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英雄狙う暗殺者の罠
杏vs勇者パーティーメンバー
しおりを挟む倒さなくちゃいけない……とはいえ、この五人を倒せばこの空間から抜け出せる、という確証があるわけではない。それに、考えたくはないけどこの五人以外にも、まだ出てくるかもしれない。
でも、今のところそうするしか手がない。どうせ五人を放置したままでも、こっちがやられるだけだ。
この幻覚を出す霧が、自然のものか作為的なものかはわからない。が、少なくとも村の中にこんな罠のようなものがあるとは考えにくい。
ならば、後者か……それに、霧に包まれる直前まで、視線を感じていた。だけど今は、あの気持ち悪い視線は感じない。あの視線が無関係だとは、思えない。
きっと、あの視線の主がこの事態を引き起こして……
「おわっ、と!」
しかし、この状況で考えている暇などない。五人を相手にするということは、そんなに甘いことではない。
エリシアとサシェは、後方からの遠距離攻撃。グレゴと師匠は、接近しての直接攻撃。私から反撃しようとすれば、ボルゴによって防がれる。
完璧、チームワーク……記憶の中の彼らに、果たして意志疎通やらチームワークなんて概念があるのかわからないけど。少なくとも、隙のない息のあった動きを見せている。
「くっ……これは、予想以上に……!」
単純な力比べでは、師匠相手以外なら私が上だろう。だけど、戦い……いや、殺しあいではそんな単純な話では済まない。このようにチームワークや、個々の特徴めいた動きで翻弄される。
グレゴなら剣術、エリシアなら魔法、師匠なら体術、サシェなら射的、ボルゴなら防御……ある者は力押しに、ある者はトリッキーに、攻めてくる。
一対一や、多人数でもただの雑魚ならば対処に問題はない。だけど、一人一人が多種多様な手段を持ち、かなりの実力を持っている。対処するのは、容易ではない。
「ふぬ!」
「っしぃ!」
大男の拳と剣が、振り回される。それを一撃でも受ければ、致命傷になることはわかっている……だから、それをとにかく避ける。ただ、避けていても……
「えい!」
「ふっ!」
女性陣の後方攻撃が向かってくる。魔法に矢、拳や蹴りで打ち落とすことはできるが、全部が全部を打ち落とすわけにもいかない。動きが止まれば、それだけ隙もできやすくなる。
だから、私も魔法で応戦。しかし、サシェの矢ならばともかく、エリシアの魔法は押し返すことができずに、逆に押し返される。
……少し考えれば、わかることだ。私の左目に宿るエリシアの魔力は、元々のエリシアの半分の魔力しかない。対して、対峙しているエリシアは欠損部位などなく、常に全開の魔力を持っている。
全開のエリシアに対し、エリシアの半分の魔力しかない私。威力では絶対に敵わない。
「これまで、この魔力だけでも充分強力だったけど……」
この左目を手に入れてからというもの、純粋な魔力対決で誰かに負けた試しはない。エリシア……『魔女』の魔力の半分でさえ、この世界の大抵の人間はたどり着けやしないのだ。
それが今は、通用しない。それはそうだ、この左目の、元の持ち主が相手なのだから。魔力対決では、エリシアには敵わない。
「こん、のぉ!」
向こうのチームワークは大したもんだ。が、絶対どこかに隙は生じる。それを見逃す、私じゃない。
魔法が、矢が、グレゴや師匠の動きを鈍らせるタイミングだってある。そのタイミングを狙い、私は動きが鈍くなったグレゴへと拳を走らせて……
ガギンッ!
「ちっ……!」
まるで鉄に拳をぶつけたような音が、響く。しかし、そこには鉄はもちろんなにもない……そう、なにもないように見えるだけ。実際には、透明な盾がある。
ボルゴの守りの力は、離れたところからでも展開可能な上に、その防御力は私の拳も通さない。逆に、こっちの手が痺れてくる。
私の打撃が通用しないなら、この魔力だって通用しないだろう。エリシアの半分しかないのだ、足りない。
「っ、はぁ、ふぅ……」
さっきから、動きっぱなしだ。考えることができないから、対処しながら次の手を感覚的に打ち出すしかない。それも、いつまで持つか……
それに、消耗する私とは反対に、向こうはエリシアの魔法ですぐに回復することができる。たった一人で回復の暇さえない私とは違い、エリシアはグレゴや師匠の後方にいるのだ。私の攻撃が届くことはない。
くそ、こういうときは、まず回復役から倒すのがセオリーなんだけど……回復役を守る連中が、世界最高の実力者って笑えない。
このままじゃ削られて、搾られて、消耗しきったところを……ヤられる。
「はぁあ!」
「ふん!」
グレゴと師匠の猛攻は絶え間なく続くが、常に二人が襲ってくるわけではない。グレゴが攻めに転じるタイミングで師匠が回復、それをサシェとボルゴが援護。グレゴと師匠の逆もまた然りだ。
あぁ、ここに私も加わってたんだよね……ホントこれを相手にしていた魔族たちは不運だな! こんなのに襲われて無事でいられる保証なんてない。
いや、魔族は数で押せただけましか。単体でこの多に挑むなんて、本来やることじゃない。
「まさかこうも、防戦一方なんて……!」
ボルゴに攻撃の手を封じられる以外にも、そもそもグレゴや師匠に生半可な攻撃は通用しない。かといって、エリシアやサシェのトリッキーな動きでこっちのペースも乱される。
でも、弱音を吐いてばかりもいられない。本物ならともかく、幻覚なんかに……記憶の中の人物に、殺されてなるものか!
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