異世界召喚され英雄となった私は、元の世界に戻った後異世界を滅ぼすことを決意した

白い彗星

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英雄の復讐 ~マルゴニア王国編~

動き出す元勇者パーティー

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「……これは、ひどいな」


 二つの人影が、一つの村を訪れる。その目的は観光……であったならば平和的でよかったのだが、残念ながらそうではない。この村で起きた異常事態、それを確認するために訪れた、というのが理由だ。

 しかも、異常事態が起きたというのは、この村だけではない。ここ最近、近隣の村町等で異変が起きていると、次々と国に報告が挙がっている。それを受け、国はこの二人に調査を依頼した。

 なにが起こっているかは、二人はおおかた聞いている。村一つが、壊滅した……要点は、こうだ。

 それなりに覚悟してきたつもりだ。しかし、こうして惨状を目の当たりにすると……その覚悟は、へし折れてしまいそうになる。胸が痛む。


「村一つ壊滅……か。聞いちゃいたが、これは……」

「ひどい……」


 村の現状に息を呑む二人は、それぞれの感想を口に出す。片方はがたいのいい男性、片方は長身で腰まで伸びた髪を一つにまとめている女性だ。

 二人は、物言わぬ死体となった屍の並ぶ村を見て、その凄惨さに改めて事態の重さを知る。

 村が壊滅したと、聞いてはいた。だが現状は、予想以上に悲惨で残酷なものであった。


「……しっかし、なんで俺らがわざわざ、調査なんてしないといけないんだか」


 この光景を見続けていては、気が滅入る。そう判断した男性は、わざと明るい口調で話す。その気遣いに気づいてか気づかずか、女性もまたわざとらしく、呆れた口調で答える。


「言ってたでしょ。次々に村町が壊滅してるからただの警備じゃ不安……腕の立つ人物に行ってもらうって。それに……」

「あぁあぁ、わかってるよ。一度来たことのある奴の方が適任ってことだろ」

「わかってるならわざわざ言わなくていいでしょ。相変わらず、気遣い下手なんだから」

「ちぇ。……かつては勇者パーティーのメンバーが、今じゃ調査隊の一員か」


 村に足を踏み入れたこの二人は、かつて勇者パーティーに所属していた二人だ。本来ならば、こういった調査は国の兵士などに異常を調べさせるが……今回は、状況が状況だ。

 村町が次々壊滅……それも、一人の生存者も残すことなく。これは、あまりにも異常だ。さらに、この二人は……いや、かつての勇者パーティー六人は、この村に訪れたことがある。今では、内三人が死亡し、一人はこの世界にはいないが。

 生き延びた二人が、この村の調査に最適だと判断されたのだ。そして、村壊滅の理由についてだが……


「……村人が、錯乱した可能性だって?」


 村人の錯乱……国としては、その可能性も視野に入れてはいた。しかし、それはありえない。この村の人間は皆いい人で、小さな喧嘩はあれど、人を殺すなんて行為に及ぶはずがない。

 この村を訪れたことのある二人なら、そう断言できる。

 もちろん、誰かに無理やり操られて村人が同士討ちをさせられたという可能性もなくはない。錯乱系の魔法の上級者ならば、そんなこともできようが……村人の屍に残る傷口は、どれも的確に急所を狙ったものだ。

 一撃、多くても三撃以内にとどめを刺されている。

 しかも、その多くはおそらく素手で。


「……素手での殺し、か」


 こんな芸当、素人ではありえない。かなりの手練れだ。よって、自発的にも強制的にも村人が犯人、という線は消える。

 よほど殺しに慣れた殺人鬼が、無差別にあちこちを襲っている……そう考えた方が、一番しっくりくるし、そもそもそうとしか考えられない。

 この村だけでなく、異変は近隣でも起こっているのだ。その全てが、そこに住まう人々が起こした惨劇……と考えるのは無理がある。

 『村人の仕業ではない』という、確信に近い予想。それは予想でなく、現場に来てようやく断定へと至った。ゆえに、異常事態の原因の可能性は一つ消えたということだ。

 一つでも可能性を潰していくことは、犯人の目星をつける大きな手がかりになるはずだ。


「まだ殺人鬼が潜んでたら、このグレゴ様が叩き切ってやったのによぉ」


 勇者パーティー随一の剣術使い、グレゴ・アルバミア。自分の身長と大差ないほどの大剣を背負い、口ひげが印象的な大男。

 通称『剣星』と呼ばれる、全ての剣士の頂点に立つ人物。一方、仲間内では筋肉ダルマのあだ名も持つ。本人は嫌がっているが。


「なにをそんなのんきに。誰がなにを目的にこうなってるのか、まったくわからないんだよ? 無差別に人を殺してる……許せないよ。生きてさえいれば、どんな状態からだって命を繋いでみせる。でも…………こんなの、命への冒涜だよ!」


 勇者パーティー随一の回復魔法使い、エリシア・タニャク。桃色の髪が美しく光り、異性はおろか同性の視線をも独り占めにするほどのスタイルの持ち主。子供っぽいのがたまにきず。

 話しているうちに感情が高ぶってきたのか、冷静を保ってきた声は次第に、涙を孕んだものに変化する。『魔女』と呼ばれるほどに、魔法を極めし人物だが……本人は、その名を重荷にすら感じている。

 かつての旅で、仲間を救うことが出来なかった。『魔女』だなんだと言われておいて、三人の仲間を見殺しにしたのだ。

 だからこそ、その名に恥じぬよう、魔法の訓練を積んできたというのに。この場では、なにもできることがない。


「わ、わかってるよ、てか泣くなよ」

「泣いてない」

「へいへい。とにかく、これだけの被害を起こした危険人物が、目的もわからないままにあちこちで暴れまわってる状態だ。……下手すりゃ、魔王討伐以来の大事件になる」


 まさか、魔王を倒した後の世界で、こんな事態が起こるとは……そこでふと、思い出す。魔王との戦いの最中、彼が『勇者』アンズに投げかけていた言葉を。


『この魔王を倒したところで、この世界に平和など訪れない。災いは再び舞い戻る!』


 あの時は、彼女アンズ同様その台詞を戯言程度にしか受け取っていなかったが……

 もしや、魔王と意思を同じくする存在が現れたのか? そいつが再び世界を混沌に変えている? それとも、まさか魔王には未来予知のような力があったのか?

 ……いくら考えても、その問いに答えなどでない。いや、きっと答えはないのだ。単に、魔王の戯言と現状が重なっただけのことだろう


「……今は六人いた勇者パーティーも私達二人だけ。……もしこの凶行が、魔王ほどの力の持ち主の仕業なら、私達じゃ太刀打ちできないかもしれない」

「……まあ、否定はしないが。そんな存在、そうそう現れてたまるかよ」


 これまでに、村や町、あるいは集落でも報告が上がっている……その犯人は、まず間違いなく同一人物だろう。この世界を脅かす何者かがいるのは、確かだ。

 それが何者かはわからないが……あの魔王ほどの力を持った存在だとは、思えない。というか、思いたくない。

 魔王を倒すのだって、四人の力を合わせて一人の犠牲があって、ようやく叶ったものなのだから。そして、今や残ったのは二人だけなのだ。

 魔王以来の驚異が現れたのは事実だが、それが魔王ほどの力の持ち主とは、思いたくはない。


「まあなんにせよ……これだけの人間を殺してくれたんだ。ちゃんと、償わせなきゃいかんわな」

「そうだね……おっさんにしてはいいこと言う」

「おっさんやめてくんない」

「なら筋肉ダルマ」

「もっとやめろ!」


 一人や二人を殺すというなら、まだわからないでもない。だが、この村の人間全員を殺すなどと、正気の沙汰ではない。誰かに恨みがあるとかではない、完全なる無差別殺人。

 罪のない人間が、未来ある子供が、こんな形で人生を台無しにされたのだ。犯人にどんな理由があろうと、決して許せるものではない。

 どんな理由が、あろうと。


「グレゴ、許せないのは私も同じだから、剣気をおさめて」

「お、おう……悪いな」


 許せぬ者への怒りが、表に出てしまう。いかに精神を鍛えたグレゴであろうと、平常心ではいられない。もしこの場に、この惨状を引き起こした人間がいれば、迷わず殺していただろう。

 それほどまでに、許せない光景だ。二人が取り乱さずにいることができたのは、皮肉にも勇者パーティーとして魔王討伐の旅の道中で辛い思いを経験したおかげと言える。


「……犯人の目的がわからん以上、どうしても後手に回ってしまう……か。だが、こんなことを野放しにしておくわけにはいかない。なんとか食い止めねぇと」


 こうしてこの村に来たのだって、事が起こってからそれなりに時間が経ってからだ。まず、村人が全滅している時点で、ここでなにが起こったかの報告が大きく遅れる。

 事実確認があり、国に報告がいき、そこからグレゴとエリシアに伝令が伝わるのも、それまた時間がかかる。それに、二人は常に、その国にいるわけではないのだ。

 だから、犯人が犯行に及んでから、グレゴたちがここに来るまでの時間は大きく空いている。犯人はきっと、別のところで犯行を重ねていることだろう。

 こんなことをした犯人が、別の場所でおとなしくしておくわけがない。


「くそっ」


 激しい怒りを見せるグレゴ。普段は温厚なエリシアでさえ、その怒りはグレゴと同様だ。いや、命に対する価値観をエリシアは、人一倍知っている。

 その分、もしかするとグレゴよりも、うちに秘めた怒りは激しいのかもしれない。


「それでも、見つけなきゃいけない。近隣の村町が危ないことはわかったんだし、まずはそこをしらみつぶしに回っていくしかないかも」


 手掛かりは、多いようで実は少ない。生存者がいないのだから、犯人が男か女かさえもわからないのだ。

 今出来るのは、犯人を見つけること。そして、無念にも命を散らしてしまった人々を、供養することくらいだ。しかし、一人一人を土に埋めてやるには、残念ながら時間がない。


「ん……?」


 とにもかくにも、倒れている人たちをこのままにはしておけない。

 あちこちに倒れている人々を一ヶ所に集めるため、運ぶのはグレゴや兵士たち男連中に任せる。エリシアは、他に手掛かりがないかと、村を歩き回る。

 もしかしたらなにか、小さななにかでも痕跡があるかもしれない。そんな思いで辺りを見て周り、そこで見つけたのが……


「これは……」


 損傷がひどく、直視するのもためらわれるほどの男の遺体。ここまでやるかというほどに、傷がひどい。回復魔法のスペシャリストであるエリシアだからこそわかることだが、この男は体の内側がボロボロだ。

 外見もそうだが、それ以上に内側がひどい。内臓が破裂している。この男個人に恨みがあるのではないかと思えるほどに、ひどく痛めつけられている。

 たとえ死んでいなかったとしても、命を繋ぐのはともかくとして完治させるのは、エリシアでさえ難しいだろう。


「この、傷……」


 内側がぐちゃぐちゃの、男の遺体に近づく。あまり見ていて気分のいいものではないが、それよりも気になることがある。

 この男の、傷……というより、打撃痕。そこから生じるダメージ……見覚えがある。それは、回復魔法使いで他者の傷を見ることに長けたエリシアであるからこそ、気づけたものだ。


「似てる……」


 その傷跡は……エリシアの知っている人物が打ち出した後の傷に、よく似ていた。ただ似ているのではない……よく、似ているのだ。


「アンズのに、似てる……」


 かつて勇者パーティーメンバーの筆頭であった、アンズ・クマガイ……いや、異世界から来た熊谷 杏の繰り出す打撃痕と、非常によく似ていた。

 だが彼女は、魔王を討伐した後に元の世界に帰ったのだ。ここにいるはずがないし、そもそも彼女はこんなことをする人間ではない。となると、彼女の戦闘を真似た何者かの仕業か。

 そうであれば、犯人はかなり限られる。アンズ個人の戦闘方法を真似するなど、誰にでもできる話ではない。

 大量殺人を犯したことに加え、勇者の……いや『英雄』となった彼女を貶めるような行為だ、これは。ますます……


「許せない……!」


 罪なき人間を殺し、親友と呼べる彼女を汚す輩を許すことは出来ない。エリシアは、改めて怒りの炎を燃やし、桃色の瞳を赤く燃やしていた。
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