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もう一つの異世界召喚

先祖がしたこと

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 マドという一族が、犯した罪……それは確かに、口にするのも恐ろしいであろう事柄であった。

 呪術という、危険な力……ケンヤはまだその力を見たことがないが……を、生み出した一族。その力は、術者の体を蝕むだけでなく、一歩間違えれば周りの人間にも多大な被害を与える。

 しかも、呪術は武器にも宿る。呪われた力が、武器に。人でも武器でも、呪術という力はどこに潜んでいるか、わからない。

 たとえば、人体をも焼き付くす炎。たとえば、斬られた者の自我を奪う剣。たとえば、なんであろうと切り裂く風の刃。……生み出された呪術は、その場にいた者を呪いの力で犯し……どこへともなく、消えたのだという。

 各地で相次ぐ、呪術という力の正体。始まりは、マド一族が生み出したもので、それが各地へと表れた。


「……呪術に、精霊殺し、か。精霊なんてのも、この世界にいるんだ」


 呪術を生み出したことだけではない、マド一族が犯した罪は。もう一つ、大きなもの……精霊を、殺したということだ。


「はい……この世界には、四つの属性を持つ精霊がいます。世に、四大精霊と呼ばれる存在……火の精霊、サラマンダー。水の精霊、ウンディーネ。地の精霊、ノーム。風の精霊、シルフ。それぞれ、この世に恵みをもたらす存在として、在り続けているのです」

「四大精霊ね……で、そのうちの一つ、水の精霊ってやつを、殺してしまったと」


 精霊とは、基本的には不死であるらしい。精霊なんてそんな概念みたいな存在、不死だと言われても不思議はないが……不死でも、完全にそうではないらしい。

 呪術という力は、不死の精霊をも殺した。それにより、マド一族はさらなる怒りを、買うことになったと。


「呪術という忌むべき力を生み出したマド一族は、人々、魔族、そして精霊から命を狙われました。その血を、絶やすために」

「そんなん、もう世界を敵に回してるようなもんじゃないか。……よく逃げられたな」

「奇跡のようなものですが」


 呪術を生み出したこと、精霊殺し……その二つが、マド一族の罪。精霊殺しも呪術により行われたことなので正確には一つだが。

 …………この時点のケンヤとガルヴェーブは知るはずもないが、水の精霊ウンディーネはアンズと戦い、呪術を忌々しい力だと切り捨てている。その根元が、マド一族の罪。呪術の力は、実体のない水をも殴り、ダメージを与えた。

 精霊に呪術という力は恨まれている。


「……そっ、か。そうなんだ……ルヴの先祖が、そんなことをねぇ」

「はい……」

「けど、なんでわざわざ俺に話したの? そんなん、自分の胸の内にしまっとけばいいじゃん……俺はその、マドは一族ってのも知らないけどさ。知らないから、聞いてもひどいって思うだけで怒りはない。でも、知らないから話さなくても問題はないだろ?」


 ガルヴェーブが、なぜ自身の、重大な秘密を話したのか。それがケンヤにはわからなかった。

 話した理由は、まだ理解できる。ケンヤがこの世界の人間ではないからだ。過去になにがあったか、知らないし知ってもだからどうしようとするわけでもない。

 だからこそ、なぜ話さなくてもいいケンヤに、話したのか。それが、わからなくて……


「……なぜ、でしょうか。……すみません、わからないんです。ケンヤ様には、話しておいた方が……いや、話したいと、思ったんです」


 そしてわからないのは、ケンヤだけでなく……話した張本人である、ガルヴェーブも同じようだった。

 だがまあ……この世界の人間ではないとはいえ、こんな大事な話をしてくれるということは、それだけ信頼してくれているということだろう。ありがたいことだ。


「そっか、なんか妙な感じ……それはそれとして、ルヴ、弟がいたんだな。さっきも言ったけど」

「はい。と言っても、今はどこでなにをしているのやら……」

「あれ、ここにいないの?」


 ガルヴェーブには、弟がいる。しかし、今どこで、なにをしているのかわからないというのだ。

 それは、つまりこの魔王城……いや、この土地にはいないということだ。


「昔、弟と離ればなれになってしまい……今日に至るまで、再会することもなかったのです。生きているとは、思いますが……結構、しぶといですから」

「そっか、それならいいんだけど……ルヴの弟ってんなら、会ってみたかったけど。どこにいるかわからないんじゃ、仕方ないか。えっと、確か名前が……」

「ガニムです」


 ガルヴェーブの弟、ガニム……ガニム・マキトロニア。正確には、ガニム・マド・マキトロニア。

 昔生き別れた形になり、今はどこでなにをしているのか、生死さえも不明だという。しかし、きっと生きている。それは希望というより、どこか確信があるようだ。

 しかし、世界は広いとはいえ……どこに、いるというのだろう。人里にいけば騒ぎになるだろうから、ひっそりと暮らしているのだろうか。

 彼も、自身の名前に忌み名が含まれているということは知っているらしい。だから、おいそれ口にして、追われるようなことはないだろう。


「あの子は、きっと無事……ですが、勇者が召喚され、この世界が混乱に陥るその前に。見つけ出したいとは、考えています」


 やはり心配なのだろう……ガルヴェーブは、強い口調で、弟を探しだすと話す。
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