273 / 522
英雄狙う暗殺者の罠
合ってないよ
しおりを挟むサシェは、すでに虫の息。命を保っている理由は、生命力が強いからだ……だが、そこから自己回復できるほどのポテンシャルをサシェは持っていない。
回復魔法……それも、エリシアほどの魔法使いでなければあの傷は癒せない。少なくとも、すぐには。
そしてこの場には、エリシアがいるが彼女はそんな場合ではない状況だ。つまり、放っといてもサシェは死ぬ……
「アンズ……許せない!」
「……そう」
サシェと、ボルゴ……師匠と同じく、魔王討伐の旅の道中で命を落とした、かつての仲間。また会えて嬉しい気持ちと、もう会うことのないと思っていた仲間をこの手で殺さなきゃいけないのかという複雑な、気持ちがある。
それでも、私の行く手を邪魔するならば、誰であろうと私は……それに……
「ここから出るには、みんなを倒さないといけないんだもんね」
倒さないといけない……確証はないが、そうでもしないと永遠にこの紫色の霧の中に閉じ込められることになる。そんなのは、ごめんだ。
この霧の中で、記憶の中のみんなと戦って……どれだけの時間が、経っただろう。どれだけ戦い続けて、これだけボロボロになって……誰の策略か、なんの思惑か、わからないけど……
「思い通りに、させてやるもんか……!」
自分で自分を、奮い立たせる。そうしないと、ふとした瞬間に痛みが、苦しみが、あらゆる苦痛がぶり返してきてしまいそうだから。
「なにか知らないが、思い通りにさせないのはこっちの台詞だ!」
と、ボルゴは怒りを露に、サシェの持っていた矢を持ち、向かってくる。ボルゴには、これといった攻撃手段はない……それに、少し体術が使えたところで、師匠ほどの力もなければ私にとって脅威足り得ない。
だから、武器を持つのは納得できる。できるが……それも、無駄な足掻きだ。
「うぉおおお!」
「……合ってないよ、ボルゴ」
鋭い矢を手に、深くそれを握りしめて雄叫びを上げながら、敵である私へと向かってきている。その姿は……ボルゴには、似合わない。
ボルゴは、みんなを守る役目として、後ろにいてくれた。後ろでボルゴが守ってくれている……そう思っただけで、ずいぶん気が楽になったものだ。
だから……
ザクッ……!
「うっ……は……!」
「合ってないよ……ボルゴ」
敢えて攻撃範囲へと入らせ、ボルゴの動きを見守る。矢を振り下ろし、私の肩目掛けていたその攻撃は……当たるはずもない。身を少し捻れば、簡単に避けられる。
それにより体勢を崩したボルゴの腹部へと、左手を突き刺す。今回は殴るのではなく……手のひらをまっすぐに、手刀の形にして、突き刺した。
そこが人体だとは思えないほど、あっさりと突き刺さる。指先……第二間接くらいまで、温かいものに包まれているのがわかる。
外気と遮断された、体内の温かさが……流れる血が……指先を、ゆっくり濡らしていく。
「かふっ……」
「……これで、終わり……」
「ぅ、おぉおぉおおぉお!」
ガンッ!
「!?」
これで全員を、ひとまず動けなくした……しかし、そう思った直後、頭に凄まじい衝撃が走る。これは……いっ、たい……!
なんだ、これは。なにかで、殴られたような……? けど、まるで鉄の塊で殴られたような、そんな感覚が……
「うぅっ、げほっ!」
「……ボルゴ……?」
今のは、まさかボルゴの仕業か……!?
ボルゴには、これといった攻撃手段はない。だが、まったくないというわけではない。
主なものとして、ボルゴは守りの力を、自分の拳に展開できる。いわゆる、見えないグローブをはめているみたいな形になるのだ。
攻撃は最大の防御……その逆も、然り。ボルゴの防御力は、そのまま攻撃力へと変換される。普段の私や師匠の拳でもひび一つ入らないほどの防御力が、攻撃力へと変換されれば……それは、凄まじい威力となる。
「あっ、くぁ……っ」
今のは……効いた……っ! 頭ぐらぐらする……今の攻撃パターンは、私も知ってたはずなのに。手刀を突き刺したことで、もう動けないだろうと……油断してた。
殴られた箇所から、血が流れてくるのがわかる。やばい、これは……もしかしたら今までで、一番のダメージかもしれない。
まさか、この状況下でまだ、反撃してくるなんて……
「ぬ、う……ぅええぇえええい!」
「うっ……!?」
思わず膝をついてしまいたくなる感情を必死に抑え……突き刺したままの手首を、思い切り振り回す。それにより、ボルゴの体は、私が腕を振るった方向へと吹っ飛んでいく。
受け身も取れないボルゴの体は、無惨にも転がっていく。
「はー……はー……」
頭から流れる血は、止まることなく……目元へと流れてくる。視界の右半分をが赤く染まらないよう、血を拭うが……血は、止まることはない。
せめて、布のようなものがあれば傷口を押さえられるんだけど……服でも千切って、代用しておくか?
「はー……とにかく、これで……」
これで、五人全員が動けなくなったはずだ。
カウンターの要領で一撃をくらわせたグレゴ、渾身よりも威力は落ちたが一撃を加えた師匠、腹に穴が空くほどの一撃を打ち込んだサシェ、手刀を突き刺したボルゴ。
そして……
「ぅあ、はぁ……みん、な……ぉえっ……」
未だ呪術の力に呑まれつつあるエリシア。自身の精神力でなんとか、理性を保っている状態だろう。
動けはしないだろうが……他の四人同様、せめて致命傷でも与えておこう。
0
お気に入りに追加
154
あなたにおすすめの小説

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?
はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、
強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。
母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、
その少年に、突然の困難が立ちはだかる。
理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。
一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。
それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。
そんな少年の物語。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。
sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。
目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。
「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」
これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。
なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。


ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?
お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。
飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい?
自重して目立たないようにする?
無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ!
お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は?
主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。
(実践出来るかどうかは別だけど)

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する
高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。
手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

おっさんなのに異世界召喚されたらしいので適当に生きてみることにした
高鉢 健太
ファンタジー
ふと気づけば見知らぬ石造りの建物の中に居た。どうやら召喚によって異世界転移させられたらしかった。
ラノベでよくある展開に、俺は呆れたね。
もし、あと20年早ければ喜んだかもしれん。だが、アラフォーだぞ?こんなおっさんを召喚させて何をやらせる気だ。
とは思ったが、召喚した連中は俺に生贄の美少女を差し出してくれるらしいじゃないか、その役得を存分に味わいながら異世界の冒険を楽しんでやろう!
転生したら死んだことにされました〜女神の使徒なんて聞いてないよ!〜
家具屋ふふみに
ファンタジー
大学生として普通の生活を送っていた望水 静香はある日、信号無視したトラックに轢かれてそうになっていた女性を助けたことで死んでしまった。が、なんか助けた人は神だったらしく、異世界転生することに。
そして、転生したら...「女には荷が重い」という父親の一言で死んだことにされました。なので、自由に生きさせてください...なのに職業が女神の使徒?!そんなの聞いてないよ?!
しっかりしているように見えてたまにミスをする女神から面倒なことを度々押し付けられ、それを与えられた力でなんとか解決していくけど、次から次に問題が起きたり、なにか不穏な動きがあったり...?
ローブ男たちの目的とは?そして、その黒幕とは一体...?
不定期なので、楽しみにお待ち頂ければ嬉しいです。
拙い文章なので、誤字脱字がありましたらすいません。報告して頂ければその都度訂正させていただきます。
小説家になろう様でも公開しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる