異世界召喚され英雄となった私は、元の世界に戻った後異世界を滅ぼすことを決意した

白い彗星

文字の大きさ
上 下
284 / 522
英雄vs暗殺者

複数の暗殺者

しおりを挟む


 ノットの姿が、見えない。声は聞こえるのに、気配も感じないなんて……よほど、気配を消すのが得意らしいな。

 見えないところから、じわじわと相手を追い詰めていく……それが、ノットのやり方。

 氷狼の村での行いとは全然違うが……まあ、あのときはバーチ含む人間がたくさんいたし。村ごと氷狼を滅ぼすつもりだったんなら、隠れてやっても意味がないからか。


「まるで忍者、か……」


 クナイを飛ばしてきたり、かなりの素早い動きをしていたり、姿を消したり……それはまるで、忍者のようだ。もちろん、直接見たことはないけど。テレビの中だけの話だ。

 この世界には忍者なんてものは、いないだろうし……多分。だから、忍者ってのはまあ、単なる印象だ。


「はぁ、くそっ……」


 このままじっとして少しでも回復させてくれればいいんだけど……さすがにそんな時間は、与えてくれないだろう。

 むしろ、どこからどんな手段で狙ってくるのか……緊張を張り詰めているせいで、体も心も休まる暇がないくらいだ。


「……!」


 気配は、感じない……それでも、はっと違和感のようなものを、感じる。その瞬間、私はその場から前方へと飛んでいた。

 直後、『ボゥッ』という奇妙な音が聞こえる。いや、奇妙ってか……あれだ。ガスコンロで火をつけたときの、火がついた瞬間の音。つまり、炎が燃え上がる音。

 振り向き、確認すると……私がさっきまでいた場所は、地面から火柱が上がるほどに燃え上がっていた。あのままあそこにいたら、今頃私が燃えて……


「ちっ、これも避けるのか。どうなってんだよその反応」


 舌打ちと、どこか悔しそうなノットの声。してやったりって感じだが、今のは勘だ……そう何度も、今みたいに避けるのを続けられるかはわからない。

 姿も音もない、そんな相手からの攻撃を、どうやって避け続ければ……


「わっ! よっ、はっ、とっ!」


 違和感、違和感、違和感……そうとしか表現できないものを感じる度に、私はその場から飛び退くように移動する。

 飛び退いた場所には、火柱が上がる。どうやら、呪術の炎が放たれるのを事前に察知できているようだ。


「……なんなんだ、お前は!」

「いやキレなくても……」


 私自身、よく避けることができているなと思う。そこへなんなんだと聞かれても、なんと答えればいいものか。

 ま、だてに一度はこの世界を救ってないってことだ。


「あんたの炎は私には通じないみたいだし、出てきたら? あんたのやり方じゃ、私は殺せない」

「ちっ……」


 一つはっきりしたのは……ノットの炎は、人体を燃やす炎ではあるが、人体を発火場所に固定できるわけではないということ。あくまで発火させた場所に人体があった場合、その炎は人体をも焼き尽くす炎になる。

 人体を直接燃やすことは、できないってわけだ。


「はは、驚いたよ。驚いたが……まさか、見えない位置から炎で燃やすことだけが、私のやり方ってわけじゃないさ」


 ……まあ、そうだろうな。他にも、ノットはノットなりのやり方を持っている。その中の一パターンが、私に通用しなかっただけのことだ。

 クナイと飛ばしてきたり、炎を操ったり……それだけが、ノットの攻撃手段ではないはずだ。多分。

 とはいえ、私が知っているノットの情報は、今直接会って体験していることと、氷狼の村を滅ぼした映像でしかない。ノットが、私がもっと情報を持っていると勘違いしたままなのはいいとしても……

 結局のところ、わかっていることは、少ないってことだ。


「次はこういうのは、どうだ?」


 次に声が聞こえてきたその直後に、正面にノットが現れる。あんなことを言っておいて、正面から堂々と? ……と思っていたが、違うようだ。

 右に、左に、背後に……次々と、ノットの姿が、現れる。複数のノットに囲まれてしまう。

 これ、もう残像とかって問題じゃなくない?


「しかもまた多人数……」


 ついさっき、一対五のシチュエーションを終えたばかりだ。なのにこの展開は、また骨が折れそう……

 一人が、素早く迫ってくる。手には赤く光る短剣を持ち、それが得物であるのは明らかだ。振り抜かれる斬擊を後ろに下がることで避けるが……そのタイミングで、右方向からクナイが飛んでくる。

 避けるのは難しいので、体を捻って左手で弾き落とす。熱い。


「っつ……!」


 さらに、バランスが少し崩れた……ところへ、三人のノットが四方八方から迫る。全員、手には短剣を持っている。繰り出される斬擊は、グレゴに比べれば見きりやすいことこの上ない。

 それに、いくら複数いるとはいえ、同じ人物だ。さっきのように、五人がまったく違うタイプであることに比べたら、動きは読みやすい。

 ……けど……


「くっ、ぬっ……よっ」


 動きが、素早い。手首の動き、足の動き、そしてフェイント……しかも、短剣というリーチこそ短いがそれだけに振り回しやすい武器。さらには刀身が赤く光っており……


「っつつ……!」


 直接触れてもいないのに、熱さが伝わってくる。いや、だんだん……避けきれなく、なってくる。

 体のあちこちに、切り傷が、刻まれていく……!
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?

お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。 飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい? 自重して目立たないようにする? 無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ! お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は? 主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。 (実践出来るかどうかは別だけど)

完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-

ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。 自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。 28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。 いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して! この世界は無い物ばかり。 現代知識を使い生産チートを目指します。 ※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。

大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います

町島航太
ファンタジー
2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。

神々の間では異世界転移がブームらしいです。

はぐれメタボ
ファンタジー
第1部《漆黒の少女》 楠木 優香は神様によって異世界に送られる事になった。 理由は『最近流行ってるから』 数々のチートを手にした優香は、ユウと名を変えて、薬師兼冒険者として異世界で生きる事を決める。 優しくて単純な少女の異世界冒険譚。 第2部 《精霊の紋章》 ユウの冒険の裏で、田舎の少年エリオは多くの仲間と共に、世界の命運を掛けた戦いに身を投じて行く事になる。 それは、英雄に憧れた少年の英雄譚。 第3部 《交錯する戦場》 各国が手を結び結成された人類連合と邪神を奉じる魔王に率いられた魔族軍による戦争が始まった。 人間と魔族、様々な意思と策謀が交錯する群像劇。 第4部 《新たなる神話》 戦争が終結し、邪神の討伐を残すのみとなった。 連合からの依頼を受けたユウは、援軍を率いて勇者の後を追い邪神の神殿を目指す。 それは、この世界で最も新しい神話。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

処理中です...