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英雄狙う暗殺者の罠
二度も……
しおりを挟むエリシアの放った、魔力を込めた爆弾……触れたら爆発するほどの衝撃を持ったそれを、私は殴って弾き返す。
それは、エリシア本人も予想外だったようで、魔力で防御する様子も見られないし感じられない。
「……っ!」
ドォン……!
手のひらほどの……いや、それ以上に小さく、ピンポン玉ほどの大きさしかない攻撃。しかし、大きさに比例しない爆発力は、思わず息を呑んでしまうほど。
人一人呑み込み、激しい音をたてて爆発。さらには炎が燃え上がり、爆炎が上がる。黒い、煙だ。
本来ならば、エリシアは自身の魔力で防御したはずだ。だけど、私が攻撃を跳ね返すという、予想もしていなかった行動をしたことで虚をつかれたのか、防御はしていない。していれば、魔力を感じられる。
それに、この攻撃自体が、エリシアの高めた魔力を使ったものだ。同等以上の魔力でないと、完全には防げないだろう。
……まあ、期待しても無駄だろう。どうせ、寸前にボルゴが守りの力でも使って、エリシアを守っているのだろう……
「はぁ、はぁ……!」
「あれ……?」
煙が晴れ、エリシアが姿を現す。そこには、爆発などものともせずけろっと立っているエリシア……の姿はなく、身体中傷だらけ、服もボロボロになっているエリシアの姿があった。
あれ、おかしいな……てっきら、ボルゴの守りの力でノーダメージだと思っていたのに。ボロボロじゃないか、めちゃくちゃダメージ負ってるじゃないか。
「うくっ、自分のは、効くなぁ……」
エリシア自身、自分の攻撃が跳ね返された経験などないだろう。あの強大な魔力を跳ね返すような奴なんて、そうそういるもんじゃない。
それは、本人だけじゃない。仲間であるみんなだって、そう思っていたはずだ。エリシアの魔法かまさか跳ね返されるなんて、と。だから、ボルゴの行動も間に合わなかったのかもしれない。
「はぁっ、ぅ……」
かなりのダメージを、負っている。だが、このまま放置していたら、回復魔法によりそのダメージはなかったことにされてしまう。そうなれば、また振り出しだ。
それがわかっているから、私の足は自然と動いていた。エリシアを、ぶん殴る……回復をされてしまう前に、戦闘不能にまで持ち込む!
「させない!」
背後から聞こえる、サシェの声。矢を放つ音が聞こえ、私を狙って打ったのがわかる。しかし、迎え撃つ時間が惜しい……サシェの矢を、弾き落とすことができれば……!
「あ、あれ……? なに、なんで?」
そう考えた瞬間だ、サシェが困惑の声をあげたのは。見なくても、わかる……サシェの放った矢は、今私が考えた通りに弾き落とされたのだ。普段、私がどう考えても出てこないくせに……
それは、なんの前触れもなく出てきて、サシェの矢を弾き落とした。それは、おそらくサシェには見えていないものだ。
「アンズ……それは……!」
この反応……エリシアには、見えている。私の右腕から生えた、呪術の黒い腕が!
黒い腕は、私に狙いを定めて放たれたサシェの矢を弾き落としたあとに、さらにサシェ本人へと伸びていく。やはり、私の動きに従って動いてはくれないようだ。
それでも、サシェの近くにいるボルゴ、グレゴ、そして師匠の邪魔は、これで入らないはずだ……! あの黒い腕が見えようが見えまいが、四人を相手取るはずだから。
「アンズ……あなた、呪術を……!」
「今さらだよ」
すでに、この左手を見ているのだ。今さら右腕が生えたところで、そこまで驚くこともないだろう。
サシェは、呪術の力も持っていた。それはおそらく、意識化の外での話だろうが……それでも、呪術を使える彼女は、この見えない黒い手を見ることができる。
あちらの四人も、もしかしたら見える人がいるかもしれない。が、見えたところで剣のないグレゴや、攻撃手段を持たないボルゴではどうにもできないだろう。
だから今私がやるべきは、エリシアの始末だけ……!
「せいっ!」
なにも、腕のリーチの限界である懐に魔で潜り込む必要はない。拳から打ち出す衝撃波は、充分な攻撃になる。
黒くなった左手から、拳を振り抜き衝撃波を放つ。衝撃波とは本来、振り抜いた大気から生まれ、突き抜けるもの。目に見えるようなものではないが、呪術の影響か衝撃波は黒い。
「くっ……!」
黒い衝撃波は、狙いを外すことなくエリシアへと迫る。エリシアは寸前に魔力による防壁を張るが、寸前には威力を殺しきれなかったようだ。防壁が弾ける音、エリシアの叫び声が届く。
これが、魔法で攻撃したのであれば防がれていただろう。エリシアの魔力には、私が今持っている魔力では叶わないからだ。でも、呪術ならば別だ。
あんまり呪術に関してよく言いたくはないけど、……この力は、別格だ。グレゴの剣を砕き、師匠の拳と渡り合い、ボルゴの盾を完全にではないが打ち抜き、エリシアの魔力をも上回る。
「ぐぅ、うう!」
エリシアの、苦しむような声。それは、この衝撃波が確実にエリシアに影響を及ぼしていることを示している。もちろん、悪影響の方向で。
その隙を見逃さず……私は、エリシアの首へと一気に手を伸ばす。
「がっ……ぁ……!」
掴んだ白い首は、力を入れたら簡単に折れてしまいそうなほどに細く……片手だけでも、それが可能であろう心細さがあった。
これは、記憶の中のエリシア……とはいえ、まさか二度も、エリシアを手にかけることになるなんて、思わなかったよ……
「アン……ズ……! やめ……」
「ごめんね……とは言わない。でも、悪いとは思ってるよ」
ゴキッ……!
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