異世界召喚され英雄となった私は、元の世界に戻った後異世界を滅ぼすことを決意した

白い彗星

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もう一つの異世界召喚

ガルヴェーブの見た景色

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「……」


 生き残りの、魔族を探す……当面の目的としてそれは変わらないが、こうして旅を共にする仲間が一人増えた。魔族の土地についてまったく無知なケンヤにとっては、ありがたい仲間だ。

 ガルヴェーブが生きていた頃は、彼女に頼りきりであったし。


「なぁ……」


 ふと、ガニムに声をかけられる。だが、その続きをなかなか口にしようとしない……が、ガルヴェーブの方をチラチラ見ている様子に、なにを言いたいのか、なにをしたいのか理解できた。


「あぁ、わかった」


 ケンヤはうなずき、その場から立ち上がり……少し、離れる。ガニムは、ガルヴェーブの死に目に会えなかった。それ以前に、最後に離ればなれになってから、再会がこの形……ガルヴェーブは死者となっての再会だ。

 きっと、二人で話したいこともあっただろう。まだまだ、やりたいことだって……せめて、最期くらい、二人きりにさせるのが人情というものだ。

 たとえ、ガニムの言葉が届いていないとしても……いや、きっと届いている。そう、信じて。


「姉貴……」


 言わずとも伝わった、ケンヤの行動にありがたく思いつつ、ガニムはガルヴェーブへと近づく。もはや原型があるとは言えないほどに腐敗し、肌はただれ骨は剥き出し……どころか骨さえも溶けてしまっている。

 さらには異臭もすさまじいことになっている。異臭よりも死臭と言うのだろうが、近づくことすらためらってしまう。しかし、ガニムには関係のないことだった。

 ガルヴェーブに、手を伸ばせば届く距離……彼女に、ゆっくり手を伸ばしていく。そして、頬であった部分へと、触れた。


「……!」


 その瞬間だ……ガニムに、異変が起こったのは。異変といっても、それは見た目に表れたわけではない……中だ。ガニムの中に、なにかが流れ込んでくる。ガルヴェーブに触れた手を伝って、なにかが。

 ……突然だが、ガニムの閉ざされた右目は、ただ閉じているだけのものではない。右目(これ)は、特殊な能力を宿している目なのだ。

 それは魔族特有の、という意味ではなく、正真正銘ガニム特有の、ガニム個人に備わっている能力だ。

 だがガニムは、どうして自分にこのような能力が備わっているのかわからない。気づいたら、この能力が備わっていた……それが、すべて。

 その能力というのは……閉じられたはずの右目は、対象の見たものと同じ景色を視ることが出来る、というものだ。それは視界の共有ではなく、一方的に視ることができるもの。

 対象は、自分の視界が覗かれていることにすら気づかない。

 さらに、対象の視界を視るだけでなく、その先……もう一つの能力がある。しかし、それを発動させるには条件がある。それは、あまり……いやまったく気分のいいものではない。見ている者にとっても、本人(ガニム)にとっても。


「っ……!」


 いつのことだったか……いきなり頭の中に、その能力の使い方が流れ込んできた。それに、まるで自分の意思など働いていないかのように体は動いていき……実行に、映した。

 閉じられている、右目……まぶたを開けば、黒目のない、白濁の瞳が露になる。大きな傷は瞼の上から刻まれているが、まぶたを開けない、わけではない。それでも、視力が失われていることに変わりはないが。

 そこからが、常人では決して考え付くことすらできない行為。視力のない右目を、自らの指でくりぬいていく……その行為に痛みが伴っていたか、なぜだか思い出せない。

 右目をくりぬけば、空洞となった箇所から血が流れる。くりぬかれた右目は、手のひらにあり……それを、握りつぶすことで真価は発揮される。

 ガニムが視た、対象の映像……それを、他者に見せることができる。脳内に映像を、送り込むことで。

 対象の視界を視る能力と、視た映像を他者にも見せることができる能力……これがガニムの能力。いや、呪術だ。今回、ガルヴェーブに触れたことで、ガニムの呪術が発動した。


「……これ、は……?」


 発動したのは、対象の視界を視る能力。対象とは、今触れたガルヴェーブだ。しかしガルヴェーブは死んでおり、死んだ者の視界を視ることはできない。しかも、ガルヴェーブの目玉はすでになくなっている。

 なのに、ガニムの視界に、右目に映るこの映像はなんだ。……これは、ガルヴェーブの見た景色。いや、記憶と言った方が正しいだろう。

 今ガニムは、ガルヴェーブの記憶を視ている。ガルヴェーブが生前、見たものが記憶として保管され、それがガニムの呪術により視ることができた。

 対象の視界ではなく、記憶。それも死者の。なにもかもが初めての経験だが、それは目の前で広げられる記憶の景色の前には、どうでもいいことだった。


「……これが、姉貴の……」


 ……そこには、ケンヤがいた。笑い、楽しそうにしている……今少し離れたところにいるあの男と同一人物とは、思えない。思えないが、間違いなく同一人物だ。

 ガニムの能力は、対象の視界を視るもの……つまり対象がどんな顔をしているのか、それを見ることはできない。この場合の対象ガルヴェーブも、どんな顔をしているのかはわからない。

 そのはずなのに……ガルヴェーブは、笑っていた。きっと笑っていたのだろうと、あたたかな感情が伝わってくる。感情が伝わってくるというのも、初めての経験だ。

 ケンヤにこのような顔をさせるとは……ガルヴェーブも、同じような顔をしているのだろう。

 ケンヤがガルヴェーブを大切に想っていたように……ガルヴェーブもまた、ケンヤのことを大切に想っていたのだと、伝わる。自分のいない間にも、姉は寂しい思いをしてはいなかったのだと……少し、安心した。
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