異世界召喚され英雄となった私は、元の世界に戻った後異世界を滅ぼすことを決意した

白い彗星

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もう一つの異世界召喚

異形の存在

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「ケンヤ サカノ様。こちらです」


 男……ケンヤは、黒い人物に着いていく。人物ではなく、正確には魔族というらしいが……少なくとも、見た感じシルエットは人間のものと同じだ。

 移動中、特に会話はなかった。ケンヤには聞きたいことが山ほどにあるとはいえ、初めて会ったばかりの相手にあれこれ聞けるほどコミュニケーション能力は高くない。

 よって、基本的に相手から話しかけてくれるのを待つしかないのだが……あまり、口数の多い方ではないのだろうか。移動中話しかけるくることはあまりなかった。


「あ、あの……」

「詳しいことは、案内した先で話します」


 なんとか話しかけても、こう返されてしまう。どうやら、この場でケンヤの疑問を問答するつもりはないらしい。

 話すよりも、実際に見せた方が早い、ということだろうか。

 異世界とか召喚とか魔族とか。なに一つ受け入れるには理解しかねるものだが……不思議なことに、自分の名前を知っていた。それは、『サカノ ケンヤ』を狙って呼んだ、ということに他ならない。

 それはつまり……自分が、選ばれたということで……


「! ……城?」

「はい。ここが我らの根城です」


 たどり着いた先にあったのは、フィクションの世界でしか見たことのない城だ。大きな古い城で、外壁はレンガ造り。

 さて、ここから中に入るのか……と思っていたが、黒い人物は動かない。ここが入り口では、ないのだろうか。


「ケンヤ様……この城に足を踏み入れる前に、一つお詫びを。今この瞬間まで、姿を隠していたことをどうかお許しください」

「え……ってことは」

「はい、このマントはもはや必要ありません。ここに来るまでの道中、異形の存在を目にして来られたと思います」


 そう、この城にたどり着くまで……人っこ一人見つけられなかった。だが、代わりと言うべきか……動物が、いた。いや、あれを果たして動物と呼んでいいのか。

 全体的に黒い、印象だ。四足歩行のそれらは、一見犬……いや狼とも言える存在だ。毛並みは黒い、そういう生物だっているだろう。狼なんて、実物を見たことはないんだ。

 だが、あれらはただの動物ではないと、感じた。そしてそれは、的中した。黒い人物曰く、あれは魔物と呼ばれる存在。黒く染まった全身に、赤い瞳。狂暴そうな牙や爪。

 中には、背中から二本の腕が生えているもの、二足歩行だが腕が異様に太いもの、首が二つに割れているもの……様々な異形がいた。奴らは物珍しそうにこちらを見ていたが、襲ってくる気配はなかった。

 この人物と一緒にいたからだろうか……ケンヤは、そう思った。今、マントを脱ごうとしている人物の言葉は要するに、魔物を見てきたことで目が慣れた、ということだろう。

 つまり、自らもケンヤから見れば異形と呼ばれる存在だとわかっているということで。


「どうか、声を荒げませんよう。魔物が襲ってきかねませんので」

「わ、わかった」


 さっき襲われなかったのは、口を開かなかったのも関係していたのか……と、ケンヤは口を押さえる。いつでもこい、驚く準備万端だ。

 目の前で、黒いマントがバサッとはためく。マントを投げ捨てるように、その人物は身に纏っていたマントを剥ぎ取って……姿を、露にする。


「……!」


 ……そこにいたのは、人間ではなかった。人間と呼ぶには、少々抵抗のある姿をしていた。

 人間ならば肌色であるはずの肌の色は青白く、視線のあった眼球は黒い。黒目である部分は白く、赤黒い髪は腰まで伸びている。それに、女性であろうか。漆黒の服装に身を包んだ体には胸元の膨らみがある。

 それだけであれば、シルエットだけなら人間だと言えただろう。

 だが、頭には二本の角が生えている。マントに隠れていた頭の部分が不自然に盛り上がっていたから、てっきり帽子でも被っているのかと思ったが。

 また、どこに閉まっていたのか背中からは漆黒の翼が生えている。まさにケンヤの知る典型的な悪魔といった見た目だが、これをいきなり見せられたら声をあげて泣き騒いでいただろう。

 これならば、魔物の方がよほど異形に見える。なるほど、だからこその目が慣れた、というわけだ。


「……言葉も出ないようですね」


 自らの姿を前にして、叫ばなかっただけでも良しとしているのか……その魔族は、ほっと一息ついている。別に自らの姿を怖がられることに抵抗はないが、騒がれでもしたら面倒だ。

 なので、言葉を失ってくれているのは助かる。まあ、言葉を失うほどの驚愕、恐怖というものからかもしれないが。あいにく、恐怖なんて感じたことはない。


「か、か……」

「申し遅れました。私、ケンヤ様をこの世界に召喚させていただきました、名をガルヴェーブと申します。以後、お見知り……」

「かっこいい!」

「おきを……は?」


 驚いているのだろうが、ひとまず名前だけでも……そう思い自己紹介とする魔族、ガルヴェーブであるが、目の前の男から返ってきたのは予想もしていない言葉だった。

 見れば、ケンヤは目をキラキラさせているではないか。


「……かっこいい、ですか?」

「あぁ、かっこいい! まさかこんな実物で見られるなんて!」

「……そうですか」


 なんだか、よくわからない。が、ガルヴェーブは仕切り直すようにコホンと咳払い。


「では、城内へと案内致します」

「ん……そ、そうですか。が、ガル……」

「ガルヴェーブです。それと、敬語は不要です」

「あ、そ、そう? えっと……ガル、ヴェーブ……あの、なんか言いにくいんだけど」

「お好きに呼んでもらって構いません」

「じゃあ……ガル、ってのは女の人だからかわいくないし……ルヴ。うん、ルヴで!」

「……構いませんが」


 呼ばれ方についてのこだわりは、ない。

 ガルヴェーブはケンヤを連れ、城内へと足を踏み入れていく。
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