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氷狼の村
チームワークのない連中
しおりを挟む「あちゃー……あれは、まずいかも」
ユーデリアのところに放り投げた男が、氷付けになってしまった。近づくものを氷付けるあの姿は……まるで、過去で見たあの制御不能の状態だ。
ただ、過去のものほど瞬時に氷付けにはならないし、過去のものほど我を失っているようにも見えない。ただ、このままこの状態が続いたら……
「おい、あの氷狼のガキどうにかしろ!」
「ならお前がどうにかしろや!」
こいつら、仲間……というよりは、目的を共通とした同志、って見方が正しいのかもしれない。だから、ちょっとしたことで関係に亀裂が入る。
付け入る隙があるとすれば、そこだ。チームワークというやつは、個々の力を本来持つ以上に上げる……それを、私は知っている。
たとえ一人一人はたいした力を持っていなくても……チームワークがあることで、とんでもない力になることだってある。こいつらには、それがない。
「ほら、よそ見してんじゃない!」
「ぶぇ!」
そして、ユーデリアに気を取られているこのタイミングも、隙だらけだ。敵対している相手(わたし)を前に、ずいぶんと余裕なことだ。
拳、足、頭……たとえ魔法を使わなくても、攻撃手段ならいくらでもある。むしろ、以前は魔法なんて使えなかったのだ。今は、魔法で戦略が広がったくらいに考えている。
だから、魔法は使うけど、魔法に頼った戦い方はしない。
「この、調子に……!」
「ふん!」
バキッ……!
振り下ろされる刀を横から拳で打ち、刃を叩き割る。その事実に驚愕しているうちに、腹部に一撃おみまい。気絶させる。
さらに後ろから迫る男に、気絶した男をぶん投げる。人との衝突により体勢を崩すから、その隙に頭に蹴りを入れる。
着地の瞬間を狙い、また別の男が今度は殴りかかってくるが……それを、手のひらで受け止める。この力は……感じる力は、魔力。どうやら魔法で、身体強化をしているようだ。
「あの氷狼共々、捕らえてやるよ!」
さすが身体強化をしているだけあって、力も速度も桁違いだ。それに、格闘センスがあるのか、動きには一切の隙がない。
攻撃の嵐をかわしながら、情報を整理する。この男……いや男たちは、ユーデリアを、そして私を殺すつもりがないようだ。捕らえる、とはそういうことだろう。
もっとも、それが生死問わずであれば話は変わってくるけど。
「おらおらぁ! このギャッコル様の猛攻に、避けるのが精一杯かぁ!?」
この男……言葉遣いは乱暴だけど、戦いのセンスはある。それに、魔法のセンスも。
鍛え上げた肉体と、魔法を駆使して戦う。魔法はピカ一でも肉弾戦はからっきしだったエリシアとはまた違ったタイプだ。というか、魔法術師ってのは基本魔法に頼りっきりだ。
こうして、肉体と魔法を鍛えているのは珍しい。
……けど……
「っ、くそ、当たらね……ぇ! いい加減、当たりやが……!」
「やっぱり、天才には勝てないんだよ」
カウンターの要領で、顔面に拳を叩き込む。センスはあるが、どうしても……魔王討伐の旅で数々の強敵と戦ってきた身としては、物足りない。
これじゃあ、グレゴや師匠はおろか、戦闘向きじゃないボルゴやサシェにだって傷一つつけられない。
「が、ぺっ……ま、だまだぁ!」
おっ、さすがに身体強化しているだけあって、今の一撃を耐えたのか。なかなかの硬度と魔力だ。殴られて吹っ飛ぶだけの雑魚じゃないか。
それに……この男だけじゃない、この集団の執念は、いったいなんだ。私にぶっ飛ばされても、ユーデリアの冷気の脅威を目の当たりにしても、向かってくる。
おかげで、気絶させないと一人に何度も相手をしないといけなくなる。
「うぉらぁあああ!」
「くっ……!」
だというのに、魔力で身体強化をして襲ってくるのは一人ではなく、どんどん数が増えていく。うっとうしいことこの上ない。
これだと、負けはしないけど完全に倒せるのはいつになることやら……
「がぁ! こ、の……ガキ! こうなったら……!」
しかし、どんな時間にも終わりはくる。
男たちのうち一人が、懐からなにかを取り出す。あれは……小瓶? 中に、なにか透明な液体が入っているようだ。
その中身を、飲む……ただし、その方法は乱暴だ。小瓶を口で挟み、思い切り噛み砕いた。小瓶ごと、中の液体を体内に摂取したのだ。
「ぅえ……」
思わず、声が漏れる。いくら、蓋を外して飲むのが面倒だからって、小瓶を噛み砕くなんて。想像しただけで痛い……
男の口端からは、当然血が出ている。なのに、男は笑っている。こいつドMか……と思っていた直後……
ボゥッ
「お、おぉ!」
男の体が、急に炎に包まれる。なんだなんだ?
しかも、炎は男を焼いている様子はない。まるで、自ら炎を身にまとっているかのようなそれだ。
とはいえ、男は驚愕した様子。あの炎は、男の意思ではないのか? だとしたら……
「あの、小瓶?」
考えられるのは、それだ。あの小瓶……正確には、小瓶に入っていた透明な液体。それこそが、あの炎の原因なのではないか。
効果は、知っていた。だけど試したのは、今回が初めて……そんな具合だろう。
「ははぁ! くらいやがれ!」
男は手をかざし、手のひらから炎の玉を放つ。それは一見、これまでに放たれた魔法と変わらないものだ。
だから私も、それを弾き飛ばすために魔法を放つ。火には火で。同属性で弾いた方が、ダメージもでかいだろう。
なにが起こったかわからないけど、男の戦意を喪失させてやる。その、はずだった。
バシュッ……
「え……?」
火は、確かに弾け飛んだ。……しかし、弾かれたのは男のものではない、私のものだ。
まさか……!
「うわっ!」
直撃しないために、寸前で避ける。どうやら、追尾機能はついていなかったようだ。けど、直撃した場所は大爆発。
……今、信じられないことが起きた。あの男の魔法が、私の……いや、エリシアの魔法を破った!?
いくら威力が本来の半分だとはいえ、こんなこと初めてだ……
「はっはぁ! すげえ威力だ! これが、呪術の力か!」
「……呪術?」
得意気に、男は叫ぶ。これが魔法ではなく……呪術であると。
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