異世界召喚され英雄となった私は、元の世界に戻った後異世界を滅ぼすことを決意した

白い彗星

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勇者パーティーの旅 ~魔王へと至る道~

目の前にいても

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「ぬぅうううううぇえええい!!」

「うぉおおお!?」


 恐竜型の体は、体の内側から電撃で痺れて動けない。その額に、渾身の力を込めて拳を打ち付ける。巨体の重さも、硬さもそんなものもう感じない。

 ありったけの力を、この右の拳に込めて……一点に集中させた力を、爆発させる!


 バキバキッ……


「ぐぅ!? ぎ、ぁああああ!?」


 鈍い音が響くと同時、恐竜型が暴れ私を振り払う。たった今ぶん殴ったその額には、大きなヒビが入っている。

 今の音は、額が硬い皮膚が割れた音だったのか……つまり、よし、効いてる!


「こぉのぉ……人間、がぁ……!」


 恐竜型は痛みに顔を歪め、それでもなお敵意を剥き出しに睨みを効かせる。戦意が失われるどころか、さらに膨れ上がったらしい。

 そして……魔力が、膨れ上がる。


「ぬぉ……おぉおお、おぉお……!」

「な、なにあれ……」


 膨れ上がった魔力、それが形となり……恐竜型の額に、集まっていく。それは割れた皮膚を治す……ためのものではない。魔力か形を作り、額から黒い、闇の角が生えていく。

 さらに、四足歩行だった前の二本の足が、手のようなものへと変化していく。あれはまるで……角の生えた、ティラノサウルス……!?


「な、なにか生えたよ……!?」

「角、か? なんの生物だあれ」


 変化した姿に、困惑するエリシアとボルゴ。そうか、私は一目で恐竜っぽいってわかるけど……この世界には、恐竜って生き物は存在しないんだ。

 さっきの四足歩行状態だって、まあでっかいトラっぽく見えないこともないし。

 けど……


「角が、生えたくらいで!」


 これまでにないほどの魔力が、膨れ上がっているのがわかる。それでも、今さら小細工をしたところで私たちの勢いはもう……


「ぬぅおおおおおお!!」


 バキンッ……


「……え……」


 性懲りもなくまたも突進してきた巨体を、ボルゴが盾で受け止めた……はずだった。

 しかし次に聞こえたのが、巨体が盾に弾かれる音……ではなかった。巨体が、正確には太く伸びた角が、盾にぶつかり……まるでガラスを割るように、盾を砕いたのだ。

 確かに、今までとはスピードが全然違った。それだけに巨体の勢いも、比ではなかったのだろう。だけど、ボルゴに油断はなかったはずだ……今までも防げていたから、今回も防げる。そんな甘い考えではなかったはずだ。

 角は、盾を墓 破壊し……それには、留まらなかった。恐竜型の勢いは死ぬことはなく、狙いはボルゴの体その一点のみで……


 ザクッ……!


「っ……か!」


 一瞬、なにが起きたかわからなかった。ただ、耳の中に嫌な、聞きたくない音が響く。

 理解したくないと同時に、目の前の現実は非情にもこれが夢ではないと訴えてくる。恐竜型の角に、体ごと刺し貫かれたボルゴ……その、言ってしまえばあっけない数秒のやり取りに、頭がついていかない。


「ボルゴ!?」


 魔物の大群を相手にしていながらもこちらを気にしていたグレゴの一声により、私は現実へと引き戻される。それはエリシアも同様だ。

 あまりの光景に、目を背けたくなる。恐竜型に盾を破壊され、それに終わらずボルゴ自身が、奴の角に貫かれてしまっている。

 ボルゴの口から、体から、大量の血が流れ出す。こんなの、どうやって……いや、考えるのはあとだ。まずは、ボルゴを助けないと……でも、どうやって? こういうのって、刺さってるの抜いたら血が余計に出るって聞くし、そうなると出血多量が……でも、このままにしておくわけにはいかないし……


「ふはは! あまりの恐怖に戦意喪失か? 構わんぞ、どうせ全員殺すのだからな」


 考えが、頭の中を支配していく。こんなことをしている場合じゃない、考え事なんてしている場合じゃないのに、体が動かない。もう、サシェのときのような思いはたくさんだと、そう思っていたはずなのに……!

 サシェの時は、すでに満身創痍の状態だった。でも今、ボルゴは目の前で深手を負わされてしまっている。目の前にいるのに、目の前にいたのに、助けられなかった……

 目の前にいても、私は……


「うぁああああ!!!」

「アンズ、落ち着いて! お前、ボルゴを離して!」

「ふん、いいぞその絶望の顔。なぁに、すぐにこいつの後を追わせてやる。ふはははは…………は?」


 耳につく不気味な声が、辺りを支配する。目の前でボルゴを助けられなかった絶望が、私の中をどす黒いもので満たしていく。

 高笑いが、続く……と思いきや、それは突然の終わりを見せた。私は残っていた理性に意識を総動員し、恐竜型を見る。すると……驚くことに、恐竜型の体からは、次々に血が吹き出しているではないか。


「な、に……!? ぐおぉ!」


 それは、恐竜型さえも予期していない事態。しかも、ただ血が吹き出るだけではなく、痛みがあるようだ。

 体の内側から、なにかが破裂したように迫る痛みに、思わず膝をつく。自分の体になにが起きているのか、原因がわからない。

 横目でエリシアの姿を確認するが、彼女も驚いている。エリシアの仕業でも、ない。グレゴも師匠も、それぞれの相手に手一杯だ……となると、いったいなにが?


「……かふっ……」


 そこへ、小さくも確かな咳が、聞こえてきた。それが誰のものか……反射的に、顔を向ける。そこにあったのは、恐竜型に刺され、恐竜型はすでに死んだと確信していたボルゴの姿……


「え……?」


 視線の先には……ボルゴが、いた。体を貫かれながらも、己の生命力が尽きないよう必死に戦うボルゴが。

 その、ボルゴの体から……謎の光が、出ていた。ボルゴの体は発光し、眩しく体を包み込んでいた。
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