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もう一つの異世界召喚

主として

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 ガルヴェーブの見た景色が、感じた想いまでが……ガニムの中に、流れ込んでくる。こんなことは初めてで、それでも困惑はなかった。ただ、胸の中を心地よさが、支配していた。

 間違いなく、ケンヤは信頼に値する人物だ。それだけの根拠が、この映像にはある。


「……そっ、か」


 自分と離ればなれになっていても、姉はちゃんと笑顔でいたのだ。少し寂しいが、それはとても嬉しいことだ。

 だから……だからこそ、ガルヴェーブから笑顔を奪った、連中が許せない。ケンヤの話によると、直接危害を加えた者たちはすでにこの世にいないらしいが……それで、ガニムの気が済むことはない。

 マド一族……このことが周囲にバレた結果、ガルヴェーブはあの結末をたどってしまったのだという。この隠し名が、バレることなどそうそうないはずだが……それでも、完璧ではない。

 現にガニムだって、何度か名前により危機に陥りそうになったことはある。自分たちの先祖が、なにをしてきたか……それは、ガルヴェーブ同様両親に聞いた。

 だから、マドという名を隠して、生きてきた。ガニム・マキトロニアとして……ガニム・マド・マキトロニアという名を隠して。


「……」


 ガニムは、決意する。ガルヴェーブを生き返らせるために、禁術の方法を得るためにケンヤと行動することを……そして……


「ケンヤ……いや、ケンヤ様」

「はい?」


 ガニムは、ケンヤの前に膝をつく。


「これから俺は、あんたを……あなたを、主として、従おう」

「ちょ、ちょっと!?」


 目の前でなにが起こっているのか、ケンヤにはわからない。さっきまで勘違いがあったとはいえ、自分を殺そうとしていた相手が、今自分に膝をつき、あまつさえ主として仰ぐと告げたのだ。

 なんで、どうして。なにがどうなってそうなった。ケンヤには、まったく見当がつかない。

 それは当然だ……ガニムがなにを見たのか、その上でなにを感じたのか。ケンヤは知るよしもないのだから。


「姉貴は、あなたを慕ってた……いや、それ以上の気持ちを持ってた。それに、姉貴の側に最期までいたのはあなただ」

「最期まで、って……俺は、結局ガルヴェーブを守れなかった……」

「いや、きっと姉貴は、最期まであなたのことを想って……逝ったはずだ。あなたがいたから、姉貴は最期、一人じゃなかった。だから俺は、あなたを……」


 つまりは、ガルヴェーブが信頼し想っていた人物だから、ガニムも同様に慕う……簡潔に言うのなら、こういうことだ。その感覚はケンヤにはよくわからないが……ガニムなりの、覚悟がこれだ。

 姉の信頼した人物ならば、そして禁術にすら手を出すことを躊躇しないほどに姉を生き返らせようと想ってくれている人物ならば……自身が、主として忠誠を誓うに値する、人物だ。


「……」


 ケンヤは、むず痒い。ガルヴェーブも似たような言葉遣いだったが、彼女は最初から、それに誰にでもあの言葉遣いだったために慣れは早かった。

 だが、こうも急に言葉遣いを変えられると、戸惑ってしまう。ただでさえケンヤは、ガルヴェーブ以外元の世界でも、こんな言葉遣いで慕われる経験などなかったのだから。

 次期魔王として召喚された自分は、立場的には敬ってもらうべき存在だったのかもしれない。だが城の連中ですら、敬っている様子はなかった。下に見ていた、という意味ではなく、気の置ける仲間として接してくれていた。


「や、けど、なんかハズイんだけど……」


 ガルヴェーブを生き返らせることを共通の目的とした仲間、という認識が、この短時間でなぜか自分を主として従おうだなんて。

 自分に、そんな価値があるとは思えない。ガルヴェーブには助けられっぱなしで、なのに自分はなにも返せてなくて……最期も、守ることすらできなかった。すべては、終わったあとだった。

 だから……


「そんな、主なんて……俺は……そんなたいそうな人間じゃない。そんな資格は、ない」

「……そんなことは、ない」


 否定する……しかし、ケンヤの否定は、ガニムによって否定される。ケンヤを見つめるその目は、とてもまっすぐで。


「そんなことはない……姉貴は、あなたを慕ってた。それは、伝わってくる、他にもいろいろなことが。それに、資格とかそんなのじゃなく……俺が、あなたを慕いたいと、そう思った」


 改めて、自分の気持ちを伝える。姉が慕っていたこと……それ以上に、ガルヴェーブを通じて見えた、ケンヤの人間性。魔力の大きさは元より、その人間性。魔族と人間という種族間など、関係ないと言わんばかりの態度。

 姉が慕っていた……それはきっかけに過ぎない。ケンヤという人間性を見て、ガニム本人が、慕いたいと思ったのだ。

 その真剣な目に、ケンヤはこれ以上言う言葉を知らない。


「……好きに、しなよ。けど、いつでも戻していいからね口調」


 せめて断らないことが、精一杯。しかしガニムの様子だと、口調を直すつもりはないのだろう。となると、ケンヤが慣れるしかない。

 果たして慣れるだろうかと、心配になる。


「と、とりあえず……これからの、行動だけどさ」


 このままの話題では、むず痒い。なので、話題転換……これからの行動予定を、立てることとする。

 すると、ガニムがまっすぐ手を挙げた。


「……や、別に普通に言ってくれたらいいよ? 俺の許可なんて求めなくても」

「そういうわけには。……このまま生き残りの魔族を探すのも大事でしょうが、それよりも、ちゃんとした拠点を作ることが大事と思います」

「……拠点、か」


 宛もなく歩き続けるより……まずは拠点を作るべきと、ガニムの意見に、ふむふむとうなずいていた。
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