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もう一つの異世界召喚
ケンヤvsガニム
しおりを挟むようやく出会った魔族……それは、ガルヴェーブの弟ガニム。マド一族のガルヴェーブの弟ということは、ガニムにもマド一族の血が流れているということだ。ガルヴェーブの話でも、そう言っていた。
彼から、今ケンヤは敵意を……いや殺意を、向けられている。その理由は、今もなお背負っているガルヴェーブ……つまりガニム自身の姉のためだ。
生き別れになっていた姉と、再会した……しかしそれは、予想していたものとは違っただろう。もう物言わぬ死体となり、しかもそこにいたのは人間だ。人間が姉を殺した……そう思っても、仕方ないだろう。
ガニムは確かに、最初ケンヤを敵わぬ存在と悟った。人間でありながら、その身に宿す魔力は一介の魔族すら凌駕する大きさだ。ガニムも、自分よりも強大な相手だと理解した。
理解した、が……それはそれだ。だからといって、姉を殺した人間を野放しにするつもりはない。魔族が滅び、どうせ生きていても先の知れた人生……その上、いつか再会を願っていた姉はすでに……
「殺す……!」
ただでさえ、魔力の大きな人間……加えて姉は、生き別れた時点でもかなりの魔力の使い手だった。それを殺したとなれば、自分が敵う道理はないといえる。
それでも、このまま背を向けることはできない。たとえ敵わないとしても……一矢報いる。そのくらいのつもりで……
「あー……待ってくれ。いや、話を聞いてくれ」
どこかに隙があれば、そこを突く……せめて先手をとれれば、と考えていたところへかけられたのは、思ってもみない言葉だった。
待ってくれと……話を聞いてくれと、そう言ったのだ。なにを、言っているのかよくわからない。
ガニムは、今にも爆発しそうな勢いだ。それを待って……あまつさえ話を聞けと? いったい、なにを……まさか、ガルヴェーブをどうやって殺したか、教えようとでもいうのだろうか。
相手は人間だ。非力で弱いがゆえに集団を作り、知能を使って魔族を滅ぼそうとした卑劣な存在、意味などなくとも、ガニムを動揺させるためだけにガルヴェーブの死に様を教えるというのは、想像できた。
そんな手には、乗らない。奴が口を開く前に、飛びかかり……可能なら姉を奪い返す! そして、全力を持ってこの場から逃げよう。
一矢報いるにしても、戦って勝つことだけが正しいものじゃない。逃げる……言葉にすると悔しいが、姉を奪い返して逃げることが可能だというのなら、それに越したことはない。
憎いあの人間を、殺す……それは姉を、ちゃんと埋めてやってからでも遅くはない。あんな、目も当てられない状態になるまで、死体をさらして歩くなど……正気の沙汰では、ない。姉は死して辱しめられなければならない魔族では、ない。
「ふざけるな、この……人間がぁあ!」
「……やっぱそうなるか」
牙を剥き、ガニムは吠える。その場から踏み込み、狙うはケンヤ……が背負っている姉。できることならば、ケンヤに一撃入れ、その隙をついて姉を奪い返す!
迫るガニム……ガニムと違いケンヤには戦う理由はないため、回避に専念する。どのみち、ガルヴェーブを背負ったまま戦闘なんてできない。
圧倒的な魔力を見せつけても、怯まず襲いかかってきたのはガニムが初めてだ……実際には怯んではいたのだが……それを知るはずもない。今はただ、迫るガニムをどうにかして落ち着かせることを考えなければ。
「だぁ!」
ガニムは、その大柄な体からは考えられないほどのスピードで迫り、ケンヤへと拳を振りかぶる。ケンヤにとって、こうして誰かとぶつかり合うのは、初めての経験ではない……が、それはほとんどが城での訓練のこと。
実戦のように緊張感のあるものどあったが、命を懸けた殺しあい……というわけでもない。それであっても、訓練のために戦った魔族に比べれば……ケンヤにとっては見切りやすいものだ。
「ちっ……!」
打ち込んだ拳を避けられたガニムは、すかさず第二擊を打ち込む。それをかわされるが、続けて何度も拳を打ち込む。拳の連打だ。
大柄ゆえに、一撃が当たれば致命傷になりうる。しかも、今ケンヤの体は万全とはいえない……食べるもの飲むものは最低限、ガルヴェーブを背負ったまま何日も何日も歩き続け……体力は低下している。
魔力こそ上等なれど、実はケンヤに余裕があるとは言いがたい。避けるのにも限度がある……こうなれば、殺さない程度の力で、反撃しガニムを気絶させるか。
できればガルヴェーブの身内に手荒な真似はしなくないが……こうも話を聞く気がないのでは、仕方ないだろう。気絶させて、一旦落ち着かせて……
「こ、の!」
ケンヤの考えなど知るよしもなく、ガニムは連打を打ち込む。遠くから魔力を撃ち込まないのは、ガルヴェーブを巻き込まないためだ……その後に及んでもガルヴェーブを離さないケンヤに対し、さらにガニムは苛立ちを募らせていく。
こうして、姉を盾にすることでガニムは本気を出せない……少なくともその効果がある以上、狙ってやってないにしろケンヤの印象はガニムの中で最悪だ。
こうして近接戦に持ち込むしかない。同時に、これならば隙を見てガルヴェーブを奪い返すこともできるはずだ。
……どちらも、ガルヴェーブのことを想う気持ちは一緒だ。だが、二人の気持ちが交わることなく……ガニムの拳と、ケンヤの蹴りがぶつかり合った。
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