171 / 522
英雄の復讐 ~絶望を越える絶望~
趣味の剣作り
しおりを挟む訪れた剣だらけの村は、見ただけでその異様さが伝わるものだった。さらに、異様なのはなにも剣があちこちに刺さっていることではない。
この村、ガルバ村の村長を始め、見渡す限りの村人が誰も彼も、痩せ細っている。充分に栄養を取れていない……そもそも、食べ物すら口にできていないのではないかと思えるほどだ。
近くにある畑にはなにかの野菜が育ててあり、自給自足を思わせる。ガルバ村に対して抱いた第一印象は異様、第二印象は貧しいというものだった。
貧しいこの村では、満足に食事もできないほど。だからこうして、自給自足して飢えを凌いでいるのだろう。
エリシアの故郷ラーゴ村は、比較的裕福な村であった。エリシアの実家始め、ほとんどの民家は豊かさを思わせた。ここは、それとは正反対と言える。
「いやはや、お恥ずかしい限りです」
ガルバ村の村長、名をナタニア・ハルベルと言うらしい。ナタニアは、人の良さそうな笑顔を浮かべながらも、言葉通り恥ずかしそうな表情も見せる。
私たちを旅人と認識し、観光地探し目的でこの地に来たと思っているのだう。本人の言っていた通り、この村で観光となるようなものは、ない。
興味を引くものすら、あちこちに刺さっている剣を除いてなにもない。
「まあ、私たちは別に観光に来たわけでは……」
「ほう? 観光でないなら、いったいなんの目的で?」
とりあえず目についた人や村を破壊して回ってる……なんて答えを言ったら、どんな顔をするだろう。
ここにいる人たちは、見た限りみんな、男も女も大人も子供も揃って痩せ細っている。もしここで、私がいきなり襲いかかったところで、殲滅するのは容易いだろう。
それにここにいる人たちからは、魔力も感じない。誰一人として。痩せ細り立つのもやっとな、魔力のない人たちなら、何人集まろうと敵じゃない。
このまま、即殺してしまおうか……そんな考えが、頭をよぎった。が……
「……珍しい村があるなと思って、立ち寄ったんですよ」
なぜか、正直に言うことは抵抗があった。それは、ここの人たちの有り様に抵抗したから、ではない。
なにか、もやもやしたものが胸の中にあるのだ。これはそう、このガルバ村へと足を踏み入れる前に感じていた、違和感にも似たなにか。
これまでに感じたことのないものだ、このもやもやは。……いや、思い出せ……以前にどこかで、このもやもやに似たものを感じている。
いったいどこで……
「村長、誰だそのガキ共」
そこへ、野太い声を出す一人の男が近づいてくる。この村の人間にしてはがたいが良く、熱くもないのにシャツを肩まで捲り、額にはハチマキのようなものをつけている。
見るからに暑苦しそうなおっさん。というか、まるでなにかの職人のような風貌だ。その証拠であるように、その手には剣を持ち、それを肩に乗せている。
……剣の、職人?
「これザルゴ。旅のお方になんて口の聞き方じゃ」
「なんだよ、ほんとのことじゃねえか。女のガキと、それよりもちっこいガキ、ここは子供の来るところじゃないぜ?」
初対面にも関わらず、ザルゴと呼ばれた男は私たちを見下ろしている。ただ、言葉こそバカにしたようであるが、その口調や表情はそれとは別だ。
そう、まるで近所の子供に対して話しかける気のいいおっさんのような。悪気は、ないんだろう。ただ……
「……」
ユーデリアは、今にもキレてしまいそうだ。今の言葉にどんな意味があるにせよ、ユーデリアって結構短気なんだよな……冗談も通じない。
「あぁこれは失礼。こやつ腕はいいんですが、口が悪いのか難点でしてなぁ」
「んだようるせえなぁ村長」
確かに、口悪いな。ただ、村長を村長と呼んでる辺り、そこに反抗的な態度は見られない。口が悪くても態度まで悪いわけじゃないようだ。
それよりも……
「腕がいいって……なにかの、職人?」
その口ぶりはまるで、予想した通りに職人であるかのようなものだ。
「おぉ、よくぞ聞いてくれた! 見ての通り俺は、剣作りが趣味でな! 職人ってほどたいそうなもんでもないが、剣作りならそこいらの奴には負けないぜ」
職人……ではないのか、紛らわしい。ただ、ナタニアの言う通りならば腕は確からしいな、本人は趣味って言ってるけど。
それにしても、剣の……とは。まさかここにある、地面に刺さった剣と関係しているんじゃないか。その疑問を察したのか、ザルゴは先に答える。
「あぁ、この村の剣な。こいつを見て、俺は剣作りを決めたんだ。なんか、見た瞬間ビビっときてな……物心ついた頃には、鉄屑から剣を叩いてたってわけよ」
……変人だ。ザルゴがこの村に刺さっている剣を作ったんじゃなくて、この村に刺さっている剣を見て、剣を作ろうと思ったと……そんなこと、あるのか。
私はただただ不気味としか思わなかったけど……わかんないもんだな。
「なら、結構作品があるんですか?」
「いやぁ、それがなぁ……貧しいこの村じゃ、あまり材料となるものも買えなくてな。たまーにあんたらみたいな旅の連中が、お情けで物資をくれたりするんだけどな」
「ザルゴ!」
……食べるものもままならないだろうこの村じゃ、剣を作るための鉄などそうそう手に入るものじゃないだろう。それでも剣を作れるのは、私たちのようにこの村に立ち寄る人がいるから、か。
どうやら、立ち寄る人が少ないだけでまったくいないわけじゃないらしいな、この村には。
「……それで趣味を続けられる、か」
「人が日々死んでくこの村じゃ、趣味一つ見つけることがどんだけ幸せなことか……俺は、俺のことを恵まれてるって思ってるぜ」
ただ貧しいだけではない、人が日々死んでいくほどの貧しさ……それがこのガルバ村らしい。私がわざわざ壊さなくても、壊れてしまうような脆い村……
ま、壊すけどね。
0
お気に入りに追加
154
あなたにおすすめの小説

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?
お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。
飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい?
自重して目立たないようにする?
無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ!
お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は?
主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。
(実践出来るかどうかは別だけど)
完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-
ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。
自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。
そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。
安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。
いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して!
この世界は無い物ばかり。
現代知識を使い生産チートを目指します。
※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。
神々の間では異世界転移がブームらしいです。
はぐれメタボ
ファンタジー
第1部《漆黒の少女》
楠木 優香は神様によって異世界に送られる事になった。
理由は『最近流行ってるから』
数々のチートを手にした優香は、ユウと名を変えて、薬師兼冒険者として異世界で生きる事を決める。
優しくて単純な少女の異世界冒険譚。
第2部 《精霊の紋章》
ユウの冒険の裏で、田舎の少年エリオは多くの仲間と共に、世界の命運を掛けた戦いに身を投じて行く事になる。
それは、英雄に憧れた少年の英雄譚。
第3部 《交錯する戦場》
各国が手を結び結成された人類連合と邪神を奉じる魔王に率いられた魔族軍による戦争が始まった。
人間と魔族、様々な意思と策謀が交錯する群像劇。
第4部 《新たなる神話》
戦争が終結し、邪神の討伐を残すのみとなった。
連合からの依頼を受けたユウは、援軍を率いて勇者の後を追い邪神の神殿を目指す。
それは、この世界で最も新しい神話。

大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います
町島航太
ファンタジー
2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。

ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。
sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。
目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。
「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」
これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。
なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる