異世界召喚され英雄となった私は、元の世界に戻った後異世界を滅ぼすことを決意した

白い彗星

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もう一つの異世界召喚

未練なんかない

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 過去、人間側は異世界より勇者を召喚した。そして、その力を持って魔族をことごとく滅ぼしていった。その理由は、魔族が異形であるがゆえ。

 異世界から召喚された勇者の力は、本来人間の倍以上の腕力を持ち、魔力を宿す魔族を簡単に倒していった。対抗する手立てがなくなるほどに、勇者の力はすさまじいものがあった。

 このままでは、魔族はそのすべてを滅ぼされてしまう。そんなときだ……異世界から召喚された勇者に対抗するために、魔族側こちらも異世界から対抗する存在を召喚すべきだと、予言があったのは。

 それを予言したのは、数ある魔族の中でも未来のことを予言する一族であった。勇者を止めるには、こちらも異世界から人間を呼ぶしかない……と。

 その予言一族は、魔族の中では知らない者がいないほどに有名だ。その一族が予言したものは、なんであれ的中している。魔族の数の急激な増加、次期魔王の誕生、世界を揺るがす大地震……人間側が異世界より勇者を召喚するというのも、予言されていたことだ。

 だがあくまで予言は予言。予言されたことに対処はできても、起こらないことにはできない。予言されたものは、必ず起こる未来……予言された時点で覆ることはないのだと、そういう見方もできる。

 とはいえ、予言とはやろうと思ったときにできるものではない。たとえば危機を知らせるとき、なにかの前兆があったとき……予言は、される。

 人間が勇者を異世界から召喚するという予言はあった。だが、その先のことはわからない……まさか、勇者を筆頭に攻めてくるなんて、そんな大それた真似をするなんて、考えもしなかった。

 だから、勇者に対抗するための予言がされたとき……すでに、魔族の半数以上が滅んでいた。

 予言は必ず的中する。異世界より人間を召喚すれば、その人物が勇者を止めてくれる。それが予言……やらない理由など、ない。幸いに、異世界への召喚方法はわかっている。

 だが、いくら的中率100%の予言とはいえ……魔族である自分たちが人間を召喚し、それも人間の勇者を止めるためにというのに、少なからず反発はあった。人間のせいで滅びの道を辿っているのに、人間に助けてもらうなど。

 それでも……理屈では、ない。方法はそれしかないのだ。だから先祖たちは、異世界から人間を召喚し……その者は、勇者を食い止めるに成功した。これが、後世に語り継がれている。


「……そんな、ことが……」


 ガルヴェーブから一通りの話を聞いたケンヤは、はっとため息を漏らす。聞いた限りの話では、先に仕掛けてきたのは人間だ。

 魔族は、人間に対しなにもしていない。なのに、ただ異形というだけで。今回も、またそのようなことが起こるかもしれない。

 だから今回……人間側より先手を打つ形で、ケンヤは召喚された。


「でも……はっきり言うけど、俺は勇者を止められるなんてたいそうなことができるとは思わないぞ。そんなすごい力なんて、ないし……こんな、引きこもりに……なにが」

「引き……? ……言ったはずです、ケンヤ様が選ばれたのは、適正があったからです。以前召喚された人間も、人間にして魔力を使い、勇者と渡り合ったといいます」

「ふーん……」


 よくある、異世界ものの物語。それでは、召喚された者がなにかしらチート能力を授けられるといったものだ。つまり、それがケンヤにも適応されているということだろうか。

 今のところ、特に変わったことはない。不思議な力に目覚めたとか、いきなり筋力が上がったとか。

 しかしまあ、適正があると言われたからには、なにかしらあるのだろうと、思う。


「しかし……申し訳、ありません」

「へ?」


 手を握っては開いたり、肩を回していたケンヤへ……ガルヴェーブが、いきなり頭を下げてくる。いきなり謝られるようなことなんて、してはいないと思うが……


「ケンヤ様にも、ご自身の生活があるでしょう。それを……」

「あー……」


 つまりは、ケンヤを勝手にこの世界に召喚したことを、詫びているのだろう。その点を、こちらから突っ込む前に詫びるとは……魔族というと人でなしの印象があったが、なんと誠実な人だろう。人じゃないが。

 誰を召喚するかは、指定することはできない。彼女が言っていたように、適正により選ばれるものだ。


「いや、気にしなくていいよ。……どうせ、俺が消えても、誰もなんとも思わないだろうし」


 だから……この世界に召喚されても、問題のない人物。それも、選ばれる適正の一つであったのかもしれない。

 たとえばちゃんと学校に登校しているような、人付き合いの得意な子がいきなりいなくなれば、大きな問題となるだろう。

 だがケンヤの場合、引きこもりゆえ外部との接触はない。話すのは家族だけ……ではあるが、実際は家族との関係だって決して良好なものとは言えない。

 いなくなっても、誰も困らない。……いや、そんな問題ではないのかもしれない。それはあくまで、誰も困らないという予想だ。実際には、子供がいなくなって騒がない親なんて滅多にいない。

 そんな、他者がどうこうの問題ではなく。もっと本人の深層心理……それを見抜いて……


「俺は元の世界に、未練なんかないから」


 ……元の世界に、未練のない人物。それこそが、きっと一番の理由なのだと、ケンヤはそう思ったのだ。だから、ガルヴェーブに気にしなくていいと言ったのは、強がりではない。

 紛れもない、本心だ。
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