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勇者パーティーの旅 ~魔王へと至る道~
魔王城にて
しおりを挟むサシェとボルゴ……二人の仲間を亡くした、この魔王討伐の旅は確実に終わりへと向かっていた。大きな犠牲は、つらく悲しいものだが……私たちは、二人の思いを背負って、歩き続ける。
魔王を倒して、世界を平和に導くことが、二人へのせめてもの手向けとなるはずだから……
「……ここが、魔王城か」
そしてたどり着いた、魔王が住んでいるとされる城……通称魔王城。まるでビルとも思えるほどに高い建物で、全体的に黒い。いや、暗い……建物だけじゃなく、この一帯までもが。
どんよりとした、重々しい空気。気を張っていなければ、このどんより空気に呑み込まれてしまいそうな、それほどまでの雰囲気。こんな場所に、人が住むことはできないだろう。
だけど、ここに住んでいるのが人間でなく……魔族であるというなら、納得だ。魔族にとって、このどんよりとした空気はむしろ大好物だろうから。
今までは、魔物があちこちにいて、どこからともなく襲いかかってきていた。それも、予兆はあった。でも、ここは魔物の巣窟……常に奴らが出てくる可能性を孕んでいる。
これまで以上に警戒して進まないといけないのは、間違いない。だけど、慎重になりすぎる必要も、ない。私はただ、ここにいるであろう魔王を倒すだけなのだから。邪魔する奴は、魔物だろうか魔獣だろうが……
「ほう、よくここまで来たものよ人間風情が。よかろう、その実力を認め、ワレが直々に相手をしてや……」
「邪魔っ」
ドパッ……
……あれ、考え事をしていたところに、なにかが割って入って来たからつい殴っちゃったけど……今私、なにを殴ったの? 誰もいないけど。
「あ、アンズ……」
「ねえ、今私、誰か殴らなかった?」
「いや……あぁ。多分、今の最後に残った四天王……しゃべってたし」
「へ?」
いや、確かに今、なにかを殴った気はするんだけど……いや、ホントに?
相手が魔物だろうと魔獣だろうと、四天王すらも死体は残らない。どうり私は、意図せず最後の四天王を倒してしまったようだ。しゃべる魔族なんて、四天王以外にはいない。
結果として、最後の四天王も倒したわけだけど……私自身その自覚がないままに、進む。
「みんな、気を引き締めて進もう」
「キミがそれを言うのか」
魔王城とは、これまで旅をしてきた地形とはまるで違う。空気もそうだが、常に誰かに見られているような不快感。それに妙な悪寒も感じる。
なるほど、ここは……常人であれば、魔王城の中に入るどころか近づくことさえも許されない。ここまで来るに値する人間だけが、ようやく近づくことができる。
「でも、さすがに……多いね、魔物」
魔物とは、別に魔王の配下ってわけじゃない。知能を失くした獣……だけど、本能は忠実というのか。禍々しい場所に引き寄せられるというのか。
その数は多く、辺りをうろついているどころか、どこに隠れているんだと言いたくなるくらいにあちこちから出てくる。正直うっとうしい。
魔物や魔獣はうじゃうじゃ……それでも、一番強い魔力……もはや邪気に近いそれは、魔王城の一番上から感じる。これは、今までのどの魔族よりも強く、禍々しいものだ。
おそらく……というか間違いなく、これは魔王のものだろう。まったく……煙となんとかは高いところが好きとは聞くけど、魔王ってやつもその例には漏れないのだろうか。
一番高いところで、私たちがこうして戦っている姿を面白そうに見ているのだろう。
「……さっさと、終わらせてやる!」
階段を駆け上がり、現れる魔物をぶん殴って倒していく。自分で言うのもなんだけど、もはや私の拳ならば魔物はおろか魔獣すら一撃で倒せるほどにパワーが上がっている。
それにさっきは、どうやら四天王を一撃で倒せたようだし。
「アンズ、あまり先走りすぎるな!」
「わかってます、よ!」
殴り、蹴り、倒して。長い長い階段を登って、登って、登って……たどり着いたのは、バカみたいに大きな扉の前だ。
「この奥に……」
この扉の奥から、いっそうに禍々しい気配を感じる。この奥にいるのが、魔王……こいつを倒せば、私たちの旅は終わる……!
「う、りゃあああ!!」
扉を開く……よりも先に、思い切りぶん殴る。おそらく強度は鉄以上……それを、私の拳は軽々とへこまし、吹き飛ばしていく。
「うわぁ、すごい威力……」
「アンズが敵でなくてつくづくよかったな」
「あっはは、さすがは俺の弟子だ!」
大きな扉は吹き飛び、部屋の奥が露になる。そこにあったのは、マルゴニア王国の城、ウィルの部屋に勝るとも劣らない大きな大きな部屋だ。
それに、部屋の奥にはこれまた大きな椅子があり、さらにはそこに誰かが座っている。禍々しい気配の正体……あいつが。
そいつは立ち上がり、離れた位置にいる私たちへと視線を向ける。全体的に黒い装いで、黒いマントに黒い服、それになぜか般若っぽい黒い仮面までつけている。黒黒黒……すごい格好だな。
そいつは、ゆっくりと歩みを進めながら……口を開いた。口は見えないけど。
「ふふ、よくぞここまで来た……まずはその健闘を称えてやろう。だが、その努力もここまで……貴様らはあっという間に死ぬぶべら!?」
「アンズ!?」
仰々しく、しゃべるそいつの右頬を……思い切り、ぶん殴る。突然距離を詰められたことに加え、まさかしゃべってる最中に殴られると思っていなかったそいつは無防備に拳を受け、今立ったばかりの椅子まで吹き飛ぶ。
「ぐぅあっいったぁ! なん、なんだいきなり……くぉお、ま、まだしゃべってる、最中だろうが……!」
「知らないよ。私たちは、お前を倒しにここまで来たんだ!」
魔王の抗議をそよ風のように受け流して、私は構える。隙だらけだったから、殴っただけだ……こいつを倒すために旅を続けてきたんだ。躊躇なんて、一つもない!
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