異世界召喚され英雄となった私は、元の世界に戻った後異世界を滅ぼすことを決意した

白い彗星

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勇者パーティーの旅 ~魔王へと至る道~

一人欠けたパーティー

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 大切な仲間を失っても、私たちの旅は続く。

 サシェの遺体は、本当ならマルゴニア王国へ……いや彼女の故郷へ連れて帰りたい。でも、それは無理な話だ。そうだ、この旅では、遺体となった仲間を連れて帰ることもできないんだ。

 だから、せめてもの弔いとして私たちの手で土の下へ埋めた。

 もちろん、みんな手作業でだ。疲れているなんて、言ってられない。サシェをこんなところに放り出したままでは、あまりに不憫だ。


「……じゃあね、サシェ。ありがとう」


 サシェを埋め、みんなで手を合わせて……私たちは、移動する。休みたいところだが、あの大群に襲われた場所に留まったままは危険と判断した。

 少しでも、安全なところに。そこで、体を休めなければ。体力を、魔力を、回復させないと、またあの規模の魔物、魔獣に襲われたら今度こそ終わりだ。


「ここいらで、一息入れよう」


 比較的障害物の多い場所を見つけ、身を隠すようにして隠れる。先ほどのように、見晴らしのいい場所じゃないから……そう簡単には、見つからないだろう。

 ここで、少しでも休めたら。エリシアの魔力は、さっき完全に尽きたらしい。つまり、私たちは自己治癒の力に頼るしかないわけだ。はは、なんか変な感じ……この世界に来るまでは、それが普通だったのに。

 薬を使っても、どんな名医だって、傷はすぐには治せない。でも魔法なら、すぐに傷を治してくれる。それこそ、怪我の痕だって残すことはない。

 そして……そんな万能に思える魔法でも、死者は生き返らせることはできない。


「その、ボルゴ……大丈夫?」


 サシェがいなくなってつらいのは、みな同じ……その中でも、ボルゴは一番だろう。サシェと、恋人になったんだから……

 だからきっと、ひどく落ち込んでいる。そう思ったんだけど……


「あぁ、大丈夫。心配してくれて、ありがとう」


 大丈夫どころか、私の気遣いにお礼まで言うなんて。ボルゴのことだから……言っちゃ悪いけど、いつまでもサシェの死を引きずって泣いていると思っていたのだ。

 なのに、全然凛としている……?


「みんな、ごめん……私が、もっと、きちんと魔力を調整して、戦ってたら……」


 ここで自分を責めているのは、エリシアだ。

 サシェには、自分を責めてはダメだと言われた。けど、それで割り切れる問題でもないんだろう。死者ならばいかなる魔法をもってしても、生き返らせることはできない。

 でもあの時のサシェは、限りなく瀕死であったとはいえ、まだ生きていた。であれば、魔法で回復できた可能性はある。それが『魔女』と呼ばれるエリシアで、魔力が万全に近かったならば……

 ただ、あの状況でそれを望むのは傲慢だ。それに……


「エリシアのせいじゃない。エリシアはあの後、戦えない僕を庇いながら戦ってくれてたじゃないか。力不足を嘆くなら、あの魔獣の攻撃を防げずむざむざサシェを連れていかれた僕だ」

「それは……」

「だからエリシアは、悪くないよ」


 そう、ボルゴの言うように、サシェが浚われた後、情緒不安定からか盾をうまく張れなくなったボルゴを守る形で、エリシアは戦っていた。

 あれが、魔力の著しい低下に繋がったのは間違いない……かもしれない。だからって、誰が悪いって話じゃない。


「誰が悪いなんて、サシェは望んでないよ」

「あぁ。サシェは、最期に笑って逝った。それをいつまでも引きずるのは、あいつに失礼だ」

「……強いな、師匠は」


 私は、やっぱり今でも泣いてしまいそうだ。でも師匠は、堂々と話している。さすが最年長というやつだろうか、私なんかじゃそんなことはできそうにもない。


「……そんなことないさ」


 だけど、師匠がそう小さく呟いたのを、私は聞き逃さなかった。握りしめたその拳が、震えているのがわかった。

 そうか……さすが最年長だから大丈夫、なんじゃない。最年長だから私たちを不安にさせないように、強く努めているんだ。

 だってサシェは、師匠にとって家族みたいな存在だった。ううん、私たち五人、家族だって前に言ってた。その家族が死んで、冷静でいられるはずがない。

 それを私は、さすが、なんて。……まだまだだなぁ。


「……けど僕たちは、進まなきゃいけない。ここで立ち止まったら、サシェの想いが無駄になる」


 そこで、ボルゴは言う。このまま進まなければ、サシェの想いが無駄になる、と。サシェの、想い?

 それはおそらく、ボルゴだけに言ったであろうサシェの最期の台詞。


「『みんなで、生きて帰って』……それが、サシェの願いだ。だから僕は、それを実行する。もう誰も、死なせない」


 サシェの最期の言葉……それがあるから、ボルゴは取り乱すことなくここにいる。まさか、サシェがそんなことを言っていたなんて……

 思いもしなかったけど、サシェらしいとも思った。そして、それがサシェの願いであるならば、なにがあっても叶えないとと思った。

 それに……もう、誰かが死ぬのなんて見たくはない。


「そうだね……みんなで、生きて帰って。ちゃんと、サシェのお墓を作ろう!」


 遺体は持って帰れないけれど。せめてサシェの魂だけは、持って帰りたい。だから……絶対に、生きて帰る。

 力強くうなずくみんなも、気持ちは同じようだ。

 みんなで生きて帰って。世界を救って。私は、元の世界に帰る。その気持ちは、ますます大きくなっていく。

 見ててね、サシェ……絶対に、サシェの願いは叶えてみせるから!
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