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氷狼の村
理性の吹っ飛んだ冷気
しおりを挟む対象を、燃やし尽くす……それは、魔法と同じようで全然違う。魔法は、たとえ火属性魔法で相手を燃やそうと、相手を塵一つ残さず燃やす、なんてことはできない。
それを呪術は、可能としている。そこには、その人物が生きていた証すらなく、遺体どころか燃えカスすらも、残っていない。
「……お、おい、これ……」
「な、なんで……」
その光景を見て、怯えるのは……予想外にも、男たちだ。仲間……と言うべきかはわからないけど、少なくとも目的を同じくする同志。
その、なんとも呆気なく、そして壮絶とも言いがたい最期に……男たちは、言葉を詰まらせる。
「お、おい! どうなってんだよ! この炎がありゃ、他の炎からも身を守ってくれるんじゃなかったのかよ!?」
うち一人が、叫ぶ。それは理不尽を訴える、というよりも、聞いていた話と違う……そういった様子だ。
……きっと、自らあの炎を身に纏ったら、他の呪術は効かない……そう、聞かされていたのだろう。だけど、それは真実ではなかった。
騙されていたのだ、この男たちは。呪術なんて強大な力を与えられて、だからといって信用もされたわけではない。
「おいおいおい! まさかこれも、そのうち……!」
騙されていた……相手がどんな人物かは知らないが、言われたことを素直に信じていた男たちに、同情の余地はない。迂闊すぎるしね。
その男たちの疑念は、尽きない。今は自分たちの力となっている身に纏う炎……それが、いつ自分に牙を向くかはわからない。これが自分の力であり続けるという保証はない。
だから、その恐怖心も当然といえば当然だ……が。よくもまあ、自分たちを騙すような男から貰ったものを戸惑いなく使ったもんだ。
それだけその男が信じるに値する人物だったのか、それとも単に男たちがバカなだけか。
「こ、このやろう! ふざけんじゃねえぞ!」
男たちは慌てふたてき、理不尽を嘆き叫ぶ。しかし、そうしている時間も無駄だ。身に纏う炎が、自分たちを燃やす可能性があるというなら、なおさらに。
その可能性にも気づかないほどにずっと困惑しててくれれば、楽なんだけど……
「くそが! こうなったら、あの女も道連れだ! 生け捕りなんざ、知ったことか!」
……そのうちの一人が、やけくそ気味に叫ぶ。このまま燃え尽きてしまう可能性がある以上、道連れ覚悟で私を仕留める……と。
やけくそ……しかも、先ほどまでは生け捕りにするつもりが、今は生死も関係なく私を襲ってくる。まあ、さっきまで生け捕りにするつもりでいたのか、疑問ではある行動ばかりだったけど。
「ったく、面倒な……」
躊躇のない人間というのは、厄介なものだ。もはや私を捕まえることを考える必要も、誰に遠慮する必要もない。ただ本能のままに暴れるだけだ
「ひゃははは! てめーを殺したあと、あの男も殺してや……!」
キィィン……!
今まさに、男が襲い来る……そんな状況で。その言葉は、最後まで紡がれることはなかった。なぜか。
それは……男が、氷付けになってしまったから。動くこともしゃべることも、出来なくなってしまったからだ。
「お、おい、なんだこりゃ!」
「……これ、って……」
呪術の炎を身に纏っていた男……それが、一瞬のうちに凍った。その理由は、考えるまでもないだろう。
なぜなら、氷付けになった男の背後に、その正体がいたのだから……
「ユーデリア……!」
そこには、体から冷気を放つ、ユーデリアの姿。過去のトラウマスイッチオンの状態から、ようやく戻ってきたのか……と、安堵は残念ながら出来ない。
「なんだ、てめ……!」
キィィン……!
ユーデリアに掴みかかろうとした別の男が、氷付けになる。その冷気は、今まで見た中で間違いなく危険なものだ。
だって、おそらく……自分で、制御出来ていないから。
「勘弁してよ……」
その瞳には、光が宿ってない。我を失っているのは、間違いないだろう。
つまり、だ。さっきまでは、冷気を撒き散らすまでもその場に座り込んで動かないままだったのが……今じゃ、自分の足で動いている状態。爆弾に足が生えたようなものだ。
「うぅう……村、守る……」
なんか言ってるよ……
予想だけど、村を襲ってきた男たちが、やけくそになって村を本格的に巻き込みかねない害虫と判断したから……いわゆる、防衛本能が働いたのだろう。
だけどどうせなら、理性は戻っててほしかったなぁ。
「くそ、ガキが! おとなしくしてろ!」
別の男が、呪術の炎を放つ。それはバスケットボールよりも一回り大きく、ユーデリアの体を燃やし尽くさん勢いだ。
それをユーデリアは避ける素振りもなく、ただ炎が来る方向へと手を伸ばし……
カチッ……キィィン……!
「なっ……!?」
炎がユーデリアの手に触れた瞬間、炎が瞬時に凍ってしまう。なんて威力だ……!
私でも、一瞬擦れただけで拳が真っ黒になったっていうのに。
「……グルルッ!」
「ひっ……!」
お返しだと言わんばかりに、ユーデリアの手からは冷気の塊が放たれる。それは、一直線に男に向かい、呪術の炎ごと男の体を凍りつくし……
バキィン……!
割れた。とてつもない冷気だ。あれを、本能のままに振るわれたらたまったもんじゃない。
まああれが、理性のあるユーデリアであるなら別の話だけど……
「グルル……!」
私にも向けるあの敵意のこもった目。完全に、理性が吹っ飛んでいる。
呪術連中に加えて、その力を上回る理性の吹っ飛んだユーデリア。好転したどころか悪化したようたもよこの状況……勘弁してよ。
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