異世界召喚され英雄となった私は、元の世界に戻った後異世界を滅ぼすことを決意した

白い彗星

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英雄の復讐 ~絶望を越える絶望~

バトンタッチ

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 倒す方法の見つからない相手……それに対処する手っ取り早い方法は、一つだ。行動できないように、動けなくしてしまえばいい。

 理想的には、ユーデリアの冷気で氷付けにすることが、一番いい。どんなに屈強な相手でも氷付けになれば行動不能になるし、氷ごと割ることで簡単に命を奪える。

 だが今回、ユーデリアの冷気は通用しない。たとえ範囲を広げ、村中を覆うほどの猛吹雪を作り出したとしても……魔物たちが凍るより先に、炎の魔物が阻止するために抵抗してくる。

 ユーデリアの冷気をも焼き尽くす炎を前にすると、ユーデリアは冷気を放つことができなくなってしまうわけで。結局は、冷気で凍らせるためには炎の魔物をどうにかしないといけない。

 だから……


「これで、どうだ!」


 拳を地面に打ち込み、亀裂を発生させ……地割れを、起こす。素手で地面が割れるなんて、我ながらとんでもないことわしていると思うが……

 ともあれ亀裂はどんどん大きくなり、私を狙っていた魔物たちの体勢を崩す。知性はなくとも危機察知の本能は残っているのか、地割れに巻き込まれないよう必死に逃げ回っている。

 だが、地割れと共に起こる地響きにより、うまく体勢を保てないようだ。一匹、また一匹と、亀裂に捕まっていく。


「ぅおっ、あぶな!」


 その余波は当然ユーデリアのところにも伝わり、落ちないためにその場からジャンプし、無事な地面を渡って安全地帯へと移動する。

 ユーデリアを追う炎の魔物は、注意が疎かになっていたためか、地割れに巻き込まれていく。


「やるなら、やるって言えよっ」

「ごめんごめん」


 悪態をつくユーデリアだが、思い立ったら即行動なので、その点は申し訳ないと思っている。

 ただ、思惑通りに魔物の動きは乱れ始めた。地割れに巻き込まれ、巻き込まれないようにする奴は体勢を崩す。これなら、このまま私とユーデリアで、戦う相手をバトンタッチすることも可能ではないか。

 打撃で分裂魔法が効かない魔物はユーデリアの冷気で仕留め、炎の魔物は私が仕留める。魔法ならばどうとでも対処できるし、最悪殴り殺せばいい。

 こいつも、分裂するタイプじゃないことを願うけど……燃える上に分裂なんて、盛った効果を持っているとは思えない。


「なら……!」


 これならば、お互いに自由に動ける。ユーデリアにその意思を伝えるために視線を向けると、ユーデリアも私のことを見ていた。互いにうなずく。どうやら、同じ事を考えていたらしい。

 その場から離れ、私は炎の魔物に、ユーデリアは分裂魔物に、それぞれ標的を変える。地面を割ることで出来た、魔物たちの隙を狙って……という、考えてみれば単純なものだが、単純でもなんでも状況が好転するなら、それでいい。


「う、らぁあああ!!」


 炎の魔物のところへと飛び、思い切り力を込めた一撃を叩きつける。炎だから熱くないかって? 魔法で防御しなくていいのかって? そんなもの、今さらな心配だ。

 これまでに私は、この拳でいろんな奴を相手にしてきた。その中には全身炎に包まれたのより、よっぽど危険な奴だっていた。体がトゲだらけとかね。

 そんな相手にも、私はこの拳一つで戦ってきたのだ。あの頃は魔法を使えなかったから、仲間の援護のみ……そりゃ、適材適所ってやつはあったけど、いつもいつもってわけにはいかない。時には、相性の悪そうな相手と戦わないといけない。


「ガォブ!」


 額に拳を打ち付けられた魔物は、思わぬ衝撃に顔をへこまれ、これまでに聞いたことのない鳴き声をあげる。炎が拳を焼き付くさんとばかりに熱さを伝えてくるが、すぐにぶっと飛ばしてしまえば問題ない。


「っ、せい!」

「ガァ!」


 拳を振り抜き、拳が焼かれてしまう前に魔物をぶっ飛ばし、壁にぶつける。さらに、吹き飛ぶ魔物に並走し、ジャンプ。壁にぶつかり跳ね返ってきた魔物を蹴り飛ばす。

 地面に……正確には、地割れによってできた岩へと蹴り飛ばす。それはただ割れた岩ではない、先端部が尖っている、当たれば痛いじゃ済まないものだ。

 そこへ、蹴り飛ばされた魔物の体は、まるで吸い込まれるように突き刺さって……


 ズボォッ……!


「ギァ、ァア……ッ!?」


 背中から、尖った岩へと打ち付けられ……背中から腹部へと、岩は貫通する。たとえその身が燃え、突き刺さった岩をも燃やしていくが……そんなもの、些細な問題だ。

 炎が岩を焼き尽くす前に、魔物の命が尽きる方が早い。


「よ、っと」


 まだ割れていない、安全な地面へと着地。この魔物は炎を操ることができるようだが……体の中を、岩が貫通しているのだ。痛みで、炎を操るとかそれどころじゃないだろう。

 さて、ユーデリアの方は……


「グルルルルァ!」

「ガ……ゴ……!」


 その身に纏う冷気を存分に放ち、分裂魔物を凍らせていく。奴らは、打撃、斬擊で分裂する、魔法を吸収する、という点では手の打ちようがないが……

 どうやら、ユーデリアの冷気は吸収できる部類ではないらしい。たくさんに増えた魔物は、為す術もなく凍りついていく。

 さっきまで私が手こずってたのが、嘘みたいだ。


「……終わり、と」


 すべての魔物を凍りつかせるのに、そう時間はかからない。あれだけ厄介に感じていた相手が、こんなにあっさり……やっぱり相性って大事だな。結局、呪術を使わなくて済んだし。

 さて、残るは……『呪剣』を手にした、レバニルだけだ。
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