235 / 522
世界への反逆者 ~英雄と師~
手がかりはそれだけ
しおりを挟む拳を手刀の形にして、一気に真正面へと振り抜く。私の手はあくまでも人の手ではあるけど、この手刀は人体を切断できるほどに強度は硬い。
それを、無防備な師匠の首元へと突き刺す。指先、手刀となったとなった切っ先部分は、師匠の喉部分にいとも簡単に、突き刺さる。
ザクッ……
「っ……」
手刀が突き刺さった喉からは、赤い血が、流れていく。死んでいたはずの体には、確かに赤い血が通っているのだ。しかも、元々死体の残っていない体に……不思議なことだ。
「ぁ、ふっ……」
小さく声を漏らし、師匠の見開かれた目からはだんだんと光が失われていく。力尽きる寸前……口元が上がり、小さく笑みを浮かべていた。気がした。
手を、引き抜く。詮がなくなったため喉からは大量の血が流れだし、力を失った師匠の体は、ゆっくりと倒れていく。うつぶせに、倒れていく。
ドサッ……と、大きな体が、横たわる。
「……はぁっ」
終わった……それを実感し、どっと疲れが押し寄せてくる。体の痛みも、ある。本当は、痛みもあるはずなんだけど……どうしよう、それよりもただ、疲労感の方が大きい。
その場に、座り込む。もっと、痛みにもがいて転げ回ってしまうのを想像してたのに、とんでもない疲労感がただあるだけだ。
……師匠の体は消えてない、か。あの時残らなかった、師匠がそこにいた証拠が……ちゃんと、残っている。
「……終わったの、か?」
「ん……」
ふと、後ろから声をかけられる。首だけで、振り向くと……そこには、ボロボロになったユーデリアの姿。
力尽きているのか、人型だ。
「あぁ、生きてたんだ」
「死ぬか。……まあ、死にそうだったけど」
途中から、ユーデリアは完全に気絶し、戦線を離脱していた。今まで伸びていたわけだが、師匠からあれだけの攻撃を受けたのに、むしろ死んでないこと自体すごいことだ。
この子もこの子で、いろいろ規格外だな。
「で、どうすんのそいつ」
と、ユーデリアは師匠へと視線を向ける。
ユーデリアにとっては、自分たちを殺そうとしたただの敵だ。ここに放置していく、もしくは跡形もなく消し去っていく考えもあるだろう。
……でも。
「……この人は、ちゃんと埋めてあげたい」
グレゴもエリシアも、私の手で殺して、そして今は雪の下だ。雪の下といっても自ら埋めたわけではなく、結果的にそうなっただけで……
それを考えたら、師匠はこの場に放置していってもなんの問題もない。けど……
一度は、死体もなく、お墓を作ってもその下になにも埋めることができなかった。だから今回は、せめて……
「ふぅん……ま、勝手にすれば」
そっけなくも、ユーデリアは勝手にすればと他にはなにも言わない。その場に座り込み、地面に横になる。
疲れているせいか、すぐに寝息が聞こえてくる。のんきというか、肝が座ってるというか……
「……ぷっ」
なんだかおかしくて、一人で吹き出してしまう。
その後、私自身とユーデリア、そしてコアの体を、回復魔法で治していく。痛みで集中できなくなるかなと思いきや、わりとすんなりと行うことができた。
体の傷を治して。ユーデリアは寝ているからそのままだけど、痛い思いをさせてしまったコアのことは思い切り撫で回して。それから、師匠のお墓を作る。
コアも手伝ってくれようとしたけど、それを断る。これは、私がしたいからするのだ。もう、この手は汚れてしまった私がこんなことをしても、なんの意味もないとは思うけど……したいから、やるんだ。
……それでもまさか、誰かのお墓を作ることになるなんてな。こっちに戻ってきてそんなことをするなんて、思っても見なかった。
ただ、これで私の、中の気持ちが、なにか変わるということは、ない。これはあくまで、そう……一つのケジメ、みたいなものだ。お世話になった人への、せめて最期くらいと。
こうやって、魔法も道具も使わず、手で地面に穴を掘っていく。こういうとき、自分の体に硬さの強度があってよかったなって、思う。
時間は、かかる。それでも…………あぁ、これ、故郷に帰って仲間たちのお墓を作っていた、ユーデリアと同じ事をしているのか。ユーデリアも、いろんなことを考えながら、お墓を作っていたのだろう。
いったい何者が、死んだ師匠を生き返らせ、私に差し向けたのか……確実に、私の邪魔をしている奴が、いる。そいつは、呪術の炎を与えられた、氷狼の村に現れた男たちの裏にいるのと十中八九同じ人物だろう。
手がかりは……過去の映像で見た、男たちと一緒にいたノットと言う人物。そして、バーチ。もっともこっちは、マルゴニア王国でユーデリアが殺しちゃったわけだけど。
今ある手がかりは、それだけ……ノットという、正体もなにもわかっていない人物の存在だ。なのに、おそらく向こうは私たちのことをよく知っている。でないと、私に師匠をぶつけてはこないだろう。
見られている……可能性が、ある。なんだか、いい気はしない。ただ、私の邪魔をするというのなら……そいつらもいずれ、見つけ出して……殺してやる。
0
お気に入りに追加
153
あなたにおすすめの小説
最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~
ある中管理職
ファンタジー
勤続10年目10度目のレベルアップ。
人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。
すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。
なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。
チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。
探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。
万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。
俺が死んでから始まる物語
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。
だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。
余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。
そこからこの話は始まる。
セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕
『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?
釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!
父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。
その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。
最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。
その他、多数投稿しています!
https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394
異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
クラスまるごと異世界転移
八神
ファンタジー
二年生に進級してもうすぐ5月になろうとしていたある日。
ソレは突然訪れた。
『君たちに力を授けよう。その力で世界を救うのだ』
そんな自分勝手な事を言うと自称『神』は俺を含めたクラス全員を異世界へと放り込んだ。
…そして俺たちが神に与えられた力とやらは『固有スキル』なるものだった。
どうやらその能力については本人以外には分からないようになっているらしい。
…大した情報を与えられてもいないのに世界を救えと言われても…
そんな突然異世界へと送られた高校生達の物語。
痩せる為に不人気のゴブリン狩りを始めたら人生が変わりすぎた件~痩せたらお金もハーレムも色々手に入りました~
ぐうのすけ
ファンタジー
主人公(太田太志)は高校デビューと同時に体重130キロに到達した。
食事制限とハザマ(ダンジョン)ダイエットを勧めれるが、太志は食事制限を後回しにし、ハザマダイエットを開始する。
最初は甘えていた大志だったが、人とのかかわりによって徐々に考えや行動を変えていく。
それによりスキルや人間関係が変化していき、ヒロインとの関係も変わっていくのだった。
※最初は成長メインで描かれますが、徐々にヒロインの展開が多めになっていく……予定です。
カクヨムで先行投稿中!
異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?
お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。
飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい?
自重して目立たないようにする?
無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ!
お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は?
主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。
(実践出来るかどうかは別だけど)
俺だけレベルアップできる件~ゴミスキル【上昇】のせいで実家を追放されたが、レベルアップできる俺は世界最強に。今更土下座したところでもう遅い〜
平山和人
ファンタジー
賢者の一族に産まれたカイトは幼いころから神童と呼ばれ、周囲の期待を一心に集めていたが、15歳の成人の儀で【上昇】というスキルを授けられた。
『物質を少しだけ浮かせる』だけのゴミスキルだと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。
途方にくれるカイトは偶然、【上昇】の真の力に気づく。それは産まれた時から決まり、不変であるレベルを上げることができるスキルであったのだ。
この世界で唯一、レベルアップできるようになったカイトは、モンスターを倒し、ステータスを上げていく。
その結果、カイトは世界中に名を轟かす世界最強の冒険者となった。
一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトを追放したことを後悔するのであった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる