140 / 522
英雄の復讐 ~絶望を越える絶望~
不可解
しおりを挟む現れるはずのない存在、魔獣。魔王を倒したことで、魔物、魔獣はこの世から一匹残らず消滅した。それは、ちゃんと確認している。確認したから、私は元の世界に帰ることができたのだから。
なのに、魔獣は現れた。しかも、私が知っているものとは少し違う。進化する魔獣……これまでの戦いで、そんな存在はいなかった。いたら、きっともっと苦戦していた。
そんな存在がいなくてよかったという気持ちと、なんでそんな存在が現れたのかという気持ちがぶつかり合う。
……とにもかくにも、魔獣が出現した。それはこの目で見て、肌で感じた事実だ。魔獣が出現した理由は……考えると、真っ先にこれが浮かぶ。
「魔王が、生まれた……?」
魔物、魔獣を生むのは、魔王だ。自然発生するなんてことは、ない。となると、自ずと生まれる考えは一つになる。
新たな魔王が、生まれた……という可能性だ。考えたくないが、前の魔王が死んだため、なんらかの方法で新しい魔王が生まれたということ。
……魔王が復活した、というのは、もっと考えたくない可能性だ。だから、無意識に頭の外に追いやっていた。
「いや、でも……そんなこと、ある?」
新たな魔王が生まれた。考えるのは簡単だが、果たしてそう簡単な問題なのだろうか。
もし本当に魔王が生まれたとして。前回の魔王が死んだら生まれるようなものだと考えると……魔王を倒した私を、むざむざ元の世界に帰すだろうか?
また新しい魔王が出てくるのなら、私を……いや召喚した『勇者』を魔王を倒した瞬間に帰すのは、リスキーなのではないか? まあ、元々魔王倒したら帰る話だから、約束破ったら『勇者』が暴れるからかもしれないけど。
それとも……もしかして、『勇者』って何度も召喚するパターン? 魔王を倒したら『勇者』を元の世界に帰して、新たな魔王が生まれたら再び『勇者』を召喚。いや、再びじゃなく別の?
そして魔王を倒して、帰還。魔王が生まれて召喚。魔王を倒して……と、ループになってる? 一人の『勇者』を留めるより、何人もの『勇者』を別々に召喚する。こう考えた方が、むしろすっきりする?
あれ? ってことは……もしこの考えが正しかったら、あれれ? また『勇者』を召喚するのが、私を召喚したのと同じ人物、ウィルドレッド・サラ・マルゴニアだったとしたら……
「……私、やっちゃった?」
新たな魔王に対抗する『勇者』を召喚するはずの人間を、殺したということに……なるよね。これって、私やっちゃったパターンだったりする?
「おぉおおお……」
「……なにゴニョゴニョ言ってんだ、キモいな」
ユーデリアには、きっとこの気持ちはわかるまい。新たな魔王に対抗するための『勇者』を召喚する人間を、殺してしまったことへのなんとも言えない感情。
あぁ、これってこの世界が脅威にさらされるんじゃ……
「いや、魔王が生まれようがなんだろうが……どうせ世界壊すんだから意味ないだろ?」
「……それもそうか」
そうだよ……私はなにを、悩んでいたんだろう。
元々私は、この世界に復讐するために戻ってきたんだ。そこに魔王が一匹増えようが二匹増えようが、たいした問題ではない。むしろ、邪魔するなら……
「魔王も殺せばいいのか」
「……どっちが魔王だかな」
「いやー、あまりに変なことが起こってたんで、ちょっと混乱してたよ」
この世から消えたはずの魔獣が現れたことに、少なからず動揺していたらしい。人を殺すことは覚悟し、慣れてしまったが、また魔獣と戦うことになるとは思わなかったから。
それも、私が知っている魔獣とは様子が違ったから。余計に、動揺を生んでしまった。
「魔獣が出ようと、魔王がいようと関係ない。気にしても仕方ないか」
「魔獣の言葉は、気になるけどな」
「……」
ちょくちょく反対意見を言ってくるな、この子は。まあ、気にしても仕方ないとはいえ、気にならないと言えば嘘になるけどさ。あの魔獣のことは。
鳴き声ならいざ知らず、言語を話す魔獣なんて……これまでには、いなかった。
例外として、魔王本人や魔王に付き従う四天王……あれらは、私たちと同じ言葉を話した。ただ、あれらは位の高い魔族で、一般の魔物や魔獣とは一線を越えたところにいた。
……一般的に、魔物という生き物……モンスターがいる。普通の動物とは違い、魔王に生み出されたため邪悪な気配が漂う。
魔獣は、魔法を使える魔物のことを指す。おまけに、体の強度も、全体的な身体能力も、魔物よりもかなり高い。だが、言ってしまえばそれだけの存在。
しゃべる魔獣なんて……一年に満たないとはいえその旅の中で、一度も、会ったことも聞いたことも……
「『わたし』、『なぜ』か……まったく意味がわからん」
「ははは……」
意味がわからん……ユーデリアの言う通りだ。いくら考えても答えが出るとは思えないし、答え合わせする手段もない。
結局、考えることは一つだけ……
「呪術、それに関する連中……それに、魔獣が加わったってわけか」
この先の旅で警戒すべき対象が、一つ増えた。いや、もしかしたら魔王、魔物という項目も増えるかもしれない。魔獣があの一匹、であれば話は別なのだが。
そうでなかった場合……項目は増える。あ、魔獣がいた時点で、魔物がいる可能性は非常に高いか。
魔獣か……そういう連中を相手にしてると、嫌でも昔の記憶がよみがえってくる。割り切ったつもりでも、つもりになってるだけなのかもしれないな。
昔のことを思い出して支障をきたさないように、注意しとかないと。
0
お気に入りに追加
154
あなたにおすすめの小説

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?
はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、
強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。
母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、
その少年に、突然の困難が立ちはだかる。
理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。
一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。
それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。
そんな少年の物語。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。
sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。
目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。
「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」
これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。
なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

魔喰のゴブリン~最弱から始まる復讐譚~
岡本剛也
ファンタジー
駆け出しの冒険者であるシルヴァ・ベルハイスは、ダンジョン都市フェルミでダンジョン攻略を生業としていた。
順風満帆とはいかないものの、着実に力をつけてシルバーランク昇格。
そしてついに一つの壁とも言われる十階層の突破を成し遂げた。
仲間との絆も深まり、ここから冒険者としての明るい未来が待っていると確信した矢先——とある依頼が舞い込んできた。
その依頼とは勇者パーティの荷物持ちの依頼。
勇者の戦闘を近くで見られることができ、高い報酬ということもあって引き受けたのだが、この一回の依頼がシルヴァを地獄の底に叩き落されることとなった。
ダンジョン内で勇者達からゴミのような扱いを受け、信頼していた仲間にからも見放され……ダンジョンの奥地に放置されたシルヴァは、匂いに釣られてやってきた魔物に襲われた。
魔物に食われながら、シルヴァが心の底から願ったのは勇者への復讐。
そんな願いが叶ったのか、それとも叶わなかったのか。
事実のほどは神のみぞ知るが、シルヴァは記憶を持ったままとある魔物に転生した。
その魔物とは、最弱と名高いゴブリン。
追い打ちをかけるような最悪な状況に常人なら心が折れてもおかしくない中、シルヴァは折れることなく勇者への復讐を掲げた。
これは最弱のゴブリンに転生したシルヴァが、最強である勇者への復讐を果たす物語。
[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!
どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入!
舐めた奴らに、真実が牙を剥く!
何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ?
しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない?
訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、
なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト!
そして…わかってくる、この異世界の異常性。
出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。
主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。
相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。
ハーレム要素は、不明とします。
復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。
追記
2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。
8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。
2024/02/23
アルファポリスオンリーを解除しました。

神の加護を受けて異世界に
モンド
ファンタジー
親に言われるまま学校や塾に通い、卒業後は親の進める親族の会社に入り、上司や親の進める相手と見合いし、結婚。
その後馬車馬のように働き、特別好きな事をした覚えもないまま定年を迎えようとしている主人公、あとわずか数日の会社員生活でふと、何かに誘われるように会社を無断で休み、海の見える高台にある、神社に立ち寄った。
そこで野良犬に噛み殺されそうになっていた狐を助けたがその際、野良犬に喉笛を噛み切られその命を終えてしまうがその時、神社から不思議な光が放たれ新たな世界に生まれ変わる、そこでは自分の意思で何もかもしなければ生きてはいけない厳しい世界しかし、生きているという実感に震える主人公が、力強く生きるながら信仰と奇跡にに導かれて神に至る物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる