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英雄vs暗殺者
封じられつつある
しおりを挟む幾つもの斬擊が放たれ、それをすべてかわすことなどできるはずもなく……頬に、首に、腹に、脚に。鋭い切り傷が、刻まれる。
元々、さっきの戦いで弱っていた体には、たとえ切り傷程度のダメージであったとしても堪える。血が、流れていく。
「あぐ……ぅ、うう!」
「!」
このままではなぶり殺されるのがオチだ。そうならないためにも、私は魔力を私中心に突風を放つ要領で、発動。
複数のノットを、一気に吹っ飛ばす。
「ぜぇ、はぁ……」
斬擊の嵐は止んだけど、それでダメージがなかったことになるわけではない。切り傷は確かに、血が流れ……地面に、赤い水溜まりを作っていく。
これも、ノットの思い通りってわけか……私を、じわじわと弱らせていって……
「はぁ……はぁ……」
「ずいぶんと息が上がってるな。そりゃそうか……あの化け物連中との殺しあいを生き残っただけでも九死に一生ってやつなのに、そのまま連戦じゃずいぶんキツいよなぁ。けどまあ、卑怯とは言うなよ。こいつぁ殺しあいだ」
聞こえてくるノットの声は、もはやどこから聞こえているのかわからない。複数のノットたち全員がしゃべっているようにも聞こえるし、誰か一人だけかも。もしくは、ここにはいないどこか別の場所から……
判断が、つかない……
「……難しい言葉、知ってるんだね。九死に、一生、なんて……」
「なんだよ挑発のつもりか? 悪いが、あんたのペースには乗らない」
この複数のノットのどれか一人が本物か、それとも一人もいないのか……もしくは、全員が本物なのか。
それがわからない以上、とにかく全員をぶっ飛ばせばいい。言うのは簡単でも、そんなにうまくはいかないだろう。
もう体力はおろか、魔力も、ほとんど残っていない。エリシアの半分もの魔力があったとはいえ、さすがに使いすぎた……
使えるといったら、この左手のみ。右腕は千切れちゃったし……呪術の力で黒く染まった、この左手……
「そんなに苦しんでまで、なにがしたいんだ? わからねぇな……いっそのこと、ここで楽になっちまえばどうだ」
ノットの台詞は、私を……諦めさせようと、しているのか。こんな状況でもまだ厄介だと感じている、だから諦めさせて心を折り、殺そうというのか。
ノットは……いや、この世界に住む人たちは、ユーデリア以外私の目的は知らない。なんで住んでいる場所を壊すのか、人を殺すのか。
それは、独りよがりの八つ当たりだ。それは自分でもわかっている……わかっていても、ここまで来てしまった。もう止まれないし、引き返せない。
もう前に進むしかない。進むしかないのなら……死ぬまで、私の好きにやらせてもらう。死ぬまで、憂さ晴らしをさせてもらう。私から、私の世界を奪ったこの世界に……復讐を、してやる。
「……しの」
「あん? なにぶつぶつ言ってんだ」
「私の、死に場所は……ここじゃ、ない!」
誰かに殺されるんだとしても、なんらかの事故で死ぬんだとしても、復讐を遂げるんだとしても……こんなところで、こんな訳のわからない奴に殺されて、なるものか!
私は、左拳を思い切り地面に突き刺す。殴った際の衝撃が地面を割り、まるでこの場所だけ地震でも起こったのかというほどに揺れる。
「なっ、地面を、ここまで……どんな、バカ力だよ!」
これまでにも何度か、地面を殴って地割れを起こしたことはあった。けれど、ここまでに激しい揺れは初めての試みだ。
ノットが驚く以上に、自分でもここまでできると思っていなかった。この左手が、呪術の力に染まっているからか?
ま、どうでもいいことだ。
「ハッ!」
もう一発、地面へと左拳を打ち込む。今度は、衝撃波を放つ勢いで力強く。
黒くなった左手から放たれた黒い衝撃波は、地面の割れた部分である亀裂を伝い……四方八方へと、広がっていく。複数のノットは、亀裂から吹き出る黒い衝撃波に打ち消されていく。
「やっぱり、残像か……」
「んな、バカな! なんつーバカげた力だ!」
さっきからバカバカ失礼しちゃうなぁ……
地震と、地割れから発生する衝撃波。これらにより、複数のノットは消滅していく。残ったのは、たった一人だけ……あれが、本体か。
ノットへ向かって、拳の衝撃波を放つ。黒い衝撃波は、その威力も高い……ぶち当たってしまえば……!
「ちっ!」
ボゥン!
しかし、ノットもされてばかりではない。指パッチンにより、黒い衝撃波を炎で包み込んでいく。
燃え広がるのはあっという間……燃え落ちるのも、あっという間だ。
「はっ、同じ呪術で打ち消せないわけないだろ」
指パッチンの動作だけであんな炎出せるとか、反則くさいな……ああいう便利な力って、なにかしら代償がありそうなものだけど……
そもそも呪術の力自体が、代償ありきの力だしな。
「なら、これで……!」
先ほどよりも踏ん張り、思いっきり拳を振り抜く。今のこの体には、その動作だけで堪えるが、威力は先ほどの比じゃない衝撃波が打ち出される。
スピードも、それなりにあるし……
「はっ、無駄だ」
と、ノットは指パッチンを連続で三回鳴らす。それにより、三回分の炎が衝撃波を包み込み、打ち消していく。
指パッチンを連続ですればそれだけ、炎も出せるってことか……しかもあれが呪術の力なのだから、私の呪術も打ち消される。
……もしかして、この右腕を斬ったのも……呪術の力によるものか。呪術の炎の力を宿した短剣で斬ったことで、あんなにもすっぱりと、呪術の右腕が斬れた。
体力も魔力も……底を尽きつつあるのに、呪術まで封じられつつある、って、ことか。
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