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もう一つの異世界召喚
魔族を束ねる者
しおりを挟む勇者の召喚日時がわかったケンヤは、いっそうに熱が入っていた。アンズ クマガイという名の人物が、ここにいる魔族たちを滅ぼしに来るのだ。
名前からして、女であろう。しかし、いくら女であっても……ここにいる魔族たちに手を出そうものなら、俺は……と、ケンヤは相手が何者であっても、たとえ力付くになっても止めることを、固く心に決めていた。
ここにいるのは魔族で、自分は人間。種族は違うが、ここにいるのは全員仲間だと、ケンヤは感じていた。姿形がおぞましかろうと、関係ない。
最初こそ、うまくいかないと感じていたときもある。自分を認めまいとしていた四天王はもちろんのこと、表面的にはケンヤに絶大な期待を寄せていると思っていたたくさんの魔族だって、実はケンヤのことを見下していた節もある。
予言は絶対。過去に同じ実績もある。異世界から人間を召喚し、勇者を止める……だから、ケンヤの出現にも前向きな声が多かった。が、それでもやはり、蓋を開けば完全なる善意でケンヤを歓迎している者など、少なかった。
期待はある。が、人間が自分たちを滅ぼそうとしているのに、人間の力を借りなければならないなどと。それは、どうしようもなく認めがたい……矛盾となっていた。
人間を、本気で信じてもいいものか……その気持ちが、大部分だった。人間など、姿形が違うだけで、思想が違うだけで、同じ人間同士ですら争いの絶えない種族だ。そんな存在を、どう信じろというのだ。
しかし……日々、努力するケンヤの姿は、一人、また一人の心を動かしていった。異世界という場所に放り出されて、ただ一人……それも、自分の得にもならないことのために、自分の力を磨く姿に。
ケンヤも魔族も、日を追うごとに、歩みを近づけていった。種族を、世界を越えた友情が、芽生えていった。
「ケンヤ様、どうぞ」
「あ、どうも」
ピールや訓練してくれる四天王以外にも、たとえばすれ違い時に魔族と挨拶を交わすようになったり、言葉を交わすことは増えた、が……この世界に来て、一番言葉を交わしたのは、このガルヴェーブだ。
ケンヤを召喚した張本人であり、召喚された者としては、召喚者と多く会話を交わすのは必然ともいえるだろう。話して一番心が休まる相手でもある。
ガルヴェーブは、ケンヤに対してどう思っているのかいまいちわからないが。次期魔王であり、自身が召喚したとはいえ敬うべき相手……そんなところだろうか。
友人というのも違うし……かといって、四天王ように別にガルヴェーブに訓練してもらっているわけでもないから師匠的な立場でもない。表現するのが、難しいところだ。
結局、ガルヴェーブがどれくらい強い魔族なのかは不明なままだ。よくゲームなんかで耳にする四天王という位置のあの四人は、かなり強いんだろうが……その四人に、臆することなく接している。
強いのか、それとも立場が偉いのか……考えてみれば、異世界の人間であるケンヤを召喚した時点で、魔力が低いはずはないのだ。
ともあれ彼女との空間は、ケンヤにとっては心休まるものへと、なっていた。
「はー、いつまでもこう平和だといいんだけどな」
魔族とは野蛮なものというイメージは、日を追うごとに薄れていった。イメージはただのイメージ……口喧嘩や軽い組み合いくらいはあるが、大きな争いというものはない、
だから、人間が魔族を滅ぼしに、勇者を召喚して攻めてくるなんて……本当に起こるのだろうか、と思ってしまうこともある。それほどまでに、平和な時間。
「そうも、いきませんよ。予言は的中確実ですから」
「わかってるって」
実はケンヤが召喚されてから、小さな予言があったりもした。たとえば今日の晩御飯はこれだとか、明後日の昼御飯はこれだとか……ホントに小さな、それもご飯関係ばかりであるが。
予言といっても、その範囲は大小様々だ。勇者召喚という一大に大きなものもあれば、今日明日わかるような小さなものもある。そのすべてが、的中している。
予言がみんなに信じられているのは、予言したすべてが大小関わらず当たっているからだ。
だから、人間は必ず来る……魔族を、滅ぼしに。
「この世界の人間か……」
魔族側とはいえ、人間であるケンヤは、人間の里に行ってもバレないのではないか、と考えたことはあったが……そうは、しなかった。
それは、人間の里とは距離がかなり離れているというのが大きい。歩いて行こうものなら、長い旅路を覚悟しなければならない。
それに、知らないほうが……集中できる。どんな性格か、知ってしまえばいざというとき、決断が鈍る可能性がある。
ケンヤがするのは、ただ人間側の猛攻を食い止めること。なにも殺すなんて物騒なことをするわけではないのだ。食い止めて、そこで話をすればいい。魔族とは悪い奴ではないと。それを人間であるケンヤが訴えることで、相手も聞く耳を持つだろう。
今の魔王は、当然魔族であり歳らしい。勇者が召喚され、攻め込んでくる頃には……次の魔王となったケンヤが、迎え撃つことになる。次の魔王といっても、なにもケンヤが魔族になるわけではない。
魔族を束ねる者という意味でのものだ。王とは、なんとも重い肩書きであるが……ガルヴェーブもサポートしてくれるし、気負う必要は、ないだろう。
……そして、勇者召喚のときが……近づく。
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