異世界召喚され英雄となった私は、元の世界に戻った後異世界を滅ぼすことを決意した

白い彗星

文字の大きさ
上 下
116 / 522
氷狼の村

悲劇の村の終わり

しおりを挟む


 再生能力のある、青い炎……それは、ユーデリアの腹部に空いた穴を、見事なまでに塞いでいた。再生能力というのは、本当らしい。

 だけど、それは外側……つまり、見た目だけの話。傷は治ってもダメージまでもが回復するわけではなく、ユーデリアに蓄積された先ほどの一撃のダメージは、溜まったままだ。

 だから、腹部の傷が治っても、ユーデリアが目を覚ますことはない。


『ったく、面倒かけやがって』


 傷を治したノットは、複雑そうな表情を浮かべている。それも、当然ではあるけれど。

 自分に危害を加えた相手を、自分の手で治す。正直自業自得ではあるから、まったく同情はしないけども。


『しかし、呪術でありながら傷を治す力があるとはねぇ、うらやましい』

『はっ。本気でそう思ってんのか?』


 呪術……文字通り、呪いの力。斬った者の自我を奪う『呪剣』、腹を貫かれても異常な回復力を見せるバーチ、そしてノットの炎……

 この二人と一本は、呪術というもので繋がっている。そして、バーチの言う"あの人"。……呪術は、あの人の力の賜物だと、バーチは言っていた。

 その人物が、バーチとノットに呪術という力を与え、氷狼の村を襲わせた張本人。だとしても、氷狼の村を襲わせたのは、どうして……


『見てくれだけ良くなっても、ダメージは回復しない。再生能力なんて言うが、てんで役に立たねえよ』

『今立ったじゃないか』

『はっ』


 理由がなんであれ……辺りを見回せば、"あの人"とやらの思惑は成功したのだろうことはわかる。そこには、無惨としか言えない光景が広がっていた。

 建物は崩れ、草木は燃え、人は倒れ。この村の住人氷狼も、マルゴニア王国の兵士も。残っているのは、マルゴニア王国の兵士数人だけ。

 つまり、氷狼の村は……ユーデリアを除いて、生き残りがいない村へと、成り果ててしまった。


「……これ、が……」


 これが、氷狼の村が滅んだ真実。ある日、いきなり村を襲ってきたのはマルゴニア王国の兵士。それを率いるバーチと、ノットという謎の雇われ兵。

 ユーデリアは、兵士がどこの王国の人間かわかっていた。だから、マルゴニア王国へと復讐の炎を燃やすことになった。そこでバーチと相まみえたのは、ユーデリアには嬉しい誤算だっただろう。

 マルゴニア王国、バーチへと復讐を果たし、残るは、ノット。しかし、ノットはフードで顔を隠しており、マルゴニア王国の人間ですらない。私たちがマルゴニア王国を滅ぼしたとき、おそらく王国内にはいなかっただろう。

 もしくは、逃げられたか。少なくとも、指パッチンで火を起こすなんて芸当をする奴は見たことがない。


『さて……これで、依頼完了だ』


 この人物ノットはまだ……どこかで、生きている。


『氷狼一匹を連れ去り、他は村ごと消す……なんとも妙な案件だよ。それに、幻とさえ言われてた氷狼の村の場所を突き止めたのも、雇い主ときた』

『あの人のことが気になるか?』

『気にならないと言ったら嘘になるが……私はあくまで、雇われただけ。妙な詮索はしないさ』


 氷狼の村を襲い、ただ一人のみを連れ去る……そんな指示を出した"あの人"の思惑は見えない。連れ去った氷狼を、自分たちの駒として扱うならまだわかるけど……

 ユーデリアは、奴隷になっていた。氷狼を奴隷とすることが、狙い? なんのために?

 ……ユーデリアだけではなく、氷狼族の仇ともいえる人物。その人物は、この世界のどこかにいる。

 私が復讐の道を歩み続けていく限り……いつか、その人物と出会う日が、来るんだろうか。


『村は焼き払い、生き残りもこのガキ以外になし。で、いいんだな?』

『あぁ、今兵士に隅々まで調べさせている』


 そこまで広い村ではない。氷狼の一族が住んでいるとはいっても、氷狼の数自体が多くはないからだ。

 ユーデリアはロープで縛られ、荷馬車に乗せられていく。もはやただの肉の塊となった、家族を残して。

 ユーデリアの父親は、身体中を刻まれ、片足を切り落とされた。おまけに、顔半分が抉られる有り様。母親エルストは自我を失い、ユリアを手にかけた。そしてユリアは、もはや顔の判別が出来ないほどに……


「っ……」


 それが、ユーデリアの目の前で行われた。ユーデリアは自身の身に起こったことを詳細に話そうとはしなかったが、実際に目にすると……それは、あまりにも衝撃的すぎて、言葉で言い表せない。

 ここで見たことを、正直にユーデリアに話す必要はないだろう。ユーデリアだって、まさか自分の過去を見られたなんて、思ってもいないだろう。

 だけど私は、果たしてこの先、ユーデリアの顔をまともに見ることが出来るのだろうか。


『バーチさん! 確認完了しました! 村の生き残りは、いませんでした!』

『ん、ご苦労様』


 兵士の一人がやって来て、バーチへ報告する。それは、この村の住人はすべて全滅し、生き残りはいないというものだった。

 改めて、辺りを見回す。そこには、数々の死体が転がっていた。人、獣、様々な者が。私たちがこの村に来たときと、同じ光景が……


『兵士の死体は連れて帰れよ。道中、魔物に襲われて死んだことにする』

『はっ!』


 そうか……この村にマルゴニア王国の兵士の死体がなかったのは、連れて帰ったからだったのか。確かに、なにかの間違いでこの村にマルゴニア王国の兵士が死んでいることがバレたら、えらい騒ぎだ。

 それに、兵士は氷狼と戦って死んだ。同じ獣の魔物に襲われたとは、うまい言い訳だ。


『では後処理が完了次第、村を出る。総員に伝えろ』
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

野生児少女の生存日記

花見酒
ファンタジー
とある村に住んでいた少女、とある鑑定式にて自身の適性が無属性だった事で危険な森に置き去りにされ、その森で生き延びた少女の物語

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?

お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。 飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい? 自重して目立たないようにする? 無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ! お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は? 主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。 (実践出来るかどうかは別だけど)

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

おっさんなのに異世界召喚されたらしいので適当に生きてみることにした

高鉢 健太
ファンタジー
 ふと気づけば見知らぬ石造りの建物の中に居た。どうやら召喚によって異世界転移させられたらしかった。  ラノベでよくある展開に、俺は呆れたね。  もし、あと20年早ければ喜んだかもしれん。だが、アラフォーだぞ?こんなおっさんを召喚させて何をやらせる気だ。  とは思ったが、召喚した連中は俺に生贄の美少女を差し出してくれるらしいじゃないか、その役得を存分に味わいながら異世界の冒険を楽しんでやろう!

転生したら死んだことにされました〜女神の使徒なんて聞いてないよ!〜

家具屋ふふみに
ファンタジー
大学生として普通の生活を送っていた望水 静香はある日、信号無視したトラックに轢かれてそうになっていた女性を助けたことで死んでしまった。が、なんか助けた人は神だったらしく、異世界転生することに。 そして、転生したら...「女には荷が重い」という父親の一言で死んだことにされました。なので、自由に生きさせてください...なのに職業が女神の使徒?!そんなの聞いてないよ?! しっかりしているように見えてたまにミスをする女神から面倒なことを度々押し付けられ、それを与えられた力でなんとか解決していくけど、次から次に問題が起きたり、なにか不穏な動きがあったり...? ローブ男たちの目的とは?そして、その黒幕とは一体...? 不定期なので、楽しみにお待ち頂ければ嬉しいです。 拙い文章なので、誤字脱字がありましたらすいません。報告して頂ければその都度訂正させていただきます。 小説家になろう様でも公開しております。

処理中です...