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もう一つの異世界召喚
行く宛もないけれど
しおりを挟む……行く宛もなく歩く道。ここにケンヤとガルヴェーブがいることなど、二人以外は誰も知るまい。仮に知っていたとしても、城から離れたこの場所まで、わざわざ追っ手がくるとは思えない。
それに、目的地がないというのは、逃げる者にとってはメリットに働く場合もある。追っ手に対して道筋を予測させず、あまり深く考えすぎる必要もない。
「わ、また魔物」
こうして外を歩いていると、ちょくちょく魔物を見かける。ケンヤのいた世界で言う、野性動物のようなものだろうか。まああの世界では、文明が発達しすぎて野性動物を見ることは、あまりなくなったが。
この世界……少なくともこの土地に文明というものはなく、そのせいか魔物の数が多い。きっと自然が多ければ、動物だってのびのび暮らしていたのかもしれない。
魔物は時折、こちらを睨み付けてくる。唸っている姿は、威嚇だろうか……しかし、どの魔物も襲ってくることはなかった。どころか、ケンヤが魔物を見ると魔物は逃げていってしまうのだ。こちらは睨んでいないのに。
なぜかはわからなかったが、ガルヴェーブ曰くケンヤの魔力に臆して逃げてしまったのでは、ということらしい。
ケンヤ自身自覚はないが、この世界に来てからやってきた訓練によって、魔力を手に入れるどころかそれは魔物程度では相手にもならないくらい、大きくなっている。
実際に魔物を倒したわけではないから、わからないが。だが……
「離れた場所への移動……それも二人をなんて、並の魔力量でできることではありせん」
ガルヴェーブが言うには、城からここまで離れた距離に移動したこと自体が、ケンヤの魔力の量の大きさを表しているらしい。本人が移動するだけならまだしも、他者も同時に移動させるのは、並大抵の魔力ではないと。
ケンヤは、訓練以外では魔力を使ったことはない。訓練は当然、本気のぶつかり合いという段階ではなかったので……ケンヤは、己の本気を知らない。
それでも、ガルヴェーブの話が正しければ、そこらを闊歩してる魔物相手になら余裕で勝てるということだ。まあ、襲われるわけではないし、敢えてこちらから魔物相手に腕試しをするつもりはないが。
(それに、ガルヴェーブも相当強いみたいだし)
魔力の強さ云々に関しては自覚がないケンヤだが……最近になって、他人の魔力の大きさを感じ取れるようになったのだ。それが、ケンヤ自身の魔力が上昇したことによるものなら、納得だ。
魔力が高まったことで、同じく魔力を持つ者に干渉できるようになった……と。
ガルヴェーブは、おそらくあの四天王と同等かそれ以上の力を持っている。だが……力が大きいイコール強いと判断するのは軽率だ。現に、魔力の低いサーズにボロボロにされていた。
あの時あの部屋でなにがあったのか、見てはいない。が、サーズは透明になれる能力を持っていた。その能力を駆使して、油断していたガルヴェーブに襲いかかったというところだろう。
ガルヴェーブが万全なら、たとえあの数の魔族に囲まれても抵抗できたはずだ。……いや、もしかしたら……同じ魔族だから、なにもできなかったかもしれない。彼女は、優しいから……
「ケンヤ様?」
黙ってしまったケンヤを心配し、ガルヴェーブが顔を覗きこむ。体はボロボロではあるが、ケンヤが手を引いてくれているし、さりげに歩く速度を合わせてくれているから、離れる心配はない。
そのガルヴェーブの態度に対して、ケンヤはなんでもないよと首を横に振る。
「ちょっとした考え事だよ、たいしたことじゃない」
「……すみません、私のせいで……こんな……」
しかし、ガルヴェーブは考え事の理由が自分にあると考えたのか、表情を暗くする。実際、考え事の半分は彼女が襲われたときの様子を指していたため、あながち間違いではないのだが……
「や、違うって! 俺の魔力、そんな強いのかーって……それだけだから!」
「しかし……」
彼女に暗い表情をしてほしくなく、ケンヤは慌てたように首を振る。責任感の強い彼女のことだ、今彼女自身が言ったように、このような場所でこのようなことになっているのは自分のせいだ、と思っているに違いない。
まあ事実として、それは間違いではない。原因だけを言えば、ガルヴェーブがマド一族だとバレたから、城を出ることになった。だが……
「……それに、原因になにがあったにせよ、城を出るって決断をしたのは俺だよ。結果的に、城から離れた場所まで移動したけど、俺はよかったって思ってる。だから、自分のせいだって自分を責めないで」
ガルヴェーブの出自に問題があろうと、そのことで彼女を責める連中を、ケンヤはもう愛せない。彼女の一族がなにをしたのかそれは聞いたし、それがこの世界の者たちにとって許されないことだというのも、わかっているつもりだ。
確かにケンヤは、この世界の人間ではないから。サーズの言うように、この世界の者とは根本的な考え方の違いはあるのかもしれない。けど……
本人はなにも悪いことをしていないのに、過去大罪を犯した血を引いているというだけで……彼女を、ガルヴェーブを非難することも、非難されるのを黙って見ていることも、できない。
だから、これでいい。ガルヴェーブと繋いだ手を強く握り直し、ケンヤは進む。進む先にようやく見えた、街を目的地と定めて。
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