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英雄vs暗殺者
同じ世界から来た人間
しおりを挟む私の推論……それは、ノットに私を殺すように依頼した人物、その正体が私と同じ世界の人間だ、というもの。
証拠は、今話したものだ。武器、知識、言葉……この世界にはないであろうものが、ノットから出てきたのだ。かといって、ノットが同じ世界の人間、というのは違うだろう。
武器も知識も言葉も、自分のものではなく誰かの受け売りって感じだ。ノットはこの世界の人間。だとすれば、別の存在……ノットにあの日本刀を与えた人間。それがイコールノットに私を殺す依頼をした人物だと結びつける証拠はないけど……
同一人物で、おそらく間違いないだろう。私の中の直感が、そう言っている。
「私の依頼主は、この世界の人間じゃない……あんたと同じ世界の人間か、か」
「違う?」
「……やっぱしゃべりすぎたか」
否定、しない。つまり、そういうことだ……この世界には、私以外にも私と同じ世界からやって来た人間がいる。
そして、なぜかそいつは私を殺そうとして、ノットをけしかけたと。
「依頼主の正体は明かさないのが私のポリシーだが……まあ別に、隠せと言われてないし。そこまでバレて、ごまかすつもりもないさ」
「そ。でも、多分そいつは自分の存在を私に伝えるつもりだったんだと思うよ。でないと、日本刀渡さないでしょ」
ノットがしゃべりすぎ、というより……そいつは、自ら私に伝えようとしたんだ。自分は、お前と同じ世界から来た人間だ、と。
そうじゃないと、わざわざクナイや日本刀など、自分の正体をにおわせるものをノットに渡しはしないだろう。あるいは相手が、この世界の人間だったならば、特に疑問に思われなかったのだろうが……
別の世界から来た熊谷 杏という人間に、別の世界の武器を見せた。これは、紛れもない……同じ世界から来たのだということを認識させるための、メッセージ。
おまけに、ノットは『私』を狙ってきたんだ。私にその武器を見せるつもりで、そいつはノットに武器を持たせたまま行かせたのだから……これはもう、間違いない。
「依頼主は……私を通じて、英雄サマに同じ世界の人間だと伝えるつもりだったと? なんのために」
「知らないよ私がそんなこと。あと英雄サマってのやめて。バカにされてるみたい」
「されてないと思ったのか?」
……こいつ……!
「……じゃあ同じ世界ついでに、そいつの名前教えてくれないかなー」
「なにがじゃあだよ。そこまでしゃべるわけないだろバカが」
……これ以上情報は引き出せそうにない、か。
私と同じ世界から来た人間が、いる……それがわかっただけでも、かなりの収集だ。その人物が男か女か、子供か大人か、どうやってこの世界にやって来たのか……気になることは、まだまだあるけれど。
それは、後回しだ。
「じゃあいいよ、話したくなるまで殴るから……!」
「やってみな!」
ガギンッ……!
少しばかり離れた位置にいた私とノットの距離は一瞬で縮まり、長剣と左拳は激突する。
赤く光った刀身は、黒く染まったこの手でも熱さを伝えてくる……はずだが、そうはならない。剣と拳とが激突する直前に、左拳に炎をまとわせておいた。ノットの右手でね。
魔力による身体強化のように、そもそも呪術の炎を体にまとわせることができるのか……そんなのノットだってやってなかったし、ぶっつけ本番だけど、うまくいった。
「ちっ、私の炎を好き勝手使いやがって……!」
「もう、私のだよ」
自分の体を燃やしたら、そのまま燃え尽きてしまうんじゃないかという心配もあったが……そうはならないと、なぜかわかっていた。そして実際、そうはならなかった。
呪術の炎は、この左拳を強化するものとして役立ったってわけだ。逆に言えば、同じ呪術の力だからこそ……左拳から全身に、燃え広がらないのかもしれない。
「これで、その剣も怖くないね!」
「っ!」
そのまま力任せに、ノットを押しきる。部が悪いと感じてか、ノットは自ら距離をとる。
「ま、いいや……あんたの依頼主の名前は。どうせ、知らない名前だろうしね」
「はっ」
「……いや、でも私を殺そうとしてる人間なら、元の世界で私に恨みを持ってた人間ってことかな? いや、自分で言うのもなんだけど、人に恨みを買うようなことはしてないしなぁ少なくともこっちに来るまでは。だよね?」
「知るかよ! あんたの人間事情なんざ知るか!」
同じ世界の人間、ってだけで妙な親近感を覚えかねないと思っていたけど。だって同じ世界にいたって、世界中の人間と比べてみれば個人が一生に会う人間なんて、ほんの一握りもいない。それが、違う世界で出会うなんて運命的なものを感じる。
でも考えてみれば、そいつは私を殺そうとしてるわけだし……名前を聞いても、私が知らない相手である確率の方が圧倒的に高いわけで。でも、そんな相手から恨まれる筋合いはないしなぁ。
「うーん……」
「……ま、正確にはあんたを殺すっても、あんたの行動が邪魔ってだけで正確には、あんた個人を狙ってるわけじゃないんだけどな」
「ん、なんか言った?」
「この地獄耳が。なにも言ってないよ」
今、ノットがなにかしゃべっていた気がしたんだけど……内容までは、聞き取れなかった。残念。
……まあ、なんにせよ……ノットも、ノットに依頼したそいつも。私の邪魔をするなら、殺すよ。
たとえ、同じ世界の人間だったとしても……だ。それに、目的云々じゃなくても……人を殺そうとするなら、自分もその覚悟はあるはずだもんね。
……あ、これブーメランだ。
「はぁ……いろいろバレちまったが……まあ、関係ないか。どうせあんたは、ここで死ぬんだから」
「……殺せればいいけどね」
「私は、依頼を果たせなかったことは一度だってない。誰がが言ったのか、"疾風"なんて呼ばれちゃいるが……仕事の速さには自信があってね。こんなに時間をかけたのは初めてだ、が……私は必ず仕事を完遂する。それに、あんたはもう立つことすらできず呪術で『立たされている』状態だ。そんな状態で、いつまで持つ」
……ノットの雰囲気が、変わった。さっきまでも、肌を刺すような殺意があったが……今は、全身を針で撫でられているような感覚。あんまり変わってないって? 違うんだよなそれが。
ノットは、もう本気の本気で私を殺しに来る。対して私は……立たされている、か。違いない。
私がなにを知ろうと、殺せば問題ないって……まあ、その通りだよな。
「「死人に口なしか(だ)」」
二人の言葉が、ハモる。それは、やはり私の元いた世界の言葉で……それを口火に、ノットの姿が歪んでいく。
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