異世界召喚され英雄となった私は、元の世界に戻った後異世界を滅ぼすことを決意した

白い彗星

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英雄の復讐 ~絶望を越える絶望~

趣味の剣作り

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 訪れた剣だらけの村は、見ただけでその異様さが伝わるものだった。さらに、異様なのはなにも剣があちこちに刺さっていることではない。

 この村、ガルバ村の村長を始め、見渡す限りの村人が誰も彼も、痩せ細っている。充分に栄養を取れていない……そもそも、食べ物すら口にできていないのではないかと思えるほどだ。

 近くにある畑にはなにかの野菜が育ててあり、自給自足を思わせる。ガルバ村に対して抱いた第一印象は異様、第二印象は貧しいというものだった。

 貧しいこの村では、満足に食事もできないほど。だからこうして、自給自足して飢えを凌いでいるのだろう。

 エリシアの故郷ラーゴ村は、比較的裕福な村であった。エリシアの実家始め、ほとんどの民家は豊かさを思わせた。ここは、それとは正反対と言える。


「いやはや、お恥ずかしい限りです」


 ガルバ村の村長、名をナタニア・ハルベルと言うらしい。ナタニアは、人の良さそうな笑顔を浮かべながらも、言葉通り恥ずかしそうな表情も見せる。

 私たちを旅人と認識し、観光地探し目的でこの地に来たと思っているのだう。本人の言っていた通り、この村で観光となるようなものは、ない。

 興味を引くものすら、あちこちに刺さっている剣を除いてなにもない。


「まあ、私たちは別に観光に来たわけでは……」

「ほう? 観光でないなら、いったいなんの目的で?」


 とりあえず目についた人や村を破壊して回ってる……なんて答えを言ったら、どんな顔をするだろう。

 ここにいる人たちは、見た限りみんな、男も女も大人も子供も揃って痩せ細っている。もしここで、私がいきなり襲いかかったところで、殲滅するのは容易いだろう。

 それにここにいる人たちからは、魔力も感じない。誰一人として。痩せ細り立つのもやっとな、魔力のない人たちなら、何人集まろうと敵じゃない。

 このまま、即殺してしまおうか……そんな考えが、頭をよぎった。が……


「……珍しい村があるなと思って、立ち寄ったんですよ」


 なぜか、正直に言うことは抵抗があった。それは、ここの人たちの有り様に抵抗したから、ではない。

 なにか、もやもやしたものが胸の中にあるのだ。これはそう、このガルバ村へと足を踏み入れる前に感じていた、違和感にも似たなにか。

 これまでに感じたことのないものだ、このもやもやは。……いや、思い出せ……以前にどこかで、このもやもやに似たものを感じている。

 いったいどこで……


「村長、誰だそのガキ共」


 そこへ、野太い声を出す一人の男が近づいてくる。この村の人間にしてはがたいが良く、熱くもないのにシャツを肩まで捲り、額にはハチマキのようなものをつけている。

 見るからに暑苦しそうなおっさん。というか、まるでなにかの職人のような風貌だ。その証拠であるように、その手には剣を持ち、それを肩に乗せている。

 ……剣の、職人?


「これザルゴ。旅のお方になんて口の聞き方じゃ」

「なんだよ、ほんとのことじゃねえか。女のガキと、それよりもちっこいガキ、ここは子供の来るところじゃないぜ?」


 初対面にも関わらず、ザルゴと呼ばれた男は私たちを見下ろしている。ただ、言葉こそバカにしたようであるが、その口調や表情はそれとは別だ。

 そう、まるで近所の子供に対して話しかける気のいいおっさんのような。悪気は、ないんだろう。ただ……


「……」


 ユーデリアは、今にもキレてしまいそうだ。今の言葉にどんな意味があるにせよ、ユーデリアって結構短気なんだよな……冗談も通じない。


「あぁこれは失礼。こやつ腕はいいんですが、口が悪いのか難点でしてなぁ」

「んだようるせえなぁ村長」


 確かに、口悪いな。ただ、村長を村長と呼んでる辺り、そこに反抗的な態度は見られない。口が悪くても態度まで悪いわけじゃないようだ。

 それよりも……


「腕がいいって……なにかの、職人?」


 その口ぶりはまるで、予想した通りに職人であるかのようなものだ。


「おぉ、よくぞ聞いてくれた! 見ての通り俺は、剣作りが趣味でな! 職人ってほどたいそうなもんでもないが、剣作りならそこいらの奴には負けないぜ」


 職人……ではないのか、紛らわしい。ただ、ナタニアの言う通りならば腕は確からしいな、本人は趣味って言ってるけど。

 それにしても、剣の……とは。まさかここにある、地面に刺さった剣と関係しているんじゃないか。その疑問を察したのか、ザルゴは先に答える。


「あぁ、この村の剣な。こいつを見て、俺は剣作りを決めたんだ。なんか、見た瞬間ビビっときてな……物心ついた頃には、鉄屑から剣を叩いてたってわけよ」


 ……変人だ。ザルゴがこの村に刺さっている剣を作ったんじゃなくて、この村に刺さっている剣を見て、剣を作ろうと思ったと……そんなこと、あるのか。

 私はただただ不気味としか思わなかったけど……わかんないもんだな。


「なら、結構作品があるんですか?」

「いやぁ、それがなぁ……貧しいこの村じゃ、あまり材料となるものも買えなくてな。たまーにあんたらみたいな旅の連中が、お情けで物資をくれたりするんだけどな」

「ザルゴ!」


 ……食べるものもままならないだろうこの村じゃ、剣を作るための鉄などそうそう手に入るものじゃないだろう。それでも剣を作れるのは、私たちのようにこの村に立ち寄る人がいるから、か。

 どうやら、立ち寄る人が少ないだけでまったくいないわけじゃないらしいな、この村には。


「……それで趣味を続けられる、か」

「人が日々死んでくこの村じゃ、趣味一つ見つけることがどんだけ幸せなことか……俺は、俺のことを恵まれてるって思ってるぜ」


 ただ貧しいだけではない、人が日々死んでいくほどの貧しさ……それがこのガルバ村らしい。私がわざわざ壊さなくても、壊れてしまうような脆い村……

 ま、壊すけどね。
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