上 下
244 / 522
英雄狙う暗殺者の罠

おいしい料理店での不思議な出会い

しおりを挟む

「あーんっ」


 パクリ……モグモグ……バクバク……ごっくん!


「ふぁあー、おいしー!」

「嬢ちゃん、いい食べっぷりだねぇ!」


 目の前に並ぶ、数々の品々。ご飯類に、麺類に、おかずに。品名はあるのだろうけど、もはやそれを把握することはなく、目の前のそれらをただ食欲に任せて食べていく。

 とにかく、お腹が空いている……だからか、驚くほどに目の前の料理が量を減らしていく。


「…………」


 隣でユーデリアが、若干引いている気がしないでもないが、気にしない。それよりも、まずは食欲を満たすことが第一だ。

 今私たちは、とある村にやって来ている。空腹に耐え兼ねかけていたところで発見した、それなりに大きな村だ。本来なら、村を発見した時点で、村に住む人々は皆殺しなんだけど……

 今回のように、とんでもなくお腹が空いているときは。殺しを開始する前にまず、お客として店に入り、料理をたらふく食べる。だって、そうでないと料理とはいえない、味気ない食物を食べることになってしまうから。

 そりゃあ私だって、少しなら料理はできるよ。できるけど、どうせならプロの料理人が作ったものを、食べたいじゃない。それに、自分で作ろうにも作る気力がないし……死体の転がる場所で、料理なんか作れるはずもない。

 だから、ここで殺しを行うのは、たっぷりご飯を食べてからにする。ご飯を食べ終えたら、始めよう。

 ちなみに、ユーデリアはこの考えを聞いて……


『いや、なんか……すげーな』


 と、言っていた。目をそらしながら。なにを考えているのか、わからないこともなかったが、わざわざ私から突っ込むことはしなかった。

 そんなわけで、お腹いっぱいになるまでこうして食べているわけだ。飲み物もたっぷりあるし、食べ物が喉に詰まることもない。喉を、潤していく。

 これがなかなか、おいしいのだ。


「んっ……ぷはぁ!」

「よく食うなぁ」


 そう言いながらちびちびと食べるユーデリアだけど、実は最初のうちは同じくらいの勢いでバクバク食べていたのだ。今は少し、落ち着いただけで。

 コアにも、ちゃんと食べさせてあげている。お店の中にまでは入れないから、入り口に繋いで、頼んだ料理を置いている。あの子も、長旅を苦労させているからね。

 それにしても……


「「はぁー、ここの料理はおいしいなぁ!」」


 と、声が重なる……ん……重なる?

 私とは別の声が、私とまったく台詞を言った。ユーデリアでは、ない。ユーデリアは隣で、むしゃむしゃとパンのようなものを食べ進めている。

 なら、反対か……今私は、カウンター席に座っている。ユーデリアの方向ではないし、むしろユーデリアの反対側の隣から、声がした。そちらへと、ゆっくり顔を向けると……


「あぁ、これはどうも」

「ど、どうも」


 向こうから、小さく頭を下げてきた。女の人だが、当然初対面だ。今の反応だって、初めて会った相手に対して使ってもなんの不思議もない。

 明るい赤髪を短めにしており、目や鼻などパーツが整った顔をしている。一目でかわいらしい顔立ちだとわかるほどだ。種族は人間、だろうか。

 軽く笑みを浮かべる彼女の瞳は、真紅に光っていた。彼女の格好を見るに、この村の住人……というより、私と同じ旅人、という方が正しいだろう。

 ……いや、同じ、というのは語弊があるかな。私の場合、旅は旅でもその目的は旅ってほど穏やかなものじゃあないし。


「ホント、ここの料理はおいしいですよねぇー」

「え? えぇ」


 隣の女性は、食事を続けながら私に話しかけてくる。私ほどの量はないにしても、それなりの量を食べているようだ。

 年は……私と同じか、それより少し上かな? こんな子が、一人で多分旅をしているのか。どんな理由があるのか……少し気になったが、私には関係のないことだ。


「そちらも、旅をしてるんですか?」

「え? えぇまあ」


 そのまま食事に戻る……かと思いきや、最中にも話しかけてくる。なんだこの人。

 そちらも、ってことは、やはりこの人は旅人か。


「へぇ、一人で? それとも、そちらの小さい彼氏さんと?」

「誰が彼氏か!」


 ユーデリアの方へと視線を向け、まさか彼氏と言われるとは……まあ、席の空いている店内でわざわざカウンターで隣に座って、同じものを食べていたらそう思う、のか?

 ユーデリアねぇ……大きくなったら、それなりにいい男になりそうではある。だけど、今の時点では私のタイプではないし、なにより子供だし。


「……なんだよ」

「なんでもなーいよ」


 ないな、ないない。考えてみれば、男女の二人旅なんて、なにかが起こってもおかしくはない状態である。個人的にも好物な状態ではあるが……

 この子と……いや、こうなってしまったから、色恋沙汰なんて考えられない。考えたこともないし。花の女子高生として、それはなんとも寂しいわけだけど。


「んぐっ、んぐっ……ぷはぁっ」


 口の中の食べ物を、飲み物を含むことで一気に流し込む。いやぁ、ここの料理はおいしかった。この店を選んで、殺してしまう前に料理を食べることにしてよかった。


「いい食べっぷり飲みっぷりですねぇ。こっちまで嬉しくなっちゃいますよー」

「あはは、それはどうも」


 同じ旅人、というくくりのためか、妙に親しげに話しかけてくるな、この人。

 ……ま、どうせこの人も死んでしまうだろう。旅人だというなら、この村に寄ったことが運の尽きと諦めてもらうしかない。


「じゃ、私はこれで……ごゆっくり」

「もう行っちゃうんですかー、寂しいですねぇ。……ま、近いうちにまた会えそうですけどね」


 あくまでも社交辞令……言葉を交わして、私はユーデリアを連れて店を出る。また会えそう、か……そんな日は来ないだろう。同じ旅人でまたどこかの村で、どころか、私は今からこの村を壊すんだから。

 この店の料理は、おいしかった。せめて、最期においしい料理が食べられて、わずかな自分の運に感謝するといいさ。






「あれが、『英雄』……間抜けそうなただのガキって感じだったが。けど、ありゃあ……化けもんだな」
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

日本帝国陸海軍 混成異世界根拠地隊

北鴨梨
ファンタジー
太平洋戦争も終盤に近付いた1944(昭和19)年末、日本海軍が特攻作戦のため終結させた南方の小規模な空母機動部隊、北方の輸送兼対潜掃討部隊、小笠原増援輸送部隊が突如として消失し、異世界へ転移した。米軍相手には苦戦続きの彼らが、航空戦力と火力、機動力を生かして他を圧倒し、図らずも異世界最強の軍隊となってしまい、その情勢に大きく関わって引っ掻き回すことになる。

転生したらただの女の子、かと思ったら最強の魔物使いだったらしいです〜しゃべるうさぎと始める異世界魔物使いファンタジー〜

上村 俊貴
ファンタジー
【あらすじ】  普通に事務職で働いていた成人男性の如月真也(きさらぎしんや)は、ある朝目覚めたら異世界だった上に女になっていた。一緒に牢屋に閉じ込められていた謎のしゃべるうさぎと協力して脱出した真也改めマヤは、冒険者となって異世界を暮らしていくこととなる。帰る方法もわからないし特別帰りたいわけでもないマヤは、しゃべるうさぎ改めマッシュのさらわれた家族を救出すること当面の目標に、冒険を始めるのだった。 (しばらく本人も周りも気が付きませんが、実は最強の魔物使い(本人の戦闘力自体はほぼゼロ)だったことに気がついて、魔物たちと一緒に色々無双していきます) 【キャラクター】 マヤ ・主人公(元は如月真也という名前の男) ・銀髪翠眼の少女 ・魔物使い マッシュ ・しゃべるうさぎ ・もふもふ ・高位の魔物らしい オリガ ・ダークエルフ ・黒髪金眼で褐色肌 ・魔力と魔法がすごい 【作者から】 毎日投稿を目指してがんばります。 わかりやすく面白くを心がけるのでぼーっと読みたい人にはおすすめかも? それでは気が向いた時にでもお付き合いください〜。

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します

有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。 妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。 さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。 そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。 そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。 現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!

ガチャと異世界転生  システムの欠陥を偶然発見し成り上がる!

よっしぃ
ファンタジー
偶然神のガチャシステムに欠陥がある事を発見したノーマルアイテムハンター(最底辺の冒険者)ランナル・エクヴァル・元日本人の転生者。 獲得したノーマルアイテムの売却時に、偶然発見したシステムの欠陥でとんでもない事になり、神に報告をするも再現できず否定され、しかも神が公認でそんな事が本当にあれば不正扱いしないからドンドンしていいと言われ、不正もとい欠陥を利用し最高ランクの装備を取得し成り上がり、無双するお話。 俺は西塔 徳仁(さいとう のりひと)、もうすぐ50過ぎのおっさんだ。 単身赴任で家族と離れ遠くで暮らしている。遠すぎて年に数回しか帰省できない。 ぶっちゃけ時間があるからと、ブラウザゲームをやっていたりする。 大抵ガチャがあるんだよな。 幾つかのゲームをしていたら、そのうちの一つのゲームで何やらハズレガチャを上位のアイテムにアップグレードしてくれるイベントがあって、それぞれ1から5までのランクがあり、それを15本投入すれば一度だけ例えばSRだったらSSRのアイテムに変えてくれるという有り難いイベントがあったっけ。 だが俺は運がなかった。 ゲームの話ではないぞ? 現実で、だ。 疲れて帰ってきた俺は体調が悪く、何とか自身が住んでいる社宅に到着したのだが・・・・俺は倒れたらしい。 そのまま救急搬送されたが、恐らく脳梗塞。 そのまま帰らぬ人となったようだ。 で、気が付けば俺は全く知らない場所にいた。 どうやら異世界だ。 魔物が闊歩する世界。魔法がある世界らしく、15歳になれば男は皆武器を手に魔物と祟罠くてはならないらしい。 しかも戦うにあたり、武器や防具は何故かガチャで手に入れるようだ。なんじゃそりゃ。 10歳の頃から生まれ育った村で魔物と戦う術や解体方法を身に着けたが、15になると村を出て、大きな街に向かった。 そこでダンジョンを知り、同じような境遇の面々とチームを組んでダンジョンで活動する。 5年、底辺から抜け出せないまま過ごしてしまった。 残念ながら日本の知識は持ち合わせていたが役に立たなかった。 そんなある日、変化がやってきた。 疲れていた俺は普段しない事をしてしまったのだ。 その結果、俺は信じられない出来事に遭遇、その後神との恐ろしい交渉を行い、最底辺の生活から脱出し、成り上がってく。

料理スキルで完璧な料理が作れるようになったから、異世界を満喫します

黒木 楓
恋愛
 隣の部屋の住人というだけで、女子高生2人が行った異世界転移の儀式に私、アカネは巻き込まれてしまう。  どうやら儀式は成功したみたいで、女子高生2人は聖女や賢者といったスキルを手に入れたらしい。  巻き込まれた私のスキルは「料理」スキルだけど、それは手順を省略して完璧な料理が作れる凄いスキルだった。  転生者で1人だけ立場が悪かった私は、こき使われることを恐れてスキルの力を隠しながら過ごしていた。  そうしていたら「お前は不要だ」と言われて城から追い出されたけど――こうなったらもう、異世界を満喫するしかないでしょう。

レベルを上げて通販で殴る~囮にされて落とし穴に落とされたが大幅レベルアップしてざまぁする。危険な封印ダンジョンも俺にかかればちょろいもんさ~

喰寝丸太
ファンタジー
異世界に転移した山田(やまだ) 無二(むに)はポーターの仕事をして早6年。 おっさんになってからも、冒険者になれずくすぶっていた。 ある日、モンスター無限増殖装置を誤って作動させたパーティは無二を囮にして逃げ出す。 落とし穴にも落とされ絶体絶命の無二。 機転を利かせ助かるも、そこはダンジョンボスの扉の前。 覚悟を決めてボスに挑む無二。 通販能力でからくも勝利する。 そして、ダンジョンコアの魔力を吸出し大幅レベルアップ。 アンデッドには聖水代わりに殺菌剤、光魔法代わりに紫外線ライト。 霧のモンスターには掃除機が大活躍。 異世界モンスターを現代製品の通販で殴る快進撃が始まった。 カクヨム、小説家になろう、アルファポリスに掲載しております。

処理中です...