異世界召喚され英雄となった私は、元の世界に戻った後異世界を滅ぼすことを決意した

白い彗星

文字の大きさ
上 下
70 / 522
英雄の復讐 ~マルゴニア王国編~

二人の復讐者

しおりを挟む


 ------グレゴとエリシアが、異常事態の報告があった村へと向け、マルゴニア王国を出発した数日前------



 私とユーデリアは、ユーデリア案内のもとマルゴニア王国へと、向かい始めていた。


「それにしても……部分変化だけじゃなくて、全身も変化させられるなんて。ますます面白いね、キミ」


 ボニーに乗った私は、隣を走るユーデリアへと声をかける。全身を藍色の体毛で覆われた彼は、ボニーと同程度の速度で走っている。四足歩行で。

 現在彼は、いわゆる狼の姿に変化している。あの村での戦闘では、腕や脚を獣の姿に変化させていたけど……なるほど、やっぱり全身をも変化させることができたらしい。

 普通の獣人ならば、こうはならない。というか、単に獣の特徴がある人型寄り、といったのが大多数だ。

 こうした、人と獣との姿を自在に変化することができるのは……氷狼フェンリルという種族だからか、それともこの子に備わっているこの子だけの力か。

 いずれにしろ、私は初めて見た。それほどには珍しいってことだ。

 しかも、ボニーと同等の速度まで出せるときたもんだ。あの戦闘能力といい、やっぱり使える。


「ふん……」

「あのねぇ、私だってキミと馴れ合うつもりはないけど、少しくらい話をしてくれてもいいんじゃない?」


 奴隷時代の名残か、もともとこんな性格なのか……こっちから話しかけても、返ってくるのはそっけない返事ばかり。言葉のキャッチボールはなく、ドッジボールだ。

 別に、この子を仲間として迎え入れた訳じゃない。ただ、多少のコミュニケーションくらいあってもいいんじゃないだろうか。

 せっかく買ったのに……あんまり素っ気なさすぎて、お姉さん、泣いちゃう。


「あんたとは、利害の一致で組んでるだけだ。あんたもそう言ったじゃん」

「そうなんだけどさ、そうなんだけどさ。それ私の台詞じゃない?」


 ……と、まあこんな感じでそっけない会話が続いていた。私が嫌われているというより、この子は世界全般を信用していない。無論、世界に住まう人間も。

 奴隷時代になにをされたのか……想像するのは、難しくない。

 ま、そこを追及する気も同情する気もない。別に、助けたからって私に恩なんて感じる必要もない。


「ま、いいや……マルゴニア王国まで案内してくれれば、それで」

「着いてこれなきゃ置いてくつもりだったけど……お前、速いな」

「アゥン!」


 まったくこっちを気遣う様子のないユーデリアだけど、自身の速度と同等の速度で走るボニーに対しては、優しい顔を向けていた。それに対してボニーは鳴くことで応える。なんだ「アゥン!」って。

 両者目と目があい、そこには一種の絆のようなものさえ垣間見える……まるで、お互いを認めあったライバルのように。なにこれ。

 私より先にボニーと打ち解けちゃったよ。いや悔しいとかじゃないけどね? まさか野性動物に先に行かれるとは思わないじゃん。なんで両者わかりあったような顔してるの? 獣人だから動物の言葉通じてるの?

 なぜ私が、蚊帳の外なのか。


「ねえ、マルゴニア王国にはいつ着くの」

「慌てるなよ。最短ルートを走ってるから、そうはかからないと思う」

「その台詞聞いてもう数日経ったよ……」


 最短ルート……やっぱりこの子も、早くマルゴニア王国に行きたいんだ。行って、自分を奴隷の身に落とした人物に、復讐を考えている。

 ただ、距離が遠いのか……なかなか着かない。その間、立ち寄った町を壊滅させたり、襲ってくる野盗を殺したり……いろいろあったわけだけど。まったく。

 ……ただ、この子だって、奴隷の身だったなら……マルゴニア王国に、一刻も早く着きたいはずだ。逸る気持ちをこの子にぶつけても、仕方ない。


「……ねえ、どうして奴隷になったの?」

「は?」


 気がつけば私は、そんなことを口にしていた。馴れ合うつもりはない……とはいっても、やはり気になるものは気になってたってことか。

 この子の境遇を知りたいと思ったのか、こんな小さな子が奴隷にされてしまう世界への恨みを、確固たるものにしたいという打算があったのか……それはわからないけど。


「なんでわざわざ、お前に言わなきゃ……」

「私ね、この世界の人間じゃないんだ」


 私をまったく信用していないこの子が、素直に話してくれるわけがない。一方的に話せなんて、虫がよすぎるからね。

 だから私も、話す。


「……は?」

「この世界に『勇者』として呼ばれた……この世界で言う、異世界の人間。それが私」

「お、おい?」


 ユーデリアに少しでも、話して警戒を解こうと思ったのか。それとも……


「なんか魔王を倒すため、世界を救うためだって理由でこの世界に選ばれて召喚されてね。勇者パーティーってのを組まされて、魔王討伐の旅に出て……いろいろあったけど、なんとか魔王を倒して、世界を救った。お役御免になった私は、元の世界に戻ったよ」

「戻れたってんなら、なんで……」

「なかった……そこには、なにもなかったんだよ」


 誰でもいいから、なんでもいいから聞いてもらいたかったのだろうか。


「家族も、友人も、恋人も……全部、なくなってた。全部、壊れた。私の世界は、この世界に召喚されたことで奪われたの。壊されたの。この世界が私を選んだから、私は殺されたの」

「じゃあ、お前……アンは、誰に復讐するとかじゃなくて……」

「……そう。私の復讐対象は、この世界だよ」


 もしも、私を召喚したのが……いや私を選んだのが、どこかの誰かなら、そいつを殺すことが私の復讐になる。それだけで気が済むかはわからないけど、ひとまず私の復讐は終わる。

 でもそうじゃない。

 私を選んだのが、この世界なら……私は……


「……さ、私は自分のことを話したよ。次はキミ」

「……ずるい女だな」


 ずるい、か。……そうだよ、私はずるいんだよ。


「ボクは……故郷を、マルゴニア王国の奴らに滅ぼされた」

「!」

「王国の紋を付けてたから、間違いない。あいつらは、突然やってきて……村に火をつけた。そして、ボクの友人も、家族も殺された。生き残ったボクだけが、捕まり……奴隷にされた。氷狼族は珍しい、高値で売れるって理由で。もともと、氷狼族の数は少なかった。けど、抵抗したからみんな殺されたんだ。奴らにしてみたら、珍しい種族がさらに数を減らした方が、値が張ると思ったんじゃないか」


 ユーデリアが話してくれた彼自身のこと……それは、予想を超えたものだった。

 まさか、王国の人間がそんなことをしていたなんて。いや、それ自体にあまり驚きはない……驚きがあったのは、間接的に私の世界を奪ったそれとは違い、直接的に干渉してユーデリアの世界を壊したなんて。

 まさかそんな大々的に動いていたなんて、思わなかった。

 でも、果たして王国の人間が……わざわざ王国の紋を付けたまま、そんな行為に及ぶだろうか?

 それとも、わざとそう見せつけることで……王国への憎悪を、抱かせたのだろうか。


「だからボクは、そのときの人間を見つけ出して一人残らず殺す。においは覚えてる……あのときの商人は違ったみたいだ」


 これが、ユーデリアの復讐の根元か。手段は違えど、彼もこの世界に人生をめちゃくちゃにされた一人。

 私との違いといえば、経緯と復讐の対象者が絞られていることか。王国への道といい対象の人間といい、においでわかるとは便利なものだ。

 あのときの商人ってのは、リーブスとロッシーニのことか。今の話を聞いて、もしかしたらあいつらもマルゴニア王国の人間だったのかと思ったが、違ったようだ。


「そっか、辛いこと思い出させたね」

「ふんっ、質問した時点でわかってただろ。ま、大変なのはお互い様だし……ボクもこの世界は嫌いだ。一応自由にしてくれた恩はあるし、できる限りの協力はしてやる」


 あら、恩を感じてくれてたんだ。それに、私の境遇に共感もしてくれたらしい。

 傷のなめあいと言うなら、それでもいい。私も、境遇を同じくするこの子と復讐をするための気持ちが、固まった。馴れ合う気はないけど、目的を同じとする者として。

 ただの仲間のような、甘ったれた馴れ合いの関係ではない。絶対にお互いの目的を完遂するためだけに一緒に行動している……それが、私たちの関係だ。

 私たちは友人でも、ましてや仲間でもない。

 私たちは……


「見えた……マルゴニア王国だ」


 ただの、『復讐者』の同志だ。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?

お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。 飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい? 自重して目立たないようにする? 無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ! お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は? 主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。 (実践出来るかどうかは別だけど)

完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-

ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。 自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。 28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。 いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して! この世界は無い物ばかり。 現代知識を使い生産チートを目指します。 ※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。

大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います

町島航太
ファンタジー
2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。

神々の間では異世界転移がブームらしいです。

はぐれメタボ
ファンタジー
第1部《漆黒の少女》 楠木 優香は神様によって異世界に送られる事になった。 理由は『最近流行ってるから』 数々のチートを手にした優香は、ユウと名を変えて、薬師兼冒険者として異世界で生きる事を決める。 優しくて単純な少女の異世界冒険譚。 第2部 《精霊の紋章》 ユウの冒険の裏で、田舎の少年エリオは多くの仲間と共に、世界の命運を掛けた戦いに身を投じて行く事になる。 それは、英雄に憧れた少年の英雄譚。 第3部 《交錯する戦場》 各国が手を結び結成された人類連合と邪神を奉じる魔王に率いられた魔族軍による戦争が始まった。 人間と魔族、様々な意思と策謀が交錯する群像劇。 第4部 《新たなる神話》 戦争が終結し、邪神の討伐を残すのみとなった。 連合からの依頼を受けたユウは、援軍を率いて勇者の後を追い邪神の神殿を目指す。 それは、この世界で最も新しい神話。

雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった〜

霞杏檎
ファンタジー
祝【コミカライズ決定】!! 「使えん者はいらん……よって、正式にお前には戦力外通告を申し立てる。即刻、このギルドから立ち去って貰おう!! 」 回復術士なのにギルド内で雑用係に成り下がっていたフールは自身が専属で働いていたギルドから、何も活躍がないと言う理由で戦力外通告を受けて、追放されてしまう。 フールは回復術士でありながら自己主張の低さ、そして『単体回復魔法しか使えない』と言う能力上の理由からギルドメンバーからは舐められ、S級ギルドパーティのリーダーであるダレンからも馬鹿にされる存在だった。 しかし、奴らは知らない、フールが【魔力無限】の能力を持っていることを…… 途方に暮れている道中で見つけたダンジョン。そこで傷ついた”ケモ耳銀髪美少女”セシリアを助けたことによって彼女はフールの能力を知ることになる。 フールに助けてもらったセシリアはフールの事を気に入り、パーティの前衛として共に冒険することを決めるのであった。 フールとセシリアは共にダンジョン攻略をしながら自由に生きていくことを始めた一方で、フールのダンジョン攻略の噂を聞いたギルドをはじめ、ダレンはフールを引き戻そうとするが、フールの意思が変わることはなかった…… これは雑用係に成り下がった【最強】回復術士フールと"ケモ耳美少女"達が『伝説』のパーティだと語られるまでを描いた冒険の物語である! (160話で完結予定) 元タイトル 「雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜でも、ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった。噂を聞いたギルドが戻ってこいと言ってるがお断りします〜」

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

処理中です...