308 / 522
もう一つの異世界召喚
未練なんかない
しおりを挟む過去、人間側は異世界より勇者を召喚した。そして、その力を持って魔族をことごとく滅ぼしていった。その理由は、魔族が異形であるがゆえ。
異世界から召喚された勇者の力は、本来人間の倍以上の腕力を持ち、魔力を宿す魔族を簡単に倒していった。対抗する手立てがなくなるほどに、勇者の力はすさまじいものがあった。
このままでは、魔族はそのすべてを滅ぼされてしまう。そんなときだ……異世界から召喚された勇者に対抗するために、魔族側も異世界から対抗する存在を召喚すべきだと、予言があったのは。
それを予言したのは、数ある魔族の中でも未来のことを予言する一族であった。勇者を止めるには、こちらも異世界から人間を呼ぶしかない……と。
その予言一族は、魔族の中では知らない者がいないほどに有名だ。その一族が予言したものは、なんであれ的中している。魔族の数の急激な増加、次期魔王の誕生、世界を揺るがす大地震……人間側が異世界より勇者を召喚するというのも、予言されていたことだ。
だがあくまで予言は予言。予言されたことに対処はできても、起こらないことにはできない。予言されたものは、必ず起こる未来……予言された時点で覆ることはないのだと、そういう見方もできる。
とはいえ、予言とはやろうと思ったときにできるものではない。たとえば危機を知らせるとき、なにかの前兆があったとき……予言は、される。
人間が勇者を異世界から召喚するという予言はあった。だが、その先のことはわからない……まさか、勇者を筆頭に攻めてくるなんて、そんな大それた真似をするなんて、考えもしなかった。
だから、勇者に対抗するための予言がされたとき……すでに、魔族の半数以上が滅んでいた。
予言は必ず的中する。異世界より人間を召喚すれば、その人物が勇者を止めてくれる。それが予言……やらない理由など、ない。幸いに、異世界への召喚方法はわかっている。
だが、いくら的中率100%の予言とはいえ……魔族である自分たちが人間を召喚し、それも人間の勇者を止めるためにというのに、少なからず反発はあった。人間のせいで滅びの道を辿っているのに、人間に助けてもらうなど。
それでも……理屈では、ない。方法はそれしかないのだ。だから先祖たちは、異世界から人間を召喚し……その者は、勇者を食い止めるに成功した。これが、後世に語り継がれている。
「……そんな、ことが……」
ガルヴェーブから一通りの話を聞いたケンヤは、はっとため息を漏らす。聞いた限りの話では、先に仕掛けてきたのは人間だ。
魔族は、人間に対しなにもしていない。なのに、ただ異形というだけで。今回も、またそのようなことが起こるかもしれない。
だから今回……人間側より先手を打つ形で、ケンヤは召喚された。
「でも……はっきり言うけど、俺は勇者を止められるなんてたいそうなことができるとは思わないぞ。そんなすごい力なんて、ないし……こんな、引きこもりに……なにが」
「引き……? ……言ったはずです、ケンヤ様が選ばれたのは、適正があったからです。以前召喚された人間も、人間にして魔力を使い、勇者と渡り合ったといいます」
「ふーん……」
よくある、異世界ものの物語。それでは、召喚された者がなにかしらチート能力を授けられるといったものだ。つまり、それがケンヤにも適応されているということだろうか。
今のところ、特に変わったことはない。不思議な力に目覚めたとか、いきなり筋力が上がったとか。
しかしまあ、適正があると言われたからには、なにかしらあるのだろうと、思う。
「しかし……申し訳、ありません」
「へ?」
手を握っては開いたり、肩を回していたケンヤへ……ガルヴェーブが、いきなり頭を下げてくる。いきなり謝られるようなことなんて、してはいないと思うが……
「ケンヤ様にも、ご自身の生活があるでしょう。それを……」
「あー……」
つまりは、ケンヤを勝手にこの世界に召喚したことを、詫びているのだろう。その点を、こちらから突っ込む前に詫びるとは……魔族というと人でなしの印象があったが、なんと誠実な人だろう。人じゃないが。
誰を召喚するかは、指定することはできない。彼女が言っていたように、適正により選ばれるものだ。
「いや、気にしなくていいよ。……どうせ、俺が消えても、誰もなんとも思わないだろうし」
だから……この世界に召喚されても、問題のない人物。それも、選ばれる適正の一つであったのかもしれない。
たとえばちゃんと学校に登校しているような、人付き合いの得意な子がいきなりいなくなれば、大きな問題となるだろう。
だがケンヤの場合、引きこもりゆえ外部との接触はない。話すのは家族だけ……ではあるが、実際は家族との関係だって決して良好なものとは言えない。
いなくなっても、誰も困らない。……いや、そんな問題ではないのかもしれない。それはあくまで、誰も困らないという予想だ。実際には、子供がいなくなって騒がない親なんて滅多にいない。
そんな、他者がどうこうの問題ではなく。もっと本人の深層心理……それを見抜いて……
「俺は元の世界に、未練なんかないから」
……元の世界に、未練のない人物。それこそが、きっと一番の理由なのだと、ケンヤはそう思ったのだ。だから、ガルヴェーブに気にしなくていいと言ったのは、強がりではない。
紛れもない、本心だ。
0
お気に入りに追加
154
あなたにおすすめの小説

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?
お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。
飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい?
自重して目立たないようにする?
無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ!
お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は?
主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。
(実践出来るかどうかは別だけど)
『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?
釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!
父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。
その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。
最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。
その他、多数投稿しています!
https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394
転生したら死んだことにされました〜女神の使徒なんて聞いてないよ!〜
家具屋ふふみに
ファンタジー
大学生として普通の生活を送っていた望水 静香はある日、信号無視したトラックに轢かれてそうになっていた女性を助けたことで死んでしまった。が、なんか助けた人は神だったらしく、異世界転生することに。
そして、転生したら...「女には荷が重い」という父親の一言で死んだことにされました。なので、自由に生きさせてください...なのに職業が女神の使徒?!そんなの聞いてないよ?!
しっかりしているように見えてたまにミスをする女神から面倒なことを度々押し付けられ、それを与えられた力でなんとか解決していくけど、次から次に問題が起きたり、なにか不穏な動きがあったり...?
ローブ男たちの目的とは?そして、その黒幕とは一体...?
不定期なので、楽しみにお待ち頂ければ嬉しいです。
拙い文章なので、誤字脱字がありましたらすいません。報告して頂ければその都度訂正させていただきます。
小説家になろう様でも公開しております。

転売屋(テンバイヤー)は相場スキルで財を成す
エルリア
ファンタジー
【祝!第17回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞!】
転売屋(テンバイヤー)が異世界に飛ばされたらチートスキルを手にしていた!
元の世界では疎まれていても、こっちの世界なら問題なし。
相場スキルを駆使して目指せ夢のマイショップ!
ふとしたことで異世界に飛ばされた中年が、青年となってお金儲けに走ります。
お金は全てを解決する、それはどの世界においても同じ事。
金金金の主人公が、授かった相場スキルで私利私欲の為に稼ぎまくります。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

俺が死んでから始まる物語
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。
だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。
余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。
そこからこの話は始まる。
セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕

【本編完結済み/後日譚連載中】巻き込まれた事なかれ主義のパシリくんは争いを避けて生きていく ~生産系加護で今度こそ楽しく生きるのさ~
みやま たつむ
ファンタジー
【本編完結しました(812話)/後日譚を書くために連載中にしています。ご承知おきください】
事故死したところを別の世界に連れてかれた陽キャグループと、巻き込まれて事故死した事なかれ主義の静人。
神様から強力な加護をもらって魔物をちぎっては投げ~、ちぎっては投げ~―――なんて事をせずに、勢いで作ってしまったホムンクルスにお店を開かせて面倒な事を押し付けて自由に生きる事にした。
作った魔道具はどんな使われ方をしているのか知らないまま「のんびり気ままに好きなように生きるんだ」と魔物なんてほっといて好き勝手生きていきたい静人の物語。
「まあ、そんな平穏な生活は転移した時点で無理じゃけどな」と最高神は思うのだが―――。
※「小説家になろう」と「カクヨム」で同時掲載しております。
解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る
早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」
解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。
そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。
彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。
(1話2500字程度、1章まで完結保証です)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる