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もう一つの異世界召喚
魔族になにがあったのか
しおりを挟む「俺にも、協力させてくれ」
ガニムの口から出た言葉は、ガニムにとって無意識で……だからこそ驚いた。それでも、まったく思っていない言葉というではなかった。それどころか、心の底では望んでいたからこそ、出てきた言葉だ。
逆にケンヤには、その言葉がある程度予測できていた。ガルヴェーブとガニムの姉弟の関係性は知らない。知っているのはあくまで、ガルヴェーブから聞いていたもの……
大切な家族、弟と……ガルヴェーブがガニムを大切に想っていたことは、違いないだろう。問題はその逆……片方が大切に想っているが、もう片方も同じく想っているかはわからない。
もっとも、ケンヤの思う姉の弟というのは、表面的には反抗的でも内心では大切に想っていたりするものだ。ちなみにケンヤに姉どころか妹も兄も弟もいない。一人っ子だ。これはこの世界に来る前に見ていたマンガの登場人物の影響だったりする。
「……」
まあ、それは置いといて……ガニムの目は、本気だ。本気で、ケンヤに協力したいと考えている。
ケンヤが、ガニムの答えを予測できていた理由。それは、これまでのガニムの行動のすべてが物語っている。死んだ姉を、生き返らせたい……それほどまでに大切な存在。
そうでなければ、ケンヤが背負っていたガルヴェーブの変わり果てた姿を見るや、あそこまで血相変えて襲いかかってはこないだろう。姉を殺したと思っていたケンヤを、彼は殺す気でいた。
ガニムにとって、ガルヴェーブは大切な姉なのだ。それは間違いない。
「もちろん。願ってもない」
だからケンヤに、ガニムの申し出を断る理由はない。禁術についての手がかりがないだけに、協力者が増えるというのはありがたい。それも、ガルヴェーブの弟……目的については、間違いなく信頼できる。
よろしく頼むと、手を差し出す。それに、ガニムも応え、固い握手を交わす。
「不思議な感じだ……人間と、こうしているなんてな」
「あはは」
ガニムにとって、おそらく人間とは生涯会うことのない生き物だと思っていた。人間の土地と魔族の土地は別れており、境界線のようなものがあるが……そこを踏み越えない限り、互いに干渉することはまずない。
もっとも、魔物なんかはたまに境界線を越え、人里を襲うこともあるらしいが。余程の理由がない限り、魔族が人間と出会うことはない。
……余程の理由がない限り。
「これで、めでたく仲間が増えたって、ことだ。なあ、禁術について、詳しく知らないか? もしくは、知っている奴を、知らないか」
一番理想的なのは、ここでガニムが禁術についての情報を持っていることだ。が、それはあくまで理想……禁術について知ってはいても、その中身まで知っている可能性は低い。
ガニムの答えは、後者だった。残念そうに、首を横に振る。
「禁術の、存在は知ってる。だが、その方法までは……」
やはり、そう簡単には目的にはたどり着けない。とはいえ、方法とそれを実行することが可能か……その二つが、必要なため悠長なことも言ってられない。
「……やっぱり、他にも、魔族を探すしかないか」
数打てば当たる、という言葉がある。城でサーズ以外の魔族と会えなかった以上、この広い土地を歩き生き残りの魔族を探すしかない。
そう呟いたケンヤの言葉に、しかしガニムは複雑そうな表情を浮かべている。
「……見つかると、いいが……」
「……それは、どういう?」
城では、勇者が攻めてきた、もしくは『病』が大量発生したため、サーズ以外の魔族が姿を消してしまっていた。
魔王が勇者に討たれたことで、魔王が生み出した魔物や一部の魔族は、この世から消滅したとサーズは言っていた。一部だ……例外もいる。サーズがそうであったように、ガニムもそうであったらしい。
他にも、例外はきっといるはずだ。なのに、城からここに来るまで、誰も見かけなかった。まさか、城以外でも勇者の襲撃や病の発生、魔物に襲われたりしたのだろうか。
「……みんな、いなくなっちまった。ある奴は魔物になって、ある奴は仲間に襲われ……消えちまった」
ポツポツと、話し出す。それは当時のことを思い出しているからか、声が震えている。が、理解はできた。要は、やはり城で起こったのと同じ現象が起こったのだ。
この場所でも……いや、ここだけではないのだろう。おそらく大規模な範囲にかけて、同じ現象が起こっている。
ある奴は、魔物になった……これは、魔族に病が発症したということ。その影響、各地が大騒ぎになったことだろう。理性をなくした獣は、仲間であった魔族だろうと容赦なく襲いかかる。
そこから起こるのは、ただただ惨劇だ。魔物と似た存在でありながら、魔物よりも高度な存在。皮膚は硬く、魔力を操る……倒せたとして、一体や二体では済まない。城で、半数以上が発症したのだ……一つの村で、どれだけの獣が生まれたことか。
病の発症を逃れ、獣の脅威から逃れ……ガニムのように無事な魔族が、果たしてどれだけいることか。且つ、その中で禁術について知っている者は、どれだけ……
「……長い、道のりに、なりそうだ」
それでも、必ず……禁術の方法を探しだし、ガルヴェーブを生き返らせてみせる。
その気持ちだけは、二人の中から揺らぐことはなかった。
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