そっ、か」
自分と離ればなれになっていても、姉はちゃんと笑顔でいたのだ。少し寂しいが、それはとても嬉しいことだ。
だから……だからこそ、ガルヴェーブから笑顔を奪った、連中が許せない。ケンヤの話によると、直接危害を加えた者たちはすでにこの世にいないらしいが……それで、ガニムの気が済むことはない。
マド一族……このことが周囲にバレた結果、ガルヴェーブはあの結末をたどってしまったのだという。この隠し名が、バレることなどそうそうないはずだが……それでも、完璧ではない。
現にガニムだって、何度か名前により危機に陥りそうになったことはある。自分たちの先祖が、なにをしてきたか……それは、ガルヴェーブ同様両親に聞いた。
だから、マドという名を隠して、生きてきた。ガニム・マキトロニアとして……ガニム・マド・マキトロニアという名を隠して。
「……」
ガニムは、決意する。ガルヴェーブを生き返らせるために、禁術の方法を得るためにケンヤと行動することを……そして……
「ケンヤ……いや、ケンヤ様」
「はい?」
ガニムは、ケンヤの前に膝をつく。
「これから俺は、あんたを……あなたを、主として、従おう」
「ちょ、ちょっと!?」
目の前でなにが起こっているのか、ケンヤにはわからない。さっきまで勘違いがあったとはいえ、自分を殺そうとしていた相手が、今自分に膝をつき、あまつさえ主として仰ぐと告げたのだ。
なんで、どうして。なにがどうなってそうなった。ケンヤには、まったく見当がつかない。
それは当然だ……ガニムがなにを見たのか、その上でなにを感じたのか。ケンヤは知るよしもないのだから。
「姉貴は、あなたを慕ってた……いや、それ以上の気持ちを持ってた。それに、姉貴の側に最期までいたのはあなただ」
「最期まで、って……俺は、結局ガルヴェーブを守れなかった……」
「いや、きっと姉貴は、最期まであなたのことを想って……逝ったはずだ。あなたがいたから、姉貴は最期、一人じゃなかった。だから俺は、あなたを……」
つまりは、ガルヴェーブが信頼し想っていた人物だから、ガニムも同様に慕う……簡潔に言うのなら、こういうことだ。その感覚はケンヤにはよくわからないが……ガニムなりの、覚悟がこれだ。
姉の信頼した人物ならば、そして禁術にすら手を出すことを躊躇しないほどに姉を生き返らせようと想ってくれている人物ならば……自身が、主として忠誠を誓うに値する、人物だ。
「……」
ケンヤは、むず痒い。ガルヴェーブも似たような言葉遣いだったが、彼女は最初から、それに誰にでもあの言葉遣いだったために慣れは早かった。
だが、こうも急に言葉遣いを変えられると、戸惑ってしまう。ただでさえケンヤは、ガルヴェーブ以外元の世界でも、こんな言葉遣いで慕われる経験などなかったのだから。
次期魔王として召喚された自分は、立場的には敬ってもらうべき存在だったのかもしれない。だが城の連中ですら、敬っている様子はなかった。下に見ていた、という意味ではなく、気の置ける仲間として接してくれていた。
「や、けど、なんかハズイんだけど……」
ガルヴェーブを生き返らせることを共通の目的とした仲間、という認識が、この短時間でなぜか自分を主として従おうだなんて。
自分に、そんな価値があるとは思えない。ガルヴェーブには助けられっぱなしで、なのに自分はなにも返せてなくて……最期も、守ることすらできなかった。すべては、終わったあとだった。
だから……
「そんな、主なんて……俺は……そんなたいそうな人間じゃない。そんな資格は、ない」
「……そんなことは、ない」
否定する……しかし、ケンヤの否定は、ガニムによって否定される。ケンヤを見つめるその目は、とてもまっすぐで。
「そんなことはない……姉貴は、あなたを慕ってた。それは、伝わってくる、他にもいろいろなことが。それに、資格とかそんなのじゃなく……俺が、あなたを慕いたいと、そう思った」
改めて、自分の気持ちを伝える。姉が慕っていたこと……それ以上に、ガルヴェーブを通じて見えた、ケンヤの人間性。魔力の大きさは元より、その人間性。魔族と人間という種族間など、関係ないと言わんばかりの態度。
姉が慕っていた……それはきっかけに過ぎない。ケンヤという人間性を見て、ガニム本人が、慕いたいと思ったのだ。
その真剣な目に、ケンヤはこれ以上言う言葉を知らない。
「……好きに、しなよ。けど、いつでも戻していいからね口調」
せめて断らないことが、精一杯。しかしガニムの様子だと、口調を直すつもりはないのだろう。となると、ケンヤが慣れるしかない。
果たして慣れるだろうかと、心配になる。
「と、とりあえず……これからの、行動だけどさ」
このままの話題では、むず痒い。なので、話題転換……これからの行動予定を、立てることとする。
すると、ガニムがまっすぐ手を挙げた。
「……や、別に普通に言ってくれたらいいよ? 俺の許可なんて求めなくても」
「そういうわけには。……このまま生き残りの魔族を探すのも大事でしょうが、それよりも、ちゃんとした拠点を作ることが大事と思います」
「……拠点、か」
宛もなく歩き続けるより……まずは拠点を作るべきと、ガニムの意見に、ふむふむとうなずいていた。
0
お気に入りに追加
153
あなたにおすすめの小説
最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~
ある中管理職
ファンタジー
勤続10年目10度目のレベルアップ。
人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。
すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。
なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。
チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。
探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。
万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。
王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します
有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。
妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。
さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。
そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。
そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。
現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
レベルを上げて通販で殴る~囮にされて落とし穴に落とされたが大幅レベルアップしてざまぁする。危険な封印ダンジョンも俺にかかればちょろいもんさ~
喰寝丸太
ファンタジー
異世界に転移した山田(やまだ) 無二(むに)はポーターの仕事をして早6年。
おっさんになってからも、冒険者になれずくすぶっていた。
ある日、モンスター無限増殖装置を誤って作動させたパーティは無二を囮にして逃げ出す。
落とし穴にも落とされ絶体絶命の無二。
機転を利かせ助かるも、そこはダンジョンボスの扉の前。
覚悟を決めてボスに挑む無二。
通販能力でからくも勝利する。
そして、ダンジョンコアの魔力を吸出し大幅レベルアップ。
アンデッドには聖水代わりに殺菌剤、光魔法代わりに紫外線ライト。
霧のモンスターには掃除機が大活躍。
異世界モンスターを現代製品の通販で殴る快進撃が始まった。
カクヨム、小説家になろう、アルファポリスに掲載しております。
異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
おっさん料理人と押しかけ弟子達のまったり田舎ライフ
双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
真面目だけが取り柄の料理人、本宝治洋一。
彼は能力の低さから不当な労働を強いられていた。
そんな彼を救い出してくれたのが友人の藤本要。
洋一は要と一緒に現代ダンジョンで気ままなセカンドライフを始めたのだが……気がつけば森の中。
さっきまで一緒に居た要の行方も知れず、洋一は途方に暮れた……のも束の間。腹が減っては戦はできぬ。
持ち前のサバイバル能力で見敵必殺!
赤い毛皮の大きなクマを非常食に、洋一はいつもの要領で食事の準備を始めたのだった。
そこで見慣れぬ騎士姿の少女を助けたことから洋一は面倒ごとに巻き込まれていく事になる。
人々との出会い。
そして貴族や平民との格差社会。
ファンタジーな世界観に飛び交う魔法。
牙を剥く魔獣を美味しく料理して食べる男とその弟子達の田舎での生活。
うるさい権力者達とは争わず、田舎でのんびりとした時間を過ごしたい!
そんな人のための物語。
5/6_18:00完結!
せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います
霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。
得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。
しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。
傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。
基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。
が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。
俺が死んでから始まる物語
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。
だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。
余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。
そこからこの話は始まる。
セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる