337 / 522
もう一つの異世界召喚
異常な城内
しおりを挟む「どう、なって……んだ……?」
城の中に足を踏み入れたケンヤは、ただただ疑問だけを口に出す。口に出すというより、自然と出たと言った方が正しいだろう。最近は言葉を発する機会がかなり減っていたケンヤでさえ、そう思ってしまうほどの事態。
はっきり言って、異常だ。城に住んでいたときは一時でさえ、内部にいた者が全員いなくなるなんてことはなかった。ましてやここは、いわゆる玄関先……多くの魔族が行き来する場所だ。
そんな場所に、何者もいない……これを異常と言わず、なんと言おう。
ケンヤが城から外に出てから、数えきれない日数が経った。少ない日数でないのは確かだ。とはいえ……それだけの期間で、城が空になることが、果たしてあるだろうか。
それと……誰もいないことに気をとられていたが、それと同じくらい、衝撃を受けることがもう一つ。
「……?」
あちこちが、壊れている……ただ壊れているというわけではなく、正確に言うならば、破壊されている。木のようにもろい扉も、鉄のように硬い壁も……なにもかもが。
まるで、ここで激しい戦闘でもあったかのようだ。ケンヤがいなくなった後、いったいなにがあったのだろうか?
「……だれ、か……」
しかし、ここでなにがあったかは興味がない。ケンヤがここに戻ってきたのは、禁術についてを聞くためだ。誰か一人でも、情報に詳しい者が残っていればいい。
だから、探す。奥へと足を進めていく……やはり、破壊の跡はある。それも、奥に行けば行くほど、破壊の跡は激しくなっているようなのだ。同じ魔族同士で喧嘩でもしたが……それとも、誰かの襲撃を受けたか。
「……しゅ、うげき……か……」
そこまで思い至って、気づく。そうだ、ここには……いや、魔族には、いずれ激しい戦いが起こると、予感があったではないか。それこそが、ケンヤがこの世界に召喚された理由でもあるのだから。
勇者……いずれこの世界に召喚されるという、ケンヤと同じくこの世界にとっての、異世界の人間。アンズ クマガイという名の女性だという話で、魔族を滅ぼすために攻め入ってくるとの予言があった。
その勇者に対抗するために、ケンヤが召喚されたわけで……つまりケンヤがいなければ、勇者に対抗する術はないということだ。術があれば、最初からケンヤを召喚してなどいないだろう。
もしも、ケンヤがここにいない期間の間に、ここに勇者が攻め入ってきて……みんな、殺されてしまったとしたら。そうであれば、この惨状も納得だ。
勇者に攻め入られ、為す術なく全滅した……悪いとは、思わない。元々ケンヤが戦おうと思った一番の理由は、ガルヴェーブだ。彼女いなくして、魔族のために戦おうとは思わない。
ただ……もしそうだとして、疑問が残る。辺りに、まったく死体がないのらなぜだ。あったらあったで困るのだが……この城のすべての魔族を倒して、わざわざ死体を持って帰った? そんなことをする奴はいないだろう。
それに、血もない。戦いが起こったなら、出血は必ず起こるもの。だというのに、血さえも見当たらないのはおかしい。
……なにがあったかは興味がないとは思っても、やはり惨状を目の当たりにすると結局のところ、どうしても考えてしまうものだ。
「……あれ、は……?」
城内を探していく中で、ふとケンヤは足を止める。壊れた景色しかなかったところへ、一つ違ったものが目に入る。これまで人影はまったく見えなかった……しかし、誰かが、倒れている。
これまで、どこにも誰もいなかったのだ。生き残っている者がいるとすれば、朗報だ。ここでなにが起こったかは元より、禁術についても情報を得ることができるかもしれない。
なので、倒れている人物のところへと向かう。そこに、倒れていたのは……
「……! サーズ……」
ケンヤの知っている魔族……どころか、ケンヤが城を出るときっかけを与えることになり、ガルヴェーブを傷つけた張本人、サーズだ。
血だらけの体は、パッと見生きているのかさえ判断に困るほど。だが、わずかに胸元は上下しており……呼吸をしている、つまり生きているのだとわかった。
ガルヴェーブがマド一族だとバラし、追い詰めたのがこいつだ。本来なら、ケンヤ自身の手で殺してやりたいとさえ思える……だが、貴重な情報源だ。まずは起こす必要がある。
「おい、起きろ……」
手で軽く肩を揺すってやるほど、優しくはない。足を肩に置き、揺らす。起きない。強めに揺らす。まだ起きない。
なので、顔を踏んづけてやる。魔族とはいえ女相手にそれはどうかとも思ったが、今のケンヤにはそれを配慮する余裕もない。サーズ相手では、なおさら。
「む……?」
声が、漏れる。それはケンヤのものでもなければ、当然ガルヴェーブのものでもない。となれば、声の主は一人だけで……
「ぅ……」
「気が、ついたか……」
「! ケ……ンヤ、殿……?」
目を覚ましたサーズは、目の前にいる人物に信じられないといった表情を浮かべている。それはそうだろう、とっくに城から出ていったはずの人間だ。
その驚愕の気持ちについてわからないでもないが、その気持ちに付き合ってやれるほどケンヤも暇ではない。
「聞きたいことが……ある。……禁術に、ついて……知ってることを、教えろ」
掠れた声で、口を開く。それはこの場でなにが起こったかの問いではなく、禁術についてを聞き出すために。
0
お気に入りに追加
154
あなたにおすすめの小説

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?
お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。
飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい?
自重して目立たないようにする?
無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ!
お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は?
主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。
(実践出来るかどうかは別だけど)
完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-
ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。
自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。
そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。
安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。
いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して!
この世界は無い物ばかり。
現代知識を使い生産チートを目指します。
※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。
神々の間では異世界転移がブームらしいです。
はぐれメタボ
ファンタジー
第1部《漆黒の少女》
楠木 優香は神様によって異世界に送られる事になった。
理由は『最近流行ってるから』
数々のチートを手にした優香は、ユウと名を変えて、薬師兼冒険者として異世界で生きる事を決める。
優しくて単純な少女の異世界冒険譚。
第2部 《精霊の紋章》
ユウの冒険の裏で、田舎の少年エリオは多くの仲間と共に、世界の命運を掛けた戦いに身を投じて行く事になる。
それは、英雄に憧れた少年の英雄譚。
第3部 《交錯する戦場》
各国が手を結び結成された人類連合と邪神を奉じる魔王に率いられた魔族軍による戦争が始まった。
人間と魔族、様々な意思と策謀が交錯する群像劇。
第4部 《新たなる神話》
戦争が終結し、邪神の討伐を残すのみとなった。
連合からの依頼を受けたユウは、援軍を率いて勇者の後を追い邪神の神殿を目指す。
それは、この世界で最も新しい神話。

大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います
町島航太
ファンタジー
2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。
sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。
目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。
「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」
これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。
なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった〜
霞杏檎
ファンタジー
祝【コミカライズ決定】!!
「使えん者はいらん……よって、正式にお前には戦力外通告を申し立てる。即刻、このギルドから立ち去って貰おう!! 」
回復術士なのにギルド内で雑用係に成り下がっていたフールは自身が専属で働いていたギルドから、何も活躍がないと言う理由で戦力外通告を受けて、追放されてしまう。
フールは回復術士でありながら自己主張の低さ、そして『単体回復魔法しか使えない』と言う能力上の理由からギルドメンバーからは舐められ、S級ギルドパーティのリーダーであるダレンからも馬鹿にされる存在だった。
しかし、奴らは知らない、フールが【魔力無限】の能力を持っていることを……
途方に暮れている道中で見つけたダンジョン。そこで傷ついた”ケモ耳銀髪美少女”セシリアを助けたことによって彼女はフールの能力を知ることになる。
フールに助けてもらったセシリアはフールの事を気に入り、パーティの前衛として共に冒険することを決めるのであった。
フールとセシリアは共にダンジョン攻略をしながら自由に生きていくことを始めた一方で、フールのダンジョン攻略の噂を聞いたギルドをはじめ、ダレンはフールを引き戻そうとするが、フールの意思が変わることはなかった……
これは雑用係に成り下がった【最強】回復術士フールと"ケモ耳美少女"達が『伝説』のパーティだと語られるまでを描いた冒険の物語である!
(160話で完結予定)
元タイトル
「雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜でも、ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった。噂を聞いたギルドが戻ってこいと言ってるがお断りします〜」

日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる