異世界召喚され英雄となった私は、元の世界に戻った後異世界を滅ぼすことを決意した

白い彗星

文字の大きさ
上 下
180 / 522
英雄の復讐 ~絶望を越える絶望~

人生を狂わされた者の末路

しおりを挟む


「く、来るな、来ないでく……!」

「いやぁ、やめ……!」


 人が、倒れていく。血を流し、一人一人倒れていく。その、人たちを倒して……いや、殺しているのは、私だ。手刀で喉を、体を、切り裂いていく。

 手刀とはいえ、その威力は鉄の剣と変わらない。人体であっても、一太刀で斬り、傷を与える。もはや、ただの素手が凶器だ。

 初めてこの世界に来て。師匠に武術を教わり、魔物と戦い、戦い、戦い……私の体は、すっかり戦いに染まってしまったみたいだ。

 そもそも、元の世界に戻ってあんなことがなかったとしても、元の生活には完全には戻れなかったのかもしれない……そんなことさえ、思ってしまう。


「……っ」


 そんな思いから、つい八つ当たりをしてしまう。地面に刺さっていた剣を蹴り、それにより剣は砕ける。

 私がこの世界に来たことにより、人生を狂わされた……しかし、狂わされたのは人生だけではなく、私自身もだ。

 いったいどんな人間が、手刀だけで人を殺せる? 拳で地面を割ることができる?


「な、なんでこんなこと……ぎぁあ!」


 ……人を殺しても、なんとも思わなくなってしまったのは、いったいいつからだろう。

 なんでこんなことを、だって? そんなの、決まってる。


「この、人でなし……!」

「なんなの! 私たちが、なにをしたのよ!」

「人も、物も……全部、壊れちゃえ」


 人でなし、か。自分自身の心が、普通じゃないのはとっくにわかっている。人を殺していく中で、心は壊れていった? 違う……

 ……こっちに戻ってくる前から。元の世界で、お父さんの、あこの、そしてお母さんを奪われてしまった、あのときからだ。

 そしてこんなことをする理由は、復讐とかたいそうな言葉を並べても、結局は八つ当たりだ。そんなことはわかってる。わかってても、幸せに暮らしているお前らが、憎くて憎くてたまらない。

 私から、#家族__すべて__を奪っておきながら……!


「だから! 私は! お前たちを……!」


 血飛沫が、辺りから吹き上がる。私が歩いた跡に残るのは、血を流し倒れる人、人、人。

 私にとって、家族はすべてだった。友人や恋人もいた……けど、家族を失った以上に、失うものなんてない。その上、三人共死に目にすら会えなかった。

 お母さんには、私が娘であると理解されないまま、忘れられ、死んだことさえ後になって伝えられて、お墓の場所さえわからない。

 間違ってはいないとはいえ、親戚には私がすべての原因とされ、疎まれている。そんな、ひとりぼっちになった世界で……居場所なんて、ない。


「はぁああ!」


 背後から、誰かが斬りかかってくる気配。せっかく背後をとったのなら声を出すなんてバカなことをするなよ……

 ま、どのみちそんなに殺気駄々漏れじゃあ、バレバレだけどね。


「……」

「わっ!」


 受け止めてもいいんだけど、気配だけでわかるこの攻撃は単調だ。よって、体を少し横にずらすだけで、かわせる。

 背後から襲ってきた人物は、私がかわしたことで体勢をずらし、その場に倒れる。その人物は……先ほど蹴り飛ばした、ザルゴだった。

 あらら、やっと動けるまでに回復したってわけか。


「ぐ、く……っ、この、やろうめ……よくも村を、こんなに……!」


 ザルゴは立ち上がりつつ、現状を確認。そこには、倒れ命を落とした人々、破壊された数々のもの、悲惨な光景が広がっていた。

 自分が気絶している間に、村の様子は一変していた……それは、到底受け入れられるものではないだろう。


「少しは、私の気持ちがわかってくれた?」

「はぁ? なに言って……」


 自分が事態を把握したときには、なにもかもが手遅れだった。その気持ちは、きっと味わった者にしかわからない。ザルゴも今、その気持ちを理解してくれているはずだ。

 ただ、私がなにを言っているのか、いまいち理解していないようなので……横っ腹を、蹴りあげておいた。


「っ、げ……!」


 予期せぬ位置への、予期せぬ一撃。それはザルゴの喉奥から変な声を出させ、地面を転がっていく結果となった。

 ザルゴは咳き込み、横っ腹を押さえている。よほど痛いところに入ったのだろう、涙すら流している。


「く、そ……っ、くそ! なん、でっ……こんな……!」


 痛む横っ腹を押さえ表情を歪ませつつ、地面に拳を打ち付けている。その言葉は、誰に対する怒り、嘆きなのか……私に対してか、魔物に対してか。はたまた、運命に対してか。

 なんでこんなことに……か。そんなの、一番聞きたいのは私自身だ。


「不公平だよね……恨んでいいよ、私のこと」

「くそっ……!」


 魔力を発動させ、空中から無数の刃を放つ。それは狙いが外れることなく、ザルゴへと撃ち込まれ……その体を、刻んでいく。

 無数の刃が、無抵抗なザルゴの体を刻む。ただ腕を正面でクロスさせ、せいぜい致命傷を受けないようにしているだけ。


「ぐぅ、う……!」


 痛々しい傷が、次々刻まれる。このまま、なぶり殺しにしてやろうか……


「く、ぉおおお!」


 しかし、その未来は訪れない。刃を腕で受け止め、それでも傷を刻まれながら、ザルゴは突撃してくる。このまま、ただなぶられるつもりはないってことだ。

 その意気やよし。ただ……どうしようもなく、哀れだ。


「お前、なんかにぃいいい!」

「……ばーか」


 ザクッ……


 次の瞬間……怒りに燃えるザルゴの頭が、首と離れて吹っ飛んだ。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-

ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。 自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。 28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。 いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して! この世界は無い物ばかり。 現代知識を使い生産チートを目指します。 ※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。

老女召喚〜聖女はまさかの80歳?!〜城を追い出されちゃったけど、何か若返ってるし、元気に異世界で生き抜きます!〜

二階堂吉乃
ファンタジー
 瘴気に脅かされる王国があった。それを祓うことが出来るのは異世界人の乙女だけ。王国の幹部は伝説の『聖女召喚』の儀を行う。だが現れたのは1人の老婆だった。「召喚は失敗だ!」聖女を娶るつもりだった王子は激怒した。そこら辺の平民だと思われた老女は金貨1枚を与えられると、城から追い出されてしまう。実はこの老婆こそが召喚された女性だった。  白石きよ子・80歳。寝ていた布団の中から異世界に連れてこられてしまった。始めは「ドッキリじゃないかしら」と疑っていた。頼れる知り合いも家族もいない。持病の関節痛と高血圧の薬もない。しかし生来の逞しさで異世界で生き抜いていく。  後日、召喚が成功していたと分かる。王や重臣たちは慌てて老女の行方を探し始めるが、一向に見つからない。それもそのはず、きよ子はどんどん若返っていた。行方不明の老聖女を探す副団長は、黒髪黒目の不思議な美女と出会うが…。  人の名前が何故か映画スターの名になっちゃう天然系若返り聖女の冒険。全14話+間話8話。

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。 本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。 彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。 世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。 喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

俺が死んでから始まる物語

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。 だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。 余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。 そこからこの話は始まる。 セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕

城で侍女をしているマリアンネと申します。お給金の良いお仕事ありませんか?

甘寧
ファンタジー
「武闘家貴族」「脳筋貴族」と呼ばれていた元子爵令嬢のマリアンネ。 友人に騙され多額の借金を作った脳筋父のせいで、屋敷、領土を差し押さえられ事実上の没落となり、その借金を返済する為、城で侍女の仕事をしつつ得意な武力を活かし副業で「便利屋」を掛け持ちしながら借金返済の為、奮闘する毎日。 マリアンネに執着するオネエ王子やマリアンネを取り巻く人達と様々な試練を越えていく。借金返済の為に…… そんなある日、便利屋の上司ゴリさんからの指令で幽霊屋敷を調査する事になり…… 武闘家令嬢と呼ばれいたマリアンネの、借金返済までを綴った物語

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?

お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。 飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい? 自重して目立たないようにする? 無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ! お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は? 主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。 (実践出来るかどうかは別だけど)

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!  父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 その他、多数投稿しています! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

処理中です...