異世界召喚され英雄となった私は、元の世界に戻った後異世界を滅ぼすことを決意した

白い彗星

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氷狼の村

強い精神力

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 斬られたら、自我を奪われる……それが、『呪剣』の恐ろしい呪いの力だ。少しでも斬られただけで、呪いの効果は及ぶ。だけど、『呪剣』の恐ろしさはそれだけではない。

 原理は知らないが、なぜかひとりでに動くのだ。剣なのに、物なのに。魔法で動かしている、というのならまだわかるんだけど……そうでは、ない。

 これが、魔法とは断る力によるものなのか。その原因はわからないものの、確かなことがある。


『ぅぐっ……ガァッ……!』


 バーチの手を離れた『呪剣』が、ひとりでに動き……ユーデリアの父親を、斬りつけたということだ。今までバーチを抑えていたが……呪いにより、その形勢は覆る。

 自我を奪う呪いは、その身を蝕んでいき……いかなる人物であっても、抗うことは……


『くっ……な、んだこれは……ガルルルァ!!』


 ユーデリアの父親は、体の異変に身を震わせる。しかし、私がこれまで見てきた者とは明らかに様子が違う。

 本来なら、『呪剣』に斬られればすぐに正気を失い、暴れだすはずだ。だけど、その様子はない。まるでなにかに耐えているように……


『……自我を保つ、か。強い精神力を、持っているようだな』


 その様子に、バーチは呟く。

 自我を、保つ……つまり、『呪剣』の呪いに抗っているってことか?

 以前、私も『呪剣』に斬られたことがある。その時、確かに感じたのだ……まるでなにかが、体の内側から体全体を、侵食してきているような感覚を。


『グゥルル……わた、しは……負けん!』


 あの時私は、『呪剣』の呪いに勝った。『英雄』として数々の経験を積んできたおかげで、強い精神力を手にいれることがで出来たからだろう。

 つまり、呪いに勝つほどの強い精神力を持っていれば、呪いの効果は及ばない。私も、それにユーデリアの父親も、同じように強い精神力を持っていたってことか。


『こんな、もので……わた、しを……殺せると、思うな!』


 『呪剣』の呪いは強力だが……呪いが効かなければ、ただの細い剣だ。それでは、この体毛に覆われた巨体に致命傷は与えられない。

 バーチは腹部を突き刺され、『呪剣』は効かない……もはや、万事休すだ。


『……やはり、来てよかった。お前のような獣と、本気の殺し合いが出来て、嬉しいよ』


 しかし、腹部を貫通し穴が空いているだろうバーチは、なぜか笑う。気持ちの悪い、笑みを浮かべているのだ。

 耐久力がおかしいし、コルマも追い詰めても追い詰めても笑う変態だった。もしかして、『呪剣』の使用者って変態になっちゃうの?

 ……それは嫌だなぁ。私も使ってたんだもんなぁ。


『なにを、笑っている……このまま、氷付けに……!』


 バーチは、ただ刺されているわけではない。氷の角に、刺されているのだ。

 つまり、刺されている箇所から凍っていく。このままの状態では、氷の彫像になってしまうことだろう。なのに、なにをああ余裕そうに笑って……?


『そんなのじゃ、俺は、殺せない……!』


 ズボォ……


 ……驚くべきことが、起こった。バーチは、刺された状態のまま自ら、角から体を引き抜いていく。

 角に手を当て、体の重心を後ろに、ゆっくりと引き抜いていく。その際、角に触れている手が凍っていく姿を、まるで関係ないと言わんばかりに。


『な、にっ……なぜ、その体で動ける?』


 ユーデリアの父親の疑問も、当然だ。バーチの腹部には、角が貫通した証の穴がしっかりと空いている。バーチが後ろに下がる……つまり角の先端に行くにつれ、角は抜けていくと同時に腹部の空洞の大きさも露になる。

 あれは、内臓はいくつか抉れている致命傷だ。心臓にだって、影響がないとは思えない。なのに、なぜああも平気そうな顔をしている?

 やがて、体を角から完全に引き離したバーチは、ゆっくりと地面に着地する。


『ふ、ふふはは……不思議、か? それは、そうだろうな。普通ならば死んでいる、ほどの傷だ』


 生々しく抉れ、穴の空いた腹部……本人の言うように、普通ならば死んでいて当然の傷。だが、バーチは死ぬどころか、立って歩いている。

 その表情に、気味の悪い笑みを浮かべて。


『くっ、化け物め……!』

『獣風情に、化け物と言われるとは……だが、それは恐怖から来るものだろう? 今、俺に対して恐怖を抱いているな?』


 ズズズ……


「! 傷が……」


 治って、いく?

 あの傷を負って、動いていること自体驚くべきことなのに……それを上回る、事態。腹部に空いた穴が、塞がっていくではないか。

 まるで、そこには最初から傷口などなかったかのように、完璧に塞がっていく。


『ば、かな……!?』

『この力も、あの剣も……すべては、あの人の力の賜物。あぁ、これが『呪術(じゅじゅつ)』の力……!』


 数秒前まで、穴が空いていた腹部を……バーチは、撫でる。その表情は、うっとりしているを通り越して、愛しそうでさえあって。

 バーチは、言った。この力も、あの剣もあの人の力だと。この力とは、今見せている……まるで不死身のような力。剣とは、『呪剣』のことだろう。

 つまり……それは、バーチ自身の力ではなく、"あの人"に与えられた力、ということか? 『呪剣』も、ひょっとしたら最初から呪われた剣などではなく、"あの人"の力によるもの?

 その力を……


「呪術……」


 魔法ではない、呪術と……確かに、そう言った。呪術と魔法になんの違いがあるのかわからないが……魔法とは、まったく系統の異なる力だ。

 不死身の肉体を与えたり、斬った者の自我を奪う呪いを与えたり、魔法よりよっぽど趣味の悪いものであることは間違いない。

 その字の通り、呪いの術……バーチのあの体も、『呪剣』の正体も、すべては呪術によるものなのか?


『さあ……そろそろ、幕を引こうじゃあないか』


 呪術の使い手……イコール"あの人"。それが、バーチの後ろにいる人物。この村を襲わせた、張本人ってことか?
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