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勇者パーティーの旅 ~魔王へと至る道~
長かった旅
しおりを挟むザーッ
雨が、体を濡らしていく。まるで今の私の気持ちを表しているような、天候だ。ゴロゴロと雷まで鳴り始め、さっきまで晴れていたのが嘘のようだ。
辺りには先ほどまでいた魔物の大群はすでになく、私の手には魔物の血が付着していた。
「アンズ……大丈夫か?」
側にいたグレゴは、私を心配してくれる。
前髪が雨に濡れてうっとうしいが、それを払う気力さえない。グレゴの問いに、私は力なく笑う。
……笑えて、いるだろうか。
「大丈夫……って、言えないよ」
「……そうか。俺も、同じだ」
仲間が、また一人死んだ。それも、今度こそ私の目の前で。最期に、言葉を交わすことさえできず。
これで大丈夫と言える精神力があれば、こんなに悲しくなくて済むのだろうか。
「だが、アンズ……あまり、無理はするな」
ボルゴが死んだ直後……私は、自分がなにをしたのかよく覚えていない。師匠と張り合っていた、ゴリラ型の魔族を倒したことまでは覚えている。
それからの記憶は、飛び飛びだ。叫び、走り、そして……魔物の大群の中に、私はいた。無我夢中で、奴らをぶん殴って、蹴り倒して、一匹残らず跡形もなく消し去って……
この手についた、魔物の血がその証拠だ。私は半分くらい我を忘れて、暴れまわっていた。グレゴが、無理するなと忠告するくらい。
「私は、私は……また、仲間を……」
「アンズ」
「……師匠……」
自分を、責めることしかできない。そんな私の頭に乗るのは、師匠の大きな手で……
「ボルゴを、弔ってやろう」
「……はい」
今回も、サシェのときと同じようにこの場にボルゴを埋めていくことになる。体を故郷に帰すことは、できない。その魂を、帰してあげることしか。
でも……な。きっと、サシェの魂を一番帰してあげたかったのは、ボルゴのはずなんだ。その思いを、遂げることができないなんて……無念でしかないだろう。
「ボルゴ……うぅ……」
隣ではエリシアが、声を圧し殺して泣いている。ボルゴを助けられなかったことが悔しいのは、もちろんだろう。
魔法術師だから……というのもあるのかもしれない。なにせ、ボルゴはほとんど即死に近い状態だった。いかなる魔法術師でも、死んだ者は生き返らせることはできない。
死んだ者……つまり即死の者を生き返らせることも、当然できない。だから、魔法が効かないのは仕方のないこと……仕方のないことだが、それでも自分の魔法の力が通じないことが、なによりも悔しいのだろう。
「私は……目の前に、いたのに……」
拐われてしまったサシェとは違い、ボルゴは目の前にいた。私の手が届くところに、いたんだ。なのに……
「気にしすぎるな。ボルゴの力は、みんなが信用していた……あんなことになるとは、誰も思わない」
私をフォローしてくれる師匠の言葉を、どう受け止めたらいいのかわからない。
師匠の言うように、私は……いや、私たちはボルゴの力を信じていた。だから、あの盾が壊されるなんて思いもしなかったし……実際に、壊されてもすぐには反応できなかった。
ボルゴの力を信用していたことが、結果的にボルゴを見殺しにする結果に……
いやいや、そうじゃない。信用するのが悪いなんて考え方は、ダメだ。信用していた、でもそれよりも、敵の力が上回った……悲しいが、そういうことになる。
誰も、悪くないんだ。人が死ぬのに、誰が悪いなんてことは……悪いとすれば、それは……
「……倒す」
「え?」
「倒すよ、絶対に。残りの四天王も、魔王も。魔族は、全部」
この世界を滅ぼそうとしている奴がいるから、誰かが死ぬ。誰かが死ねば誰かが悲しみ、その悲しみは別の悲しみを生む。そうして、悲しみの連鎖は続いていく。
誰かを悲しませる奴を、私は、許さない!
「あぁ……それが、サシェやボルゴへの、せめてもの手向けになるだろう」
「そうだね。私も、もっともっと強くなる。もっと魔法の腕を磨いて、死んだ人でも生き返らせれるくらいに強く……」
「そこまでいったら問題だからな」
私は、この世界にはなんの愛着もない。この世界に住む人にも。だけど、それは……この旅を通して、変わっていった。
元の世界に戻るためだけじゃない、私がこの世界を守りたいと、本気で思ってきたから……こんなにも、胸が熱くなる。
サシェ、ボルゴ……二人の想いは、絶対無駄にはしないよ。二人が守ろうとしたこの世界を、残った私たちが絶対に守るから!
「残る四天王ってのはあと一人。そいつと、魔王さえ倒せば……世界は、平和になる」
「あぁ。長かった旅も、終わりが見えてきたな。さっさと世界を救って……サシェとボルゴの魂を、あいつらの故郷へ帰してやろう」
旅に出て……いや、この世界に来て、今どれくらい経っただろう。旅に出るまでの三ヶ月の期間は、数えていた。けど、旅に出てからは忙しくて、いつの間にか数えるのを忘れていた。
そもそも、この世界『ライヴ』と、私の元いた世界の時間の流れが一緒かも、わからないし。こっちで一ヶ月経ったから向こうでも一ヶ月、とは限らない。もっと短いかもしれないし、長いかもしれない。
それでも、この旅は長く……それなりの日数を重ねてきたはずだ。その旅も、いよいよ終わりが近づいているのかもしれない。四天王の三体を倒し、魔王の姿が見えてきた。
師匠の言うように、世界を救って……サシェとボルゴ、二人の魂を、ちゃんと帰してあげるんだ! そのために私は、こんなところで立ち止まってなんかいられない!
「うん、行こう……きっとあと、少しだから」
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