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もう一つの異世界召喚
異常な城内
しおりを挟む「どう、なって……んだ……?」
城の中に足を踏み入れたケンヤは、ただただ疑問だけを口に出す。口に出すというより、自然と出たと言った方が正しいだろう。最近は言葉を発する機会がかなり減っていたケンヤでさえ、そう思ってしまうほどの事態。
はっきり言って、異常だ。城に住んでいたときは一時でさえ、内部にいた者が全員いなくなるなんてことはなかった。ましてやここは、いわゆる玄関先……多くの魔族が行き来する場所だ。
そんな場所に、何者もいない……これを異常と言わず、なんと言おう。
ケンヤが城から外に出てから、数えきれない日数が経った。少ない日数でないのは確かだ。とはいえ……それだけの期間で、城が空になることが、果たしてあるだろうか。
それと……誰もいないことに気をとられていたが、それと同じくらい、衝撃を受けることがもう一つ。
「……?」
あちこちが、壊れている……ただ壊れているというわけではなく、正確に言うならば、破壊されている。木のようにもろい扉も、鉄のように硬い壁も……なにもかもが。
まるで、ここで激しい戦闘でもあったかのようだ。ケンヤがいなくなった後、いったいなにがあったのだろうか?
「……だれ、か……」
しかし、ここでなにがあったかは興味がない。ケンヤがここに戻ってきたのは、禁術についてを聞くためだ。誰か一人でも、情報に詳しい者が残っていればいい。
だから、探す。奥へと足を進めていく……やはり、破壊の跡はある。それも、奥に行けば行くほど、破壊の跡は激しくなっているようなのだ。同じ魔族同士で喧嘩でもしたが……それとも、誰かの襲撃を受けたか。
「……しゅ、うげき……か……」
そこまで思い至って、気づく。そうだ、ここには……いや、魔族には、いずれ激しい戦いが起こると、予感があったではないか。それこそが、ケンヤがこの世界に召喚された理由でもあるのだから。
勇者……いずれこの世界に召喚されるという、ケンヤと同じくこの世界にとっての、異世界の人間。アンズ クマガイという名の女性だという話で、魔族を滅ぼすために攻め入ってくるとの予言があった。
その勇者に対抗するために、ケンヤが召喚されたわけで……つまりケンヤがいなければ、勇者に対抗する術はないということだ。術があれば、最初からケンヤを召喚してなどいないだろう。
もしも、ケンヤがここにいない期間の間に、ここに勇者が攻め入ってきて……みんな、殺されてしまったとしたら。そうであれば、この惨状も納得だ。
勇者に攻め入られ、為す術なく全滅した……悪いとは、思わない。元々ケンヤが戦おうと思った一番の理由は、ガルヴェーブだ。彼女いなくして、魔族のために戦おうとは思わない。
ただ……もしそうだとして、疑問が残る。辺りに、まったく死体がないのらなぜだ。あったらあったで困るのだが……この城のすべての魔族を倒して、わざわざ死体を持って帰った? そんなことをする奴はいないだろう。
それに、血もない。戦いが起こったなら、出血は必ず起こるもの。だというのに、血さえも見当たらないのはおかしい。
……なにがあったかは興味がないとは思っても、やはり惨状を目の当たりにすると結局のところ、どうしても考えてしまうものだ。
「……あれ、は……?」
城内を探していく中で、ふとケンヤは足を止める。壊れた景色しかなかったところへ、一つ違ったものが目に入る。これまで人影はまったく見えなかった……しかし、誰かが、倒れている。
これまで、どこにも誰もいなかったのだ。生き残っている者がいるとすれば、朗報だ。ここでなにが起こったかは元より、禁術についても情報を得ることができるかもしれない。
なので、倒れている人物のところへと向かう。そこに、倒れていたのは……
「……! サーズ……」
ケンヤの知っている魔族……どころか、ケンヤが城を出るときっかけを与えることになり、ガルヴェーブを傷つけた張本人、サーズだ。
血だらけの体は、パッと見生きているのかさえ判断に困るほど。だが、わずかに胸元は上下しており……呼吸をしている、つまり生きているのだとわかった。
ガルヴェーブがマド一族だとバラし、追い詰めたのがこいつだ。本来なら、ケンヤ自身の手で殺してやりたいとさえ思える……だが、貴重な情報源だ。まずは起こす必要がある。
「おい、起きろ……」
手で軽く肩を揺すってやるほど、優しくはない。足を肩に置き、揺らす。起きない。強めに揺らす。まだ起きない。
なので、顔を踏んづけてやる。魔族とはいえ女相手にそれはどうかとも思ったが、今のケンヤにはそれを配慮する余裕もない。サーズ相手では、なおさら。
「む……?」
声が、漏れる。それはケンヤのものでもなければ、当然ガルヴェーブのものでもない。となれば、声の主は一人だけで……
「ぅ……」
「気が、ついたか……」
「! ケ……ンヤ、殿……?」
目を覚ましたサーズは、目の前にいる人物に信じられないといった表情を浮かべている。それはそうだろう、とっくに城から出ていったはずの人間だ。
その驚愕の気持ちについてわからないでもないが、その気持ちに付き合ってやれるほどケンヤも暇ではない。
「聞きたいことが……ある。……禁術に、ついて……知ってることを、教えろ」
掠れた声で、口を開く。それはこの場でなにが起こったかの問いではなく、禁術についてを聞き出すために。
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