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英雄の復讐 ~絶望を越える絶望~
二本目の呪いの剣
しおりを挟むレバニルが振るう剣は、当たることはない。だが、ただでさえ規則性のなかった動きが、さらに不規則なものへと変化していく。
それは、レバニルの剣術のスタイルがめちゃくちゃになっているためだ。ただし、本人の意思ではなく。
「うぁ、あ、ぁ……!」
言葉とも言えない声を漏らし、ただ標的を斬るためだけに、剣を振るう。それはつい先ほどのレバニルのものと同じようで、少し違う。
そこに彼の意思は、だんだん弱まっているように感じる。
「っち……!」
軽く、舌打ちをする。この剣は、『呪剣』と同じタイプのものであろうことはわかる。なぜだか、わかるのだ。
『呪剣』を私だって使っていたためか、それとも私も呪術に関係した人間だからかは、わからないが……
「っとと……」
めちゃくちゃな振り故に、軌道を読みにくい。それでも、これまでの戦いの経験から、素人の剣振りを避けることは造作もない。だが、ただ避けるのと、絶対に当たってはいけないと思うのとでは、心構えが違ってくる。
致命傷にならない攻撃ならば、魔法で治すこともできるが……呪術の影響を、魔法で癒せるのかはわからない。あの剣が『呪剣』と似たものである以上、受けてやるわけにはいかない。
これまでのことを思い出して考えるなら、私は『呪剣』に斬られても、その影響は出なかった。その理由は、その際にはわからなかった。
ただ、『勇者』として過酷な旅を続けてきたから、という、根拠のない理由で考えていたが……今となっては、『呪剣』の効力が出なかった理由が、なんとなくわかる。いや、これも予想の範疇ではあるが……
少なくとも、勇者や英雄や、というぼんやりとした考えよりは、よほど説得力のある考え方。
「……この、腕が……」
私の、失われた右腕から出現した、黒い腕。それはこれまでの旅の中の情報で、呪術に通ずるものであることがわかった。
『呪術』に斬られ、その影響が私になかったのは……私が呪術を使う人間、だからではないだろうか。使うというより勝手に出てくるんだけど。
そう考えたほうが、まだ納得できる。
「嬉しいような、悲しいような」
『呪術』により、自我を奪われなかったのはありがたい話だが……それが、あの不気味な腕のおかげだと言われると、それはそれで手放しで喜べない。
……とはいえ、それも確証はない。だから、剣を受けて変な呪いを受けるわけにはいかないのだ。
「ぅ、あ!?」
狂ったように剣を振り回すレバニルは、凍った地面にさえ気づかない。なんの注意もなく、動いていれば滑って体制を崩して、当然だろう。
その隙を見逃さず、私はレバニルの腹部に回し蹴りをおみまいする。
「ぶっ……!」
体内の空気が一気に吐き出され、吹っ飛んでいく。その先にいたのは、すでに氷付けになった魔物……
魔物にぶつかると、その衝撃により氷が、つまり魔物の体が砕ける。それ自体は、村人にとって悪いことではない。
「お、おい……どうすりゃ、いいんだ!」
「それになんか、レバニルの様子も、変じゃないか?」
戦える人物が、簡単に吹き飛ばされてしまった。この事実は、村人たちに絶望感を与えるには充分であった。
……何人かは、レバニルの異常に気がついているらしいな。ま、同じ村にいるんだ、異変くらいわかるか。
「や、やめろ来るなぁ!」
「いやぁあああ!」
いつの間にか、向こうではユーデリアによる虐殺が始まっている。それは、戦う手段を持たない村人にとっては、ただただ恐怖でしかない。
藍色の獣は、鋭い爪で、牙で、村人たちを引き裂いていく。時に氷付けにして、体ごと砕く。
氷狼ってやつは、様々な攻撃手段があるんだな……改めて、そう思う。ユーデリアは魔法は使えないけど、それを補って余りある。
「ぐ、うぅ……」
「……やっぱり」
少し目をそらしただけで、もうレバニルは回復している。いや、回復なんていいものではないのだろう……体の負傷が気にならないほどに本人の体に異常をきたしていた『呪剣』と同じように。
『呪剣』は、たとえ深手を負っても、痛みなんて感じてないと言わんばかりに使用者は動いていた。あの剣も、同じような感じなのだろう。
もしかしてあれも、『呪剣』と同じ効力があるのか? いや、自我を奪うなんて能力、誰彼無差別に斬りつけるはずだ。私だけを狙う意味はない。
あの剣は『呪剣』と同じく呪われた剣で、それでいてその能力は『呪剣』とは違うもの……
「お、おいレバニル。大丈夫か……」
「ぐ、うぅうう!」
ザシュッ……
誰の目にも、異常とわかるレバニルの姿。それを前にして、愚かにも近づいていく村人は……斬られた。
腹部を横一線に。致命傷ではあるが、即死には至らないであろう一太刀だ。すぐに手当てをすれば、命に別状はない傷。
……だが……
「あっ……な、なんで……」
「お、おい! どうなってんだ!?」
「え……?」
斬られた村人は、自分がなぜ斬られたのか、わかっていない。当然だ、心配して駆け寄ったら、その相手から斬られるだなんて……
しかし、他の村人はその事実よりも、別の現象に驚愕の声を漏らす。斬られた村人……その体が、まるで砂のように流れ落ち、崩壊していっているからだ。
「うぁ、あぁ!? なんだこれ! ひ、ひぃい……!」
自身の体の異常に気づいた村人であったが、もう遅い。村人の体は、斬られた腹部から崩壊し、それが腕、脚へと広がっていく……風に吹かれ、崩壊が早まる。
……その身が完全に崩壊するまで、そう時間はかからなかった。
「……っ」
その一連の出来事に、背中がぞわぞわする。『呪剣』とは違う能力……だが、その能力は同じくらい、危険なものだ。斬られた者を、傷口の大きさ限らず崩壊させる。
呪われた剣……となるとこれも『呪剣』で、そもそも『呪剣』って剣の名前じゃなく種類を呼んだだけじゃないかとか頭に浮かんでくるが、今はそんなことどうでもいい。
なんであんな剣が無造作に刺さっていたのか、その村に来る直前に感じた胸の中のもやもや……それらを確認するのは、後だ。
「ったく、変な剣ばっかだ……」
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