異世界召喚され英雄となった私は、元の世界に戻った後異世界を滅ぼすことを決意した

白い彗星

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英雄狙う暗殺者の罠

合ってないよ

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 サシェは、すでに虫の息。命を保っている理由は、生命力が強いからだ……だが、そこから自己回復できるほどのポテンシャルをサシェは持っていない。

 回復魔法……それも、エリシアほどの魔法使いでなければあの傷は癒せない。少なくとも、すぐには。

 そしてこの場には、エリシアがいるが彼女はそんな場合ではない状況だ。つまり、放っといてもサシェは死ぬ……


「アンズ……許せない!」

「……そう」


 サシェと、ボルゴ……師匠と同じく、魔王討伐の旅の道中で命を落とした、かつての仲間。また会えて嬉しい気持ちと、もう会うことのないと思っていた仲間をこの手で殺さなきゃいけないのかという複雑な、気持ちがある。

 それでも、私の行く手を邪魔するならば、誰であろうと私は……それに……


「ここから出るには、みんなを倒さないといけないんだもんね」


 倒さないといけない……確証はないが、そうでもしないと永遠にこの紫色の霧の中に閉じ込められることになる。そんなのは、ごめんだ。

 この霧の中で、記憶の中のみんなと戦って……どれだけの時間が、経っただろう。どれだけ戦い続けて、これだけボロボロになって……誰の策略か、なんの思惑か、わからないけど……


「思い通りに、させてやるもんか……!」


 自分で自分を、奮い立たせる。そうしないと、ふとした瞬間に痛みが、苦しみが、あらゆる苦痛がぶり返してきてしまいそうだから。


「なにか知らないが、思い通りにさせないのはこっちの台詞だ!」


 と、ボルゴは怒りを露に、サシェの持っていた矢を持ち、向かってくる。ボルゴには、これといった攻撃手段はない……それに、少し体術が使えたところで、師匠ほどの力もなければ私にとって脅威足り得ない。

 だから、武器を持つのは納得できる。できるが……それも、無駄な足掻きだ。


「うぉおおお!」

「……合ってないよ、ボルゴ」


 鋭い矢を手に、深くそれを握りしめて雄叫びを上げながら、敵である私へと向かってきている。その姿は……ボルゴには、似合わない。

 ボルゴは、みんなを守る役目として、後ろにいてくれた。後ろでボルゴが守ってくれている……そう思っただけで、ずいぶん気が楽になったものだ。

 だから……


 ザクッ……!


「うっ……は……!」

「合ってないよ……ボルゴ」


 敢えて攻撃範囲へと入らせ、ボルゴの動きを見守る。矢を振り下ろし、私の肩目掛けていたその攻撃は……当たるはずもない。身を少し捻れば、簡単に避けられる。

 それにより体勢を崩したボルゴの腹部へと、左手を突き刺す。今回は殴るのではなく……手のひらをまっすぐに、手刀の形にして、突き刺した。

 そこが人体だとは思えないほど、あっさりと突き刺さる。指先……第二間接くらいまで、温かいものに包まれているのがわかる。

 外気と遮断された、体内の温かさが……流れる血が……指先を、ゆっくり濡らしていく。


「かふっ……」

「……これで、終わり……」

「ぅ、おぉおぉおおぉお!」


 ガンッ!


「!?」


 これで全員を、ひとまず動けなくした……しかし、そう思った直後、頭に凄まじい衝撃が走る。これは……いっ、たい……!

 なんだ、これは。なにかで、殴られたような……? けど、まるで鉄の塊で殴られたような、そんな感覚が……


「うぅっ、げほっ!」

「……ボルゴ……?」


 今のは、まさかボルゴの仕業か……!?

 ボルゴには、これといった攻撃手段はない。だが、まったくないというわけではない。

 主なものとして、ボルゴは守りの力を、自分の拳に展開できる。いわゆる、見えないグローブをはめているみたいな形になるのだ。

 攻撃は最大の防御……その逆も、然り。ボルゴの防御力は、そのまま攻撃力へと変換される。普段の私や師匠の拳でもひび一つ入らないほどの防御力が、攻撃力へと変換されれば……それは、凄まじい威力となる。


「あっ、くぁ……っ」


 今のは……効いた……っ! 頭ぐらぐらする……今の攻撃パターンは、私も知ってたはずなのに。手刀を突き刺したことで、もう動けないだろうと……油断してた。

 殴られた箇所から、血が流れてくるのがわかる。やばい、これは……もしかしたら今までで、一番のダメージかもしれない。

 まさか、この状況下でまだ、反撃してくるなんて……


「ぬ、う……ぅええぇえええい!」

「うっ……!?」


 思わず膝をついてしまいたくなる感情を必死に抑え……突き刺したままの手首を、思い切り振り回す。それにより、ボルゴの体は、私が腕を振るった方向へと吹っ飛んでいく。

 受け身も取れないボルゴの体は、無惨にも転がっていく。


「はー……はー……」


 頭から流れる血は、止まることなく……目元へと流れてくる。視界の右半分をが赤く染まらないよう、血を拭うが……血は、止まることはない。

 せめて、布のようなものがあれば傷口を押さえられるんだけど……服でも千切って、代用しておくか?


「はー……とにかく、これで……」


 これで、五人全員が動けなくなったはずだ。

 カウンターの要領で一撃をくらわせたグレゴ、渾身よりも威力は落ちたが一撃を加えた師匠、腹に穴が空くほどの一撃を打ち込んだサシェ、手刀を突き刺したボルゴ。

 そして……


「ぅあ、はぁ……みん、な……ぉえっ……」


 未だ呪術の力に呑まれつつあるエリシア。自身の精神力でなんとか、理性を保っている状態だろう。

 動けはしないだろうが……他の四人同様、せめて致命傷でも与えておこう。
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