異世界召喚され英雄となった私は、元の世界に戻った後異世界を滅ぼすことを決意した

白い彗星

文字の大きさ
上 下
197 / 522
英雄の復讐 ~絶望を越える絶望~

【幕間】懐かれる理由はなんだろう

しおりを挟む


 ……熊谷 杏。彼女は元々、動物に懐かれる体質、というわけではない。彼女本人は、動物のことはどちらかと言えば好きだし、むしろ野良猫とかを見かけると積極的に近づいていくタイプだ。

 だが、動物自ら来てくれることは、実はあまりない。嫌われているわけではないが、好んで近づいてくれる、というわけでもない。人並み、という言葉が正しいだろう。

 杏自体、好きではあってもどうしても動物に好かれたいと思っているわけではない……ものの、年頃の女の子として、動物との触れあいは大切にしていきたいわけで。

 昔、住んでいた家の近所で、野良猫を発見したことがあった。好奇心と、かわいそうという思いから、家から内緒でご飯を持っていき、猫に与えていたことがある。

 そのためか、猫は杏になつき、また杏も猫をかわいがっていた。だが、毎日のようにご飯をあげる生活を送っていれば、猫が杏の後を着けてくるのも、必然で……


『みゃー』

『え、にゃんこ!?』


 自分の知らない間に、猫が家まで着いてきた。元いた場所に帰そうにも、猫は離れることはなく……その愛くるしさに、杏はやられてしまっていた。

 結局、杏は母に、猫を飼っていいかを、聞いてみることにしたのだが……


『ダメよ』


 即答であった。その後も何度か頼んだが、母からの許可が下りることはなく……結局、猫を元いた場所へと連れ帰った。

 にゃーにゃーと鳴く猫の声は杏の耳から離れず、元の場所に帰した後も、着いてこようとするのを必死に降りきり、一人で帰宅した。

 以来、猫にご飯をあげに行くことはなくなり、その日からもしばらくの間杏の家を訪れていた猫も、来なくなった。

 それが、杏が特に印象深く残っている、動物との思い出……


「はぁ、思い出すなぁ」

「さっきから一人で、ぶつぶつなにを言ってるんだ」


 今、昔の思い出に浸っていたのは……今杏が乗っている動物、ボニーに触れてふと、昔の出来事がよみがえってきたからである。

 ボニー……四足歩行の生き物であり、杏の元いた世界で言うところの、馬そのものである。馬と違うところを指すならば、それはわかりやすく、体の色だ。

 青や黄色など、様々な色がある。このボニーは、青色の体をしている、美しい毛並みを持った動物だ。

 ちなみに、杏命名の『コア』という名前がある。由来は、杏の妹の名前から。


「ほんとお前は、いい子だよねってことを、噛み締めててさ」


 先ほどからどうやら、ぶつぶつと独り言を言っていたらしい。考えていることが無意識に口に出てしまうというのは、わりとよくあることだが。

 杏は、走るコアの頭を撫でながら、笑う。


「なんだ急に……ま、そいつがいい奴ってのは、ボクも認めるところだけど」


 普段杏に、というか誰に対しても小生意気なユーデリアだが……そんな彼も、このコアに対してだけは、当たりがキツくない。

 同じ四足歩行の獣同士、なにか通じあうものでもあったのだろうか。


「そう、いい子なんだよ。こんな私にも、ずっと着いてきてくれてるんだもんねー」


 世界に絶望し、すべてを壊しても構わないと思っている杏。だが……この子だけは、別だ。

 思えば、杏とコアとは不思議な関係だ。初めて会ったのは、なんということはない……杏がこの世界に戻ってきてから、すぐのことだ。

 世界を回るのに、さすがに徒歩ではキツい。そう思っていたところへ、移動手段として見つけたのが、このボニーだ。

 そして最初こそ、文字通り移動手段として見ていなかったが……こうして共に旅を続けるうちに、心境に変化が訪れた。たとえどんな過酷な旅であっても、こうして着いてきてくれるのだ。

 別に逃げないでと命令したわけではないし、逃げようと思えば逃げられる環境だ。それに、杏に怯えている様子でもない……おそらく好んで、一緒にいてくれている。

 動物にこんなに好かれたことなどなかった杏だが、なついて着いてきてくれる子を、愛しく思わないはずはない。


「私って、お馬に好かれる性格だったのかな……」


 元の世界では、犬や猫とふれあう経験はあっても、馬のような大きな動物とふれあう経験はなかった。だから、もしかしたら種類によっては、好かれる体質であったのかもしれない。

 この子に感じる愛しさは、出会う人間みな殺す勢いでやってきた杏が、すべてを殺し尽くした後でも、この子だけは残してあげようとすでに決めているくらいだ。


「ウマ……なんだそりゃ。なんかの暗号か?」

「……似たような生き物でも、言葉は全然違うんだなぁ」


 世界観の違いだからか、ちょくちょく言葉が噛み合わないことはある。が、ボニーとポニー(馬)のように、非常によく似た言葉もあるのだ。

 まあ、世界観の違いなんてこれまで、深く気にしたことはなかった。この世界で一度目に暮らしていたときだって、グレゴらこの世界の住人の手助けで、どうにかなってきたのだから。

 今だって、なにかわからないことがあればユーデリアがいる。ユーデリアは子供だし、子供に頼るのは癪ではあるものの……


「……なんだよ」

「いや? 頼りにしてるよーって思っただけ」

「……キモ」


 ユーデリアとは、正式な仲間関係にはない。彼を奴隷から助けたという経緯はあれど、お互いに目的のために協力し合う、利害の一致しただけの関係だ。

 まるっきり信用こそしてないが、その戦闘能力の高さは信用している。子供ながらに、すでに杏に引けを取らない戦闘能力の持ち主だ。

 世界を救った元『英雄』と、伝説の生き物氷狼の子供、そしてなぜか杏になついているボニーコア……奇妙な三人は、今日も道を進んでいく。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?

お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。 飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい? 自重して目立たないようにする? 無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ! お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は? 主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。 (実践出来るかどうかは別だけど)

完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-

ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。 自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。 28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。 いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して! この世界は無い物ばかり。 現代知識を使い生産チートを目指します。 ※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。

神々の間では異世界転移がブームらしいです。

はぐれメタボ
ファンタジー
第1部《漆黒の少女》 楠木 優香は神様によって異世界に送られる事になった。 理由は『最近流行ってるから』 数々のチートを手にした優香は、ユウと名を変えて、薬師兼冒険者として異世界で生きる事を決める。 優しくて単純な少女の異世界冒険譚。 第2部 《精霊の紋章》 ユウの冒険の裏で、田舎の少年エリオは多くの仲間と共に、世界の命運を掛けた戦いに身を投じて行く事になる。 それは、英雄に憧れた少年の英雄譚。 第3部 《交錯する戦場》 各国が手を結び結成された人類連合と邪神を奉じる魔王に率いられた魔族軍による戦争が始まった。 人間と魔族、様々な意思と策謀が交錯する群像劇。 第4部 《新たなる神話》 戦争が終結し、邪神の討伐を残すのみとなった。 連合からの依頼を受けたユウは、援軍を率いて勇者の後を追い邪神の神殿を目指す。 それは、この世界で最も新しい神話。

大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います

町島航太
ファンタジー
2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

処理中です...