異世界召喚され英雄となった私は、元の世界に戻った後異世界を滅ぼすことを決意した

白い彗星

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もう一つの異世界召喚

予言

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 自分がこの世界に召喚された。要因の一つ……それは、元の世界に対して未練がないことだろう。ケンヤは、そう推測していた。

 しかし、それはあくまでも要因の一つに過ぎない。結局、勇者を止める力を持っていなければ、選ばれはしないだろう。それに……


「未練がない、ですか……確かにそれは、選ばれるに値する理由ですね」


 ガルヴェーブも、その推測に異論はないようだ。


「しかし……勇者を止めた後、望みであれば元の世界に帰すことも可能ですよ?」


 ……とはいえ、なにも、この世界で一生を過ごすわけではないのだ。望まぬならばなおのこと。役目が果たされれば、もうこの世界にいる必要はない。

 元の世界に未練はないとはいっても、だからといってずっとこの世界にいるわけにも、いかないだろう。


「別に俺は、この世界で暮らしてってもいいんだけどなー」

「おや、ずいぶん適応されましたね。初めの頃はおどおどしていたのに」

「適応……かはともかくさ。元の世界に戻っても、くそみたいな人生を送るだけだし。ならいっそ、ここで新しい自分を……」


 椅子に座り、ケンヤは天井を仰ぐ。これは、紛れもない本心だ。本気で、この世界で過ごしていってもいいと思っている。

 もしも本人が、強くそう願うのならば……ガルヴェーブも、無理に帰すわけにもいかないが。以前召喚した人間は、勇者との激突の後、元の世界に戻ったと言われているし……

 そんなことを考えていたときだ。


 コンコン


 部屋の戸を、ノックする音が響く。現在この部屋にいるのは、ケンヤとガルヴェーブのみ。そしてここは魔族しかいない土地……訪ねてくるのも、魔族しかいないということだ。

 いくら魔族に受け入れられているとはいえ、ケンヤは緊張してしまう。誰もが、ガルヴェーブのように温厚ではないだろうし……怖い魔族だったらどうしようかなど、様々な考えが浮かんでは消える。

 直後、扉が開く。部屋の中に入ってきたのは、四人の魔族だ。どいつもこいつも、凶悪な面をしている。


「ケンヤ様、こちら、魔王様に仕える四天王です」

「へー」


 どうやらこの四人の魔族は、四天王と呼ばれる存在らしい。そんなもの、ゲームの中だけの話かと思っていたが……実際に、いるようだ。

 四天王というからには、相当の強さなのだろうなとは思う。もっとも、ケンヤにとっては四天王であろうが一魔族であろうが、たいして変わらないだろうが。


「この四人には、これからケンヤ様を鍛えていただきます」

「へー……へ!?」


 ガルヴェーブの話によると、次期魔王になる者として……いや、勇者を食い止める存在として、ケンヤにも相応の力を付けてもらわねばというものだった。

 その言い分はわかる。だが……いきなりこんな、強面四人となんて……


「いや、そんないきなり……」

「おいおい、こんなひょろっちいのがホントに次期魔王候補なのか?」

「だはは、ひょろっちいってお前……!」


 いきなりすぎる物言いに断ろうとしたところへ、下品な笑い声が響く。それは、目の前の四人の魔族が、ケンヤに向けたものだ。

 先ほどの魔族たちとは、まるで態度が違う。


「あなたたち……!」

「言っておくが人間、過去の実績か予言かなんだか知らねえが……」

「いきなり出てきた人間の、小僧なんかに従うと思うなよ」


 ……それは、ある意味で当然の展開だ。自分たちと種族も違う、こんな子供が自分たちの王だと言われて。全員に受け入れられるはずもない。

 しかもケンヤは、望んでそんな立場になっていたわけではない。現実を思い知らされた感覚に、早くも先程感じていた前向きな姿勢は、崩れかけていた。

 こんな強面の連中に、家族以外と話をしてこなかったケンヤが、まっすぐに立ち向かうには少々荷が重すぎて……


「……いい加減にしなさい。あなたたちは、自分の使命だけを果たせばいいのです」

「……」


 ゲラゲラ笑う四人を諫めたのは、ガルヴェーブだった。彼女の威圧感は先程までの柔らかなものはなく、ただ肌を刺すようなもの。

 それを受け、笑っていた四人はピタリと静かになった。四天王というからには、この四人は魔王の次に強いのではないのだろうか。

 いったい、彼女は……


「……かぁ、わかったよ」


 渋々といった形だが、四人は己の使命……つまり、ケンヤを鍛え上げることを承諾する。

 そこへ、再び扉が叩かれる。中へ入るよう促され、入ってきたのは……


「あぁ、ピールじゃねえか」


 ピールと呼ばれた魔族の女性だ。彼女もガルヴェーブと同じく、基本的に人間のようなシルエットをしている……足以外は。

 黒い肌に、右目を隠すほど長い髪。それはいい。問題は足……膝から先が、ないのだ。切断されているとか、そういうのではない。というか、本来あるべき足の部分が、煙のようになっている。まるで、お化けのように。

 これ魔族ってよりお化けじゃね? とケンヤは思った。


「やや、これはケンヤ様。私予言氏のピールと申します」

「あ、どうも」


 若そうな見た目に比べ、少ししゃがれた声だ。なるほど彼女が、いる。予言の一族という……その一人か。

 ガルヴェーブに比べると幼い……まあ、魔族の年齢が人間と同じく、見た目相応かは置いといて。


「どうしたのです、ピール」

「実はこの度、新たな予言がありまして。人間側が召喚する勇者の、名前です」


 ピールは、四天王にも臆することなく部屋の中央へと足を進めていく。足はないが。

 新たな、予言というものを話すために。


「勇者の、名前……?」

「はい、その名を……アンズ クマガイというようです」
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