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世界への反逆者 ~精霊との対峙~
水の化け物
しおりを挟む元の世界では、あったかいお風呂に入ることができていた。あの頃は、当然の事として受け入れていたけど……今となれば、すごく恋しい。
この世界でも、お風呂はあるけど……家みたいに、一人でのんびりなんて経験はできなかった。
それに、お風呂に入れないときは、エリシアの魔法で体を洗ってもらっていた。水属性を始め、火属性も組み合わせ、お風呂に入らずとも体をきれいにすることはできた。
それもそれで、悪くはないけど……やっぱりお風呂の、あの気持ちよさには敵わない。一人でゆったりと、あったかいお湯に肩まで浸かる、あの快感……
……もう、それも味わえないな。
「せめて、少しくらい……」
水浴びなんて……以前の旅のときにも経験したことはあるし、抵抗感はない。それに、家でだって、お湯を張ったと思ったらそれは実は水で、思い切り体にぶっかけたことだってある。
冷たかったなぁ。
ただ、水着がないプールと考えれば、冷たさ自体は気にならないだろう。
「あー、やっぱ入ろっ」
飲み水はちゃんと飲み水として確保した後で、水浴びをするとしよう。それに、考えてみればコアやユーデリアに知らせに行けば、考える問題すらないはずだ。
コアだって長らくの移動で、体を洗いたいかもしれないし。ついでにユーデリアも。
「よし、そうと決まれば……」
手っ取り早く飲み水を確保してから、一旦戻ろう……入れ物に水を、汲んでいく。
これで、当面の水も心配は……
「……ん?」
コポコポ、と音を立てながら、ペットボトルに似た容器に水を入れていく……ところへ、水面に、異変が起こる。容器を、水に浸している……ただそれだけしか私はやっていない。しかし、水面が、波打っていく。
もしかして、湖の中に魚でもいて、それが泳いだ影響で波打っているのだろうか。そう、思った……しかし、波はどんどん、大きくなっていく。
「……なにか、いる?」
この波打ちは、魚なんてかわいい大きさのものではない。でかい……人よりも、大きいなにかがいる。
もしや湖の、主だったりして? ただ、それにしては……底まで見透かせるほどに澄んだ湖なのに、そんな大きなものどころか小さな魚まで、目撃しなかった。
湖の中に、生き物はいないはずだ。
「でも、ならなんで……わっ!」
湖の中にはなにもいない……しかし水面は、徐々に水位を上げていく。しかも、湖の中央を中心に、まるで人の頭みたいな形で、上がってくる。ただ、それは比喩であり人の頭ほど、小さくない。
巨大ななにかが、いる。間違いなく。
「っ……」
水を汲むのを中断し、湖から距離をとる。
ザバァッ……!
そこになにかがいるのは、間違いない……が……今目の前にあるのは、水だ。正確には、なにか形を模した水……そう、たとえば水の中に潜ってきた人が勢いよく水面に飛び出し、上半身が水に包まれている、みたいな。
つまり、言ってしまえば……水柱が、沸き上がっている。
「でも、ただの水柱じゃない……?」
水柱は、まるで意思を持っているかのように、私に目……目どころかなにもないただの水だけど、表情があるならきっと目だろう……を向ける。
……私を、にらんでるのか?
「ガバァ……!」
それは、口……と思わしき場所から、声を出す。声といっても、それはなんの意味も持っていないものだ。もしくは、意味はあるけど言葉として発せられてないだけか。
水の中に顔をつけたまま、しゃべる……そういった感じだ。
「なに言ってるのかわかんない……うわっ!」
それとのにらみ合いは、数秒続く……直後、動きが起こる。巨大水柱とは別の場所から、細い水柱が上がり……それが、私目掛けて向かってくる!
なんとか、避けるが……水柱は、追いかけてくる。これじゃ水柱じゃなくて、水の鞭だ。自在に、動いている。
その威力はすさまじく、避けたために打ち付けられた地面は……鞭の形に、抉れてしまっている。あれは、当たったら痛いじゃ済まないな。
それにしても……なんだこれは。魔法……じゃないよな。近くに魔法を使っている術者の気配はないし……呪術では、もっとない。あの嫌な気配を、感じないはずはない。
「……」
なら、これは……?
「ガボボボァ……!」
考える暇も、与えてくれないか。ま、考えてもわかることはない……ったく、さっきから考えても仕方ないこと、多すぎるでしょ。
水柱は、一本だけではない。二本三本と次々と水柱が上がり、それが鞭のように動き、私を狙ってくる。
なんで私を狙うのか……水を汲んだから? 湖に近づいたから? どちらにしろ、命まで狙われるほど怒られる理由じゃ、ないと思うんだけど!
「よっ、ほっ……」
一本二本なら、避けるのに苦労はない。だけど、それが何本もとなれば話は別だ。
反撃しようにも、水の鞭が邪魔をして本体であろう、あの大きな水柱に近づけない。
いや、それどころか……
「せい!」
水の鞭を、蹴り上げる。すると、まるで弾けように水の鞭は消滅するのだが……再び、元の形へと戻っていく。水だから実体がなく、いくら物理で倒しても効果がない。
それは、魔法でも同じこと。風の刃で切り裂こうが、火の玉で蒸発させようが……本体に届く前に、無数の水の鞭に阻まれ、届かず、水の鞭は何度でも再生する。
なら……湖全体に、電撃でも落とすか。電撃なら、水の化け物でも……いや水だからこそ、通用するだろう。
「っ、と……」
ただ、それだけ大規模の魔法を、やすやすと撃たせてくれるわけもなく。水の鞭は自在に、動き私を狙う。
く、そ……やりづらいな! 魔物や人や、一対一から対多数と、いろいろなシチュエーションで戦いを重ねてきたが……実体のない相手、とは初めてだ。
物理も魔法も届かない。
ならもう、面倒なことは考えずに……
「突っ込む!」
水の鞭は、当たれば地面を抉るほどの威力だ……もう、ダメージ覚悟で突っ込み本体にぶち当たる。直撃を避ければ、回復魔法で回復できるし。
迫り来る水の鞭を避け、本体へと近づいていく。頬に、体に、水が元とは思えないほどの衝撃が叩き込まれ、切り傷が刻まれていく。その度に、回復魔法で治していく。
特効を決めれば、意外と大したことはない。こんなの、今までの経験に比べれば怖くもなんともない。
「でえぇい!」
本体へと、たどり着き……飛び上がり、思い切りぶん殴る。どうせこれも実体のない水なのだから、物理は効かないとわかっている……だから、拳に電撃を纏わせ、それを打ち込んだ。
湖全体への大規模魔法は無理でも、これくらいならば問題ない。さあ、何者か知らないけど、これでどうだ……
バリバリッ……!
「っんぁあああはぁああ!?」
「えっ」
本体に拳を打ち込み、電撃を流し込んだその瞬間……まるでおっさんのような、野太い声が辺りに轟いた。
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