344 / 522
もう一つの異世界召喚
ケンヤvsガニム
しおりを挟むようやく出会った魔族……それは、ガルヴェーブの弟ガニム。マド一族のガルヴェーブの弟ということは、ガニムにもマド一族の血が流れているということだ。ガルヴェーブの話でも、そう言っていた。
彼から、今ケンヤは敵意を……いや殺意を、向けられている。その理由は、今もなお背負っているガルヴェーブ……つまりガニム自身の姉のためだ。
生き別れになっていた姉と、再会した……しかしそれは、予想していたものとは違っただろう。もう物言わぬ死体となり、しかもそこにいたのは人間だ。人間が姉を殺した……そう思っても、仕方ないだろう。
ガニムは確かに、最初ケンヤを敵わぬ存在と悟った。人間でありながら、その身に宿す魔力は一介の魔族すら凌駕する大きさだ。ガニムも、自分よりも強大な相手だと理解した。
理解した、が……それはそれだ。だからといって、姉を殺した人間を野放しにするつもりはない。魔族が滅び、どうせ生きていても先の知れた人生……その上、いつか再会を願っていた姉はすでに……
「殺す……!」
ただでさえ、魔力の大きな人間……加えて姉は、生き別れた時点でもかなりの魔力の使い手だった。それを殺したとなれば、自分が敵う道理はないといえる。
それでも、このまま背を向けることはできない。たとえ敵わないとしても……一矢報いる。そのくらいのつもりで……
「あー……待ってくれ。いや、話を聞いてくれ」
どこかに隙があれば、そこを突く……せめて先手をとれれば、と考えていたところへかけられたのは、思ってもみない言葉だった。
待ってくれと……話を聞いてくれと、そう言ったのだ。なにを、言っているのかよくわからない。
ガニムは、今にも爆発しそうな勢いだ。それを待って……あまつさえ話を聞けと? いったい、なにを……まさか、ガルヴェーブをどうやって殺したか、教えようとでもいうのだろうか。
相手は人間だ。非力で弱いがゆえに集団を作り、知能を使って魔族を滅ぼそうとした卑劣な存在、意味などなくとも、ガニムを動揺させるためだけにガルヴェーブの死に様を教えるというのは、想像できた。
そんな手には、乗らない。奴が口を開く前に、飛びかかり……可能なら姉を奪い返す! そして、全力を持ってこの場から逃げよう。
一矢報いるにしても、戦って勝つことだけが正しいものじゃない。逃げる……言葉にすると悔しいが、姉を奪い返して逃げることが可能だというのなら、それに越したことはない。
憎いあの人間を、殺す……それは姉を、ちゃんと埋めてやってからでも遅くはない。あんな、目も当てられない状態になるまで、死体をさらして歩くなど……正気の沙汰では、ない。姉は死して辱しめられなければならない魔族では、ない。
「ふざけるな、この……人間がぁあ!」
「……やっぱそうなるか」
牙を剥き、ガニムは吠える。その場から踏み込み、狙うはケンヤ……が背負っている姉。できることならば、ケンヤに一撃入れ、その隙をついて姉を奪い返す!
迫るガニム……ガニムと違いケンヤには戦う理由はないため、回避に専念する。どのみち、ガルヴェーブを背負ったまま戦闘なんてできない。
圧倒的な魔力を見せつけても、怯まず襲いかかってきたのはガニムが初めてだ……実際には怯んではいたのだが……それを知るはずもない。今はただ、迫るガニムをどうにかして落ち着かせることを考えなければ。
「だぁ!」
ガニムは、その大柄な体からは考えられないほどのスピードで迫り、ケンヤへと拳を振りかぶる。ケンヤにとって、こうして誰かとぶつかり合うのは、初めての経験ではない……が、それはほとんどが城での訓練のこと。
実戦のように緊張感のあるものどあったが、命を懸けた殺しあい……というわけでもない。それであっても、訓練のために戦った魔族に比べれば……ケンヤにとっては見切りやすいものだ。
「ちっ……!」
打ち込んだ拳を避けられたガニムは、すかさず第二擊を打ち込む。それをかわされるが、続けて何度も拳を打ち込む。拳の連打だ。
大柄ゆえに、一撃が当たれば致命傷になりうる。しかも、今ケンヤの体は万全とはいえない……食べるもの飲むものは最低限、ガルヴェーブを背負ったまま何日も何日も歩き続け……体力は低下している。
魔力こそ上等なれど、実はケンヤに余裕があるとは言いがたい。避けるのにも限度がある……こうなれば、殺さない程度の力で、反撃しガニムを気絶させるか。
できればガルヴェーブの身内に手荒な真似はしなくないが……こうも話を聞く気がないのでは、仕方ないだろう。気絶させて、一旦落ち着かせて……
「こ、の!」
ケンヤの考えなど知るよしもなく、ガニムは連打を打ち込む。遠くから魔力を撃ち込まないのは、ガルヴェーブを巻き込まないためだ……その後に及んでもガルヴェーブを離さないケンヤに対し、さらにガニムは苛立ちを募らせていく。
こうして、姉を盾にすることでガニムは本気を出せない……少なくともその効果がある以上、狙ってやってないにしろケンヤの印象はガニムの中で最悪だ。
こうして近接戦に持ち込むしかない。同時に、これならば隙を見てガルヴェーブを奪い返すこともできるはずだ。
……どちらも、ガルヴェーブのことを想う気持ちは一緒だ。だが、二人の気持ちが交わることなく……ガニムの拳と、ケンヤの蹴りがぶつかり合った。
0
お気に入りに追加
154
あなたにおすすめの小説

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?
お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。
飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい?
自重して目立たないようにする?
無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ!
お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は?
主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。
(実践出来るかどうかは別だけど)

大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います
町島航太
ファンタジー
2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。
完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-
ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。
自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。
そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。
安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。
いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して!
この世界は無い物ばかり。
現代知識を使い生産チートを目指します。
※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。

日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。
『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?
釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!
父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。
その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。
最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。
その他、多数投稿しています!
https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

召喚学園で始める最強英雄譚~仲間と共に少年は最強へ至る~
さとう
ファンタジー
生まれながらにして身に宿る『召喚獣』を使役する『召喚師』
誰もが持つ召喚獣は、様々な能力を持ったよきパートナーであり、位の高い召喚獣ほど持つ者は強く、憧れの存在である。
辺境貴族リグヴェータ家の末っ子アルフェンの召喚獣は最低も最低、手のひらに乗る小さな『モグラ』だった。アルフェンは、兄や姉からは蔑まれ、両親からは冷遇される生活を送っていた。
だが十五歳になり、高位な召喚獣を宿す幼馴染のフェニアと共に召喚学園の『アースガルズ召喚学園』に通うことになる。
学園でも蔑まれるアルフェン。秀な兄や姉、強くなっていく幼馴染、そしてアルフェンと同じ最底辺の仲間たち。同じレベルの仲間と共に絆を深め、一時の平穏を手に入れる
これは、全てを失う少年が最強の力を手に入れ、学園生活を送る物語。
アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~
明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!!
『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。
無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。
破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。
「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」
【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる