上 下
227 / 522
世界への反逆者 ~英雄と師~

生き返らせた何者か

しおりを挟む

 師匠の横っ面へと、拳を思いきり叩き込む。主観でなく客観的に、岩をも砕く一撃だ。

 そのまま、力を込めて……勢いを乗せたまま、その大きな体を、地面へと、叩きつける!


「ぬぅう!」


 ガゴンッ!


「ぐ、ぅっ……!」


 力の限りを込めれば、一回りは大きい師匠の体だって、吹っ飛ばすことができる。

 大きな体が地面に沈み、地面には亀裂が走る。いっそこのまま、地面の下に埋めてしまった方がいいかのかもと思ったけど、それは現実的ではないか。

 とにかく、今は師匠が起き上がるまでの、わずかな時間で……もうここでとどめをさすくらいの勢いで、ダメージを与えてしまえ!


「ぅえい!」

「ぐぅっ!?」


 うつ伏せの状態から起き上がろうとする師匠の背中へ、かかと落としをおみまいする。ボキィ、と骨が折れる音が耳に届くが、それに躊躇して攻撃の手を緩めることは、しない!

 続いて、膝打ち。呻く師匠の声を聞きつつ、隙を与えないよう、肘打ちをおみまいする。


「ふん、ぐっ……」


 こっちに正面が向いている状態なら、喉とか急所を、狙うことができたんだけど……言っていても、仕方ないか!

 身体中が痛い、特にさっき何度も殴られ蹴られた腹部辺りが、とんでもなく痛い。気を抜いたら、気を失ってしまいそうだ。

 耐えろ……あとで、どうなってもいい。だけど今、こちらが少しでも隙を見せたら、終わりだ!


「はぁああああ!」


 左手拳を、何度も背中に浴びせていく。片腕しかないとはいえ、もうこの状態になってそれなりに長い。片腕のみは不便だと最初こそ感じていたが、今でこそ特に不便はない。

 片腕のみの連打だって、両腕があるのとほぼ同じ勢いで、絶え間なく打ち込むことができる。


「消え、ろぉおお!」


 この師匠が、本当に生き返ったんだとして……どうやったのかはわからないけど、死体もない状態から、復活したんだとして。

 それらが本当だとして。この男は、もう私の知ってる師匠じゃない。師匠は死んだし、あの頃の師匠とは違う!

 ……いや、違うか。変わったのは、私もだ。


「本当に強いな、アンズ……だが、そんなもんじゃ俺は殺せない」


 ドゴッ……!


 拳が背中に打ち付けられ、衝撃が周囲に伝わる。背中から地面に向けて衝撃が突き抜け、地面に大きなクレーターが生まれる。

 もう、体が粉々になってもおかしくないほどの一撃。これまでのダメージも蓄積されている。動けるはずがない。

 ……そのはず、なのに……


「くっ……?」


 打ち込んだ背中は硬く、硬く、硬い。

 もう動けもしないはずの師匠は、勢いよく体を起こし……私は、飛び退く。


「なかなか効いたぞ、アンズー」


 正面をこちらに向けると……口からは血が流れ、さらに体からも血が流れている。内側からのダメージもあるのだろう、とても平気とは思えない。

 思えないのに……なんであんなに、元気なんだ?


「まさか、本当にゾンビなんじゃあ……」


 ゾンビならば、疲れてもどれだけダメージを負っても、動けなくなっても動き続ける。というイメージがある。

 これではまるで、その知識の中の……


「その力を、どうしてもっと有効に使わないのか……いや、どうしてこんなことに使ったのか」


 嘆くような、師匠の声。こんな力、私の元いた世界ではもちろん、平和になったこの世界ですら役には立たない。

 強大すぎる力は、もて余せば負担でしかない。


「あんたには、関係ない……」

「話してくれないかアンズ。お前じゃ俺は倒せない。ならせめて、その胸のうちを吐き出して、楽にならないか」


 ……楽、に、か。確かに、私は私が元いた世界に戻ってからなにがあって、どうしてこんなことをするに至ったか、話したのはユーデリアだけだ。コアにも、会話はできないけど話した。

 敵対する相手に話すはずもないし、仮に話したところで、八つ当たりに近いこの行動を許容してくれる人なんて、おそらくどこにもいないだろう。

 ……たとえ、師匠でも。


「話すことで楽になれるぞ? お前だって、ただ暴れたいからこんなことをしているわけじゃないんだろ?」


 私では師匠は倒せない……その余裕か。いきなり、私が暴れる理由を教えろ、なんて……

 ……なんでそんなこと、言うんだ。師匠なら、今こんなことは言わない。再会してすぐにでも、戦いの途中だって理由を聞き出そうとするはずだ。それを、自分が有利になったから聞こうだなんて。

 ……師匠らしく、ない。


「なあアンズ、話を……」

「もしかして、あんたを復活させた奴の指示? 私が、いや元『英雄』がなんで人殺しなんてやってるか。なんであちこちで暴れてるのか。その理由を、聞き出せって指示でも受けた?」

「……」


 ……口が、止まる。師匠の口が、動かなくなる。それは、私の言葉が的を射ていたから、なのだろうか。

 師匠を生き返らせたのが何者かだとして。私の目的を知りたいと思っているのだとしたら。師匠の圧倒的な力を前に、私が行動の理由を話してしまうことを期待してるんだとしたら。


「悪いね。絶対に話す気はない。あんたも、あんたの裏にいる奴も……絶対に、殺してやるから」


 今の師匠の言動からも……その何者かと、リアルタイムで繋がっている理由は、高い。

 なら、そいつを引きずり出してやる!
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

転生したらただの女の子、かと思ったら最強の魔物使いだったらしいです〜しゃべるうさぎと始める異世界魔物使いファンタジー〜

上村 俊貴
ファンタジー
【あらすじ】  普通に事務職で働いていた成人男性の如月真也(きさらぎしんや)は、ある朝目覚めたら異世界だった上に女になっていた。一緒に牢屋に閉じ込められていた謎のしゃべるうさぎと協力して脱出した真也改めマヤは、冒険者となって異世界を暮らしていくこととなる。帰る方法もわからないし特別帰りたいわけでもないマヤは、しゃべるうさぎ改めマッシュのさらわれた家族を救出すること当面の目標に、冒険を始めるのだった。 (しばらく本人も周りも気が付きませんが、実は最強の魔物使い(本人の戦闘力自体はほぼゼロ)だったことに気がついて、魔物たちと一緒に色々無双していきます) 【キャラクター】 マヤ ・主人公(元は如月真也という名前の男) ・銀髪翠眼の少女 ・魔物使い マッシュ ・しゃべるうさぎ ・もふもふ ・高位の魔物らしい オリガ ・ダークエルフ ・黒髪金眼で褐色肌 ・魔力と魔法がすごい 【作者から】 毎日投稿を目指してがんばります。 わかりやすく面白くを心がけるのでぼーっと読みたい人にはおすすめかも? それでは気が向いた時にでもお付き合いください〜。

王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します

有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。 妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。 さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。 そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。 そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。 現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!

【しっかり書き換え版】『異世界でたった1人の日本人』~ 異世界で日本の神の加護を持つたった1人の男~

石のやっさん
ファンタジー
12/17 13時20分 HOT男性部門1位 ファンタジー日間 1位 でした。 ありがとうございます 主人公の神代理人(かみしろ りひと)はクラスの異世界転移に巻き込まれた。 転移前に白い空間にて女神イシュタスがジョブやスキルを与えていたのだが、理人の番が来た時にイシュタスの顔色が変わる。「貴方神臭いわね」そう言うと理人にだけジョブやスキルも与えずに異世界に転移をさせた。 ジョブやスキルの無い事から早々と城から追い出される事が決まった、理人の前に天照の分体、眷属のアマ=テラス事『テラスちゃん』が現れた。 『異世界の女神は誘拐犯なんだ』とリヒトに話し、神社の宮司の孫の理人に異世界でも生きられるように日本人ならではの力を授けてくれた。 ここから『異世界でたった1人の日本人、理人の物語』がスタートする 「『異世界でたった1人の日本人』 私達を蔑ろにしチート貰ったのだから返して貰いますね」が好評だったのですが...昔に書いて小説らしくないのでしっかり書き始めました。

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?

お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。 飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい? 自重して目立たないようにする? 無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ! お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は? 主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。 (実践出来るかどうかは別だけど)

ガチャと異世界転生  システムの欠陥を偶然発見し成り上がる!

よっしぃ
ファンタジー
偶然神のガチャシステムに欠陥がある事を発見したノーマルアイテムハンター(最底辺の冒険者)ランナル・エクヴァル・元日本人の転生者。 獲得したノーマルアイテムの売却時に、偶然発見したシステムの欠陥でとんでもない事になり、神に報告をするも再現できず否定され、しかも神が公認でそんな事が本当にあれば不正扱いしないからドンドンしていいと言われ、不正もとい欠陥を利用し最高ランクの装備を取得し成り上がり、無双するお話。 俺は西塔 徳仁(さいとう のりひと)、もうすぐ50過ぎのおっさんだ。 単身赴任で家族と離れ遠くで暮らしている。遠すぎて年に数回しか帰省できない。 ぶっちゃけ時間があるからと、ブラウザゲームをやっていたりする。 大抵ガチャがあるんだよな。 幾つかのゲームをしていたら、そのうちの一つのゲームで何やらハズレガチャを上位のアイテムにアップグレードしてくれるイベントがあって、それぞれ1から5までのランクがあり、それを15本投入すれば一度だけ例えばSRだったらSSRのアイテムに変えてくれるという有り難いイベントがあったっけ。 だが俺は運がなかった。 ゲームの話ではないぞ? 現実で、だ。 疲れて帰ってきた俺は体調が悪く、何とか自身が住んでいる社宅に到着したのだが・・・・俺は倒れたらしい。 そのまま救急搬送されたが、恐らく脳梗塞。 そのまま帰らぬ人となったようだ。 で、気が付けば俺は全く知らない場所にいた。 どうやら異世界だ。 魔物が闊歩する世界。魔法がある世界らしく、15歳になれば男は皆武器を手に魔物と祟罠くてはならないらしい。 しかも戦うにあたり、武器や防具は何故かガチャで手に入れるようだ。なんじゃそりゃ。 10歳の頃から生まれ育った村で魔物と戦う術や解体方法を身に着けたが、15になると村を出て、大きな街に向かった。 そこでダンジョンを知り、同じような境遇の面々とチームを組んでダンジョンで活動する。 5年、底辺から抜け出せないまま過ごしてしまった。 残念ながら日本の知識は持ち合わせていたが役に立たなかった。 そんなある日、変化がやってきた。 疲れていた俺は普段しない事をしてしまったのだ。 その結果、俺は信じられない出来事に遭遇、その後神との恐ろしい交渉を行い、最底辺の生活から脱出し、成り上がってく。

レベルを上げて通販で殴る~囮にされて落とし穴に落とされたが大幅レベルアップしてざまぁする。危険な封印ダンジョンも俺にかかればちょろいもんさ~

喰寝丸太
ファンタジー
異世界に転移した山田(やまだ) 無二(むに)はポーターの仕事をして早6年。 おっさんになってからも、冒険者になれずくすぶっていた。 ある日、モンスター無限増殖装置を誤って作動させたパーティは無二を囮にして逃げ出す。 落とし穴にも落とされ絶体絶命の無二。 機転を利かせ助かるも、そこはダンジョンボスの扉の前。 覚悟を決めてボスに挑む無二。 通販能力でからくも勝利する。 そして、ダンジョンコアの魔力を吸出し大幅レベルアップ。 アンデッドには聖水代わりに殺菌剤、光魔法代わりに紫外線ライト。 霧のモンスターには掃除機が大活躍。 異世界モンスターを現代製品の通販で殴る快進撃が始まった。 カクヨム、小説家になろう、アルファポリスに掲載しております。

処理中です...