異世界召喚され英雄となった私は、元の世界に戻った後異世界を滅ぼすことを決意した

白い彗星

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英雄の復讐 ~絶望を越える絶望~

"グレニア"

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 村が裕福とか貧乏とか、そんな事情は関係ない。そこにあるものを、私はただ壊していくだけだ。けど……

 剣作りが趣味だというザルゴ……彼が作った剣、どのくらいの貯蔵があるのか気にはなるところだ。もちろん、たとえこの村の人間全員が武器けんを取ったところで、それは脅威とはなりえない。

 あんな痩せ細った体では、剣を振るうどころか持つこともままならないだろう。どんな強力な武器だろうと、使い手がままならなければ効果は発揮しない。『呪剣』のような一部を除いて。

 それに、剣を作るための材料はあまりないとも言っていた。村人の様子といい、やっぱり考えるだけ無駄なことか……


「ところでザルゴよ、なにか用があったのではないか?」

「おぉ、そうだった。見ろよ、ついに新しい剣が完成したんだ」


 話に割ってまでこの場に現れた剣職人ザルゴに、村長ナタニアは問う。その質問に、待ってましたと言わんばかりにザルゴは、肩に乗せていた剣を見せつける。

 どうやら、その剣も自ら作ったものらしい。趣味とはいえ、なるほどなかなか立派な剣だ。

 魔法が発達したこの世界で、魔力を持たない彼が剣を作る方法は、手作業だろう。そもそも魔法で剣を作れるのか、知らないけど。

 なんとも嬉しそうな顔をしている。まあ、今のうちにせいぜい幸せを噛み締めておくといい……


「どうだ惚れ惚れするだろ、この細身の刀身、銀色に輝く刃……これぞ俺の最高傑作よ!」

「剣など毎日見とるし、よう飽きんのぅ」

「飽きるわけねえだろ? 俺の夢は、親父の親父が作ったような、すげー剣……そう、"グレニア"のような剣をな!」


 …………え?

 なんだ、今……適当に聞き流すはずが、聞き流せないほどに衝撃的な言葉が、単語が聞こえたような。

 今、ザルゴはなんと言った? なんていう名前の剣を、作ったって言った?


「アン?」

「あの……今、なんて?」

「あん? 俺もすげー剣を作りたいって話か? 理由を聞きたいか? いやぁ、俺が剣を作り始めた理由の一つは、さっきも言ったように村に刺さるこの剣を見てビビっときたことなんだけどよ。もう一つ理由があって、それが親父の親父……つまりじっちゃんが、剣職人だったってことだ。こっちはまじもんのな」


 ペラペラと自分語りを始めるザルゴだが、違う、そうじゃない。私が知りたいのは、聞きたいのはそこじゃない。

 が、知りたい部分はすぐに、彼の口から聞くことになる。


「そのじっちゃんがすげー職人でよ。もうこの世にはいねえが……そのじっちゃんが作った、生涯で一番の業物が、"グレニア"って名前の剣さ。ま、名付けたのはじっちゃんじゃなくて、使い手の女……正確には、その弟だがな」

「使い手……弟……」


 その話を聞き、私は二つの感情を抱いていた。まさか、という気持ちと、間違いないという気持ちが、それぞれ混ざりあっていた。が、それらは次第に、一つの答えを導きだしていく。

 まず私が驚いたのは、"グレニア"という剣の名前だ。だってその名前は、今は亡き『剣星』グレゴ・アルバミアが愛用していた剣の名前だから。

 それだけでは、たまたまの偶然というのもあるが……グレゴが言っていた話を思い出す。"グレニア"というのは、死んだ姉の名前を取って付けたらしい。

 ザルゴの言う、使い手がグレニアで、弟がグレゴのアルバミア姉弟ならば……一応、筋は通る。


「ったく羨ましい限りだぜ。じっちゃんはその剣を、孫の俺じゃなく近所に住んでたガキにやったってんだから。ま、今思えば、あの剣を貰ってたら俺はこんなにも、剣作りに没頭しなかったろうよ」


 ザルゴの自分語りの部分は聞き流し……必要な情報を、整理していく。近所に住んでたガキ、っていうのがアルバミア姉弟なら、つまりこの村は姉弟の……グレゴの、故郷ってことになる。

 まさか……そんな偶然、あるか? ユーデリアの故郷は彼自身の案内で行ったから除外するとして、エリシアの故郷に続いて、グレゴの故郷まで……


「結局、じっちゃんから剣を貰った姉の方は、貧しさに倒れて死んじまったけど。その後弟が剣を受け継ぎ、死んだ姉の名前"グレニア"を付けたってんだ、泣かせるじゃねえか」


 ……これはもう、確定だ。グレニアという女、その名を取って付けた剣"グレニア"、それを受け継いだ弟……間違いない、グレゴだ。

 その弟はグレゴ、そしてここはグレゴの故郷。まさか、かつての仲間の故郷に立て続けに訪れることになるとは、さすがに思ってなかった。


「お、どうかしたか?」

「……いや、別に」


 ここでグレゴの知り合いだと言えば、警戒心はさらに解けるかもしれない一方……エリシアのときのように、グレゴ自身が村に恨みを買っている可能性もないわけではないし。

 それにしても……『剣星』が生まれた村が、剣が刺さった異様な村、か。村長であるナタニアすら、この剣の謎を知らないってことは、グレゴが生まれた頃当然村はこの姿だったわけだ。

 ……将来、剣士の頂点と呼ばれる『剣星』が生まれた村。その村の有り様は、貧しさに溢れているが、同時に剣にも溢れている。どうにも、偶然とは思えないな……
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