異世界召喚され英雄となった私は、元の世界に戻った後異世界を滅ぼすことを決意した

白い彗星

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勇者パーティーの旅 ~魔王へと至る道~

ボルゴ・ニャルランド

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 目の前で衝撃的な光景が、いくつも広がった。

 ボルゴの盾が恐竜型の四天王に破られ、その角にボルゴが串刺しにされ、恐竜型の体のあちこちから血が吹き出し、ボルゴの体が大きく発光している……

 あまりの事態に、頭がついていかない。かろうじてわかるのは、ボルゴはまだ生きているということ……

 そして……


「ぐぉ、おおぉ!?」


 ボルゴの体の発光の輝きが増すにつれ、恐竜型の体からはどんどん内側から破壊されていく。硬い皮膚は、内側から簡単に打ち破られ、苦しそうに嗚咽を吐く。

 あの輝きと、恐竜型のダメージは、無関係ではないということだ。


「ボルゴ!」


 恐竜型が弱っている、今がチャンスだ。まだ息のあるボルゴに必死に呼び掛け、意識に訴えかける。

 見るも痛々しい傷だけど、まだ生きているならば……エリシアの魔法で、回復させられる! 今回は、彼女の魔力も充分に残っている。だから、助けられる。

 その思いから、ボルゴへの呼び掛けは次第に大きくなる。意識を強くもって、あと少しだから……と。

 だけど、ボルゴは私の声に、エリシアの声に反応しない。先ほどは、確かに小さく呻き声をあげていたはずなのに。

 ここから見えるボルゴの瞳には……もう、生気を感じられない。虚ろな瞳で、ただ一点……恐竜型だけを見ている。それに呼応するように、光の輝きは増し、恐竜型の傷も増えていく。

 まさか、ボルゴの放つ、あの輝きの正体は……!


「き、ざまっ……このオレの、与えたのと……同じ、ダメージを……!?」


 ついには吐血し、自らの角に貫通するボルゴを睨み付ける恐竜型。その口から出たのは、私が考えているのとおおかた同じもの。

 あの光は、ボルゴの力。原理はわからないけど、自分が受けたダメージを……そのまま、相手に跳ね返すというものなのではないか。いや、厳密には……跳ね返すんじゃなく、丸々同じダメージを与える。

 それがボルゴの意思によるものなのか、無意識下のものかはわからない。けれど、そうとしか考えられない。

 ボルゴが受けたダメージとそっくりそのままのダメージを、相手にも与える……どれだけ、皮膚が硬かろうが関係ない。受けた分……例えば、致死量のダメージを受けたならば、同じ分のダメージを……


「げ、ぼぉ!」


 恐竜型はついに、口から大きな血の塊を吐き出す。その体はすでに倒れ、もはや虫の息だ。

 同じ分のダメージを与える、ということは……ボルゴも、同じだけの傷を負っているってこと、になる。言ってしまえば、この恐竜型が死んだとき、ボルゴも……


「そんなの、ダメ!」


 角に貫かれたボルゴを救出するため、私は……恐竜型の長い角に、拳を打ち込む。すると、角は簡単に砕け折れてしまう。


「ぎ、ぁああぁあ!?」


 殺傷力は高くてももともと脆いものなのか、それとも弱っているため脆くなったのか……そんなことはどうでもいい。

 折れ、未だ突き刺さったままの角をエリシアが魔法で消滅させる。それによりボルゴは解放され、地面に落ちる前にキャッチ、救出に成功。

 その体は冷たく、重い。私は嫌な汗が流れるのを感じつつも、そっとボルゴの口元に耳を寄せ……呼吸を確認する。まだかすかに、息がある。


「エリシア、早く回復魔法を……!」

「うん!」


 今ならまだ、助けられるかもしれない。ボルゴを地面に寝かせ、急いでエリシアが治療の準備をして……


「ぶっ……!」


 苦しんでいた恐竜型が、糸が切れたようにその巨体を地面に倒す。それは、エリシアの魔法の光がボルゴを包む、ほとんど同時……

 ぞくっ……と、嫌な感じがする。心臓がうるさい、もう一度、ボルゴの口元に耳を寄せる。呼吸を、確認する。

 確認して、確認して、確認して……


「息……してない」

「ぇ……」


 つい先ほどまで、かすかでも息をしていたのに……今は、呼吸を感じられない。

 大きく穴が空いた体を見る。胸元に、耳を当てる。心臓の動きは聞こえない。体が冷たい。生気を、感じない。

 本能が、察した。ボルゴは、もう……


「いや、そんな……うそ、だよ……だって、だって……」

「アンズ……」


 認めたくはない。でも、サシェの死を間近で見た私には、わかってしまった。

 ボルゴはもう、死んでると。


「こんな……あっ、さり? お別れの、言葉も……まだ……」

「……う、ぅ……」


 ボルゴを包んでいた光が消え、エリシアの膝が折れる。呆然とし、現実が追い付いてきたのかその瞳からは涙が流れている。

 また、救えなかった……目の前に、いたのに。私は、私は……


「はっはぁ、死んだか! 愉快愉快!」


 この、耳障りな声は……あぁ、師匠が相手をしている、ゴリラみたいな魔族か。


「貴様、黙れ!」

「所詮は人間、所詮は雑魚。だが、ただ一人しか道連れにできんとはあいつも使えんなぁ。安心しろ、このワシが貴様らを同じところへ送ってやる!」


 師匠と張り合っているゴリラ型は、好き勝手なことを言っている。ボルゴを侮辱した……それだけで、もう、充分だ。


「あ、アンズ……?」

「おぉん? なんじゃ貴様」


 気づけば私は、ボルゴの側を離れ……師匠と組み合っている、ゴリラ型のところへと行っていた。師匠も、困惑したようにこちらを見ている。

 そしてゴリラは、腹の立つ笑みを浮かべている。


「ふはは、なんじゃお仲間の敵討ちか? 言っておくが、貴様のようなか弱い人間、加勢に加わったところでワシが不利になるとでも……」

「黙れぇえええ!!!」


 怒りも、悲しみも、全部が私の中で渦巻いて……その全部を、拳に込めてゴリラ型にぶつける。

 まるでトラックが壁に衝突したような激しい音が鳴り……拳が直撃したゴリラ型は、なにを言い残す前に跡形もなく消し飛んだ。


「……アンズ、お前……」

「う、うぁああああああ!!」


 降りだした雨が、腹の底から叫ぶ私の声を、かき消していった。
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