異世界召喚され英雄となった私は、元の世界に戻った後異世界を滅ぼすことを決意した

白い彗星

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世界への反逆者 ~英雄と師~

狙う者同士

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「ふぅ……これで、よしと」


 師匠のお墓を作りはじめて、どれくらいの時間が経ったかはわからないが……無事、お墓を作ることに成功する。

 お墓とはいっても、師匠が入る分だけの穴を掘り、そこに遺体を埋め、土を被せたあとに手頃な岩を突き刺す、という簡易的なものではあるが。

 ユーデリアは、故郷の仲間の数だけ同じ作業を一人で行っていたのだから、その労力は凄まじいものだろう。師匠ほど大柄な人物はいないだろうとはいえ、ユーデリア自身まだ小さいというのにだ。

 その分人一人分であった私は、ユーデリアに比べればかなり早い時間で、事を済ませられたと言えるだろう。


「……じゃあね、師匠」


 師匠とは、最後の最期にちゃんと、話すことができたような気がする。たとえ死んでても、禁術により無理に生き返らせられたとしても……その魂は、完全な偽物では、なかった。

 確かに、本物が、そこにいた。


「……って、柄もなく考えることでもないか」


 昔の私ならともかく、今の私が、こんなセンチメンタルなことを考えるなんて似合わない。というか、そんな資格もないと言った方がいいか……思うことは、いろいろあるけれど。

 この世界に、復讐するために私は戻ってきた。けれど、この世界を見ているうちに……腐っている部分も、見えてきた。

 勇者としてこの世界を旅していた頃には、決して見ることのなかった景色。きれいだと思っていた世界が、実際は腐っている部分があちこちにある、ということだ。

 呪術という力で人の尊厳を弄んだり、禁術という力で死んだ人間すらも動かしたり、奴隷という人身売買が行われていたり。魔物、いや魔王が現れたことで危機に瀕していた世界は、脅威がなくなった途端、平和になるなんてことはなかった。

 一つの脅威が去れば、また別の脅威が現れるだけ。平和なんてものは、なんだかんだ言ってどこにもない。私の元いた世界だって、そうだった。

 昔は戦争なんてものが起こっていたけど、今はそんなものは起こってはない……その点で言えば平和なのかもしれないけど、個人的なやり取りから人を殺すまでに発展、なんてことは日常茶飯事だ。

 そりゃ、この世界みたいに魔物とか呪術とか、なんだったら魔法なんてものも存在しない。なのに、毎日のようになにかしらの事件が起こる。魔法のある世界だろうとない世界だろうと、平和なんてものはどこにもないのだ。

 平和でないから、平和を壊すものではない私の行為は正当化される、なんてことは言わないけどね。


「お待たせ、コアー」


 先ほど治療し、お墓作りの間じっとして体を回復してもらっていたコアのところへと戻る。この子にはずいぶん無理をさせたし、本当ならばもっと労いたいけど……

 残念ながらそんな余裕は、今はない。


「……結局なんだったんだ、あのおっさんは」


 と、生意気な口調で近づいてくるユーデリア。ユーデリアには、私の過去については大まかに話してあるけど、さすがに詳細までは話していない。今のように、襲ってきた人が私の師匠、というようなものは。

 とはいえ、私の言動から大方の予想はついてるんだろうけど。


「アンに、戦い方を教えた人ってとこか……よかったのか、殺して」


 ユーデリアなりの心配、だろうか。私にとって特別な思い入れのある人間だ、戦い殺すことになったことに、なにか思うところがあるのではないかと。


「ないよ。それに、もう死んでた人だ」


 グレゴやエリシア同様、師匠もこの手にかけた。もっとも師匠の場合は、すでに死んでいたが……私にとっては、もはや悲しみとかそんな感情(もの)は、ない。

 あるとすれば、死んでいた人間を無理やり動かし、差し向けた卑劣な奴への怒りか……いや、これを怒りと呼べるのかは、わからないけど。


「ない、か。そんなもんか。……しかし、死んでたって……生き返ったって、ことかよ」

「前にキミ、言ってたでしょ。禁術……誰かがそれで、師匠を生き返らせた」


 その誰か、についての手がかりは今のところまったく掴めていないが……


「禁術……そんなの、ホントに実在するのか? それに、実在したとしても、どうしようもないだろ」

「そんなことないよ。多分、遠くないうちに……向こうから、接触してくるはずだよ」


 私は、気づいていた。師匠との戦いの最中、離れた場所から私たちを、いや私を観察するように見ていた、何者かがいたのを。

 おそらくは、師匠を生き返らせた奴の手の者だろう。生き返らせた師匠が、私を倒せるかを見ていたのだろう。さすがに、師匠の相手をしながらそいつを始末する余裕はなかったけど。

 師匠との戦いが終わった後、いつの間にかいなくなっていた。あれ、多分本人は私に気づかれていないつもりだったんだろう。

 そんな人物が、いたのだ。差し向けた師匠が私を殺せなかったとなれば、次にはおそらく直接動くはず。少なくとも、今までの呪術の力を与えられた男たちや、死者を生き返らせてではないだろう。

 そいつが、いったいどれほどの規模で動いているのかはわからない。が、単体でないことは確実……その中に、ノットやバーチという人間がいた。

 バーチは死んだ。ノットは、フード越しとはいえ姿は過去の映像で見ている。もしもそいつが接触してきたら……わかる、はずだ。独特の雰囲気が、あるはずだ。

 向こうも、わざわざ私に死者を向かわせたってことは、確実に標的にしている。……いいさ、向こうが私を、私も向こうを狙っている。お互いを、殺すために。

 お互いが、ぶつかるのも……そう、遠くはないのかも、しれない。
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