異世界召喚され英雄となった私は、元の世界に戻った後異世界を滅ぼすことを決意した

白い彗星

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世界に復讐する者たち

【幕間】計画と思惑

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 大国、マルゴニア王国が滅んだ……いや、滅ぼされたという話。いくらなんでも突拍子もない言葉に、ノットは困惑していた。いや、ノットに限らず、誰であろうときっと困惑してしまう。

 だが、それをやったのが誰か……その人物像を聞いた瞬間に、不思議と納得がいった。


「氷狼……!」


 氷狼とは、希少とされる生き物の名。一見ただのウルフと変わらないが、その体毛は美しい藍色だ。とはいえそれだけでは、珍しい止まりだが……驚くことに、奴らは人間の姿に化けることが出来るのだ。

 そして、彼らが『氷狼』と呼ばれる所以ゆえん……それこそ、その身から冷気を放つ点にある。それも、その気になれば自然現象に負けないほどの猛威を振るうというのだ。

 それは、ノット自身が身を持って体験している。凍傷により赤黒くなった自らの右肩を、そっと撫でる。


「その傷は、確か……」

「あぁ……奴らとの戦闘で、負ったものだよ。ったく私としたことが情けない……あんな連中に、こんな……」


 忌々しげに、傷を撫で……ノットは口調が、荒くなっていく。顔を歪めるのは、当時のことを思い出してか、それとも皮膚に食い込むほどに力を込めた爪によるものか。

 それでも、この傷を治しも隠しもしないのは……自らへの、戒めのためだ。


「しかし、その傷のおかげでしつこい男に追いかけまわされなくなったんだろう?」

「はんっ」


 なまじ顔もスタイルもいいノットだが……この傷を見て、近寄ってくる男はそうはいない。以前は何人もの男に誘われていたが、この傷を負ってからそのようなことはめっきりと減った。

 その点に関しても、この傷を残しておく価値はある。


「それにしても……キミがそんな傷をつけられるんだ。氷狼というのは、かなり戦闘力の高い生き物らしい」

「……ま、そうだな。連中とまともにやり合えたのは、私とバーチの野郎くらいさ」


 かつてノットは、バーチという男と共にマルゴニア王国の兵士を率いて、氷狼の村を襲った。その際に実感した、彼らの戦闘能力の高さ。

 数こそ少ないが、その気になれば一国を落とせるポテンシャルを持っている。なぜひっそりと、あんな村で暮らしていたのか。

 奴らを殺し尽くした後では、もはやそれを聞く術もない。


「奴隷として生かした一匹以外は、村共々焼き尽くした……それで、間違いはないか?」

「あぁ、生き残りはいない。だから、氷狼ってのが残ってるなら、奴隷のそいつで決まりだ」


 この手で村に火を放ち、混乱する氷狼を殺していった。

 氷狼は希少な種族だ、文献にだって詳しくは載っていない。入念に特性を調べ、能力を調べ、それでも足りない。だというのに、ただ一匹の奴隷を手に入れるためにあの村を襲ったのは、とある理由からだが……


「その理由ってのは、教えてもらえないのかい?」

「すまないね」

「私はアンタの部下じゃない……が、雇われの身だ。いいように使われる気はないが、金さえもらえれば文句はないさ」

「ふっ」


 ノットは、裏の人間……いわば、雇われ兵のようなものだ。彼の部下ではない。が、彼が雇い主であることに変わりはない。

 もちろん、気にはなる。希少な種族とはいえ、自分のような人間を雇い、さらにはマルゴニア王国の人間まで巻き込んで、いったいなにをしようというのか。

 自分を巻き込んだのだ、『計画プロジェクト』に関係あることは間違いないだろうが。


「……そういや、バーチはどうしたのさ。確か、マルゴニア王国のウィルなんとか王子の側近に仕立て上げたんだろ?」


 今の思案の中で、共に氷狼の村を襲った人物、バーチのことを思い出す。彼は、自分ノットと違い、純粋にこの男の部下……忠誠を誓っていたはずだ。


「ウィルドレッド・サラ・マルゴニアだ。そう、あの無能な男の傍らで、忠臣となるよう命じた」

「マルゴニア王国に潜入させてた工作員よりも、あいつに話を聞いた方が確実でしょ。あぁ、側近だから下手に動けないのか」


 国に潜入させていた工作員であれば、そもそも相手側に認知されていないのだから、国への出入りも自由。だが、王子の側近とあれば、勝手に動くわけにもいかない。国の外となればなおのこと。

 マルゴニア王国との連絡が途絶えたとあらば、バーチもバーチなりに考えがあるはず。ここで変な動きをして、疑いを持たれるのは得策では……


「死んだ」

「…………はぇ?」

「死んだ……殺されたのだそうだ、バーチは」


 またもや唐突な、信じられない言葉。それにより、本人も意図しない間抜けな声が漏れてしまう。

 信じられない報告……それは、先ほどのマルゴニア王国滅亡の報告よりももしかしたら……信じられないものだ。


「し、死ん……殺された? おいおい、冗談……冗談だろ? あんたが滅多に言うことのない冗談なんだろ?」


 それは、バーチの実力を知る者だからこその信じられない気持ち。あの男が、殺されるなんて……それこそ『剣星』や『魔女』と同格と思われるほどの、実力者だ。

 マルゴニア王国が滅んだことといい、バーチが死んだことといい……いったい、なにが起こっているというのか。

 たとえ氷狼であっても、たった一匹で、それも奴隷だった子供に、そんな大それた真似ができるとは思えない。


「……そういや、2人、って言ってたな」


 マルゴニア王国を滅ぼしたのは、2人だと彼は言った。ならば、残るもうひとりが、バーチを葬ったのか。


「……氷狼のガキといたっていう、もうひとりは、何者なんだ」


 ノットは、そのもうひとりの人物の、その正体は何者であるかを問いかける。氷狼の子供と共に行動しているという、人物のことを。
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