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勇者パーティーの旅 ~魔王へと至る道~
一筋縄じゃいかない
しおりを挟む現れたのは、魔物の大群……それも、百は優に越える数。しかも、その中には複数の魔獣が混ざっている。魔物の行進は、迷いなくこっちへ向かってきている……完全に、私たちを狙っている。
それに加えて、魔獣は途切れることなく私たちへと攻撃を仕掛けてくる。それはまるで、魔法の雨だ。
「行くぞ二人とも!」
「はい!」
「殲滅する!」
私と師匠とグレゴは、三手に別れて魔物の大群に突撃する。あんな大群を相手にするのだから、攻撃するにしても防御するにしても三人一緒の方がいいに決まってる。
そこを敢えて、三手に別れるのは……魔法を撃ってくる魔獣を、早く全滅させるため! 三人一組では一方向しか対応できないが、三手に別れれば三方向を対応できる。
一人では、魔獣を相手にするのも手間取るかもしれない。けど、後ろではエリシアとサシェが援護してくれる。だから……
「どけぇえええ!!」
後ろを信じて、私は進む。放たれる魔法をかわし、拳で打ち消し、後方からのエリシアの魔法で相殺され……魔法の雨をかいくぐり、魔物の大群に突っ込んでいく。
所詮は魔物、私の拳一発で倒せる相手だ。それでも、この大群の中を足を止めては囲まれて動きづらくなる。動きづらくなれば、自分の力を百パーセント発揮できない。自分の力を発揮できなければ、万一のことだってありうる。
だから、足を止めるな。動きを止めるな。動いて動いて動いて、魔物たちを翻弄しろ。疲労なんて、後回し。まずはこの窮地を脱することだけを考えろ!
「せぇえええい!」
向こうでは、グレゴが大剣を振るい魔物を一掃している。肉弾戦の私と比べて、あれだけ大きな剣があるからグレゴにはその分リーチがある。
それに、グレゴには飛ぶ斬撃だってある。あれさえあれば、射程範囲外にいるはずの相手を射程範囲内におさめることができる。
「むぅうううん!」
その反対側では師匠。師匠は……わざわざ説明するまでもないな。たった一発の拳で、正面の魔物を貫き吹き飛ばしている。心配するだけ無駄ってやつだ。
なんにせよ、今のところ順調に魔物を倒すことができている。これなら、想定していたよりも楽に倒せ……
「……るわけないか、やっぱ」
魔物を掻き分けるようにして、一際大きな巨体が突進してくる。それは、魔獣だ。奴らに仲間意識はない……だからか、本来同じ存在であるはずの魔物を、ぶっ飛ばして進んでいる。
狙いは、完全に私。周りの魔物がどうなろうと知ったこっちゃないらしい。そのまま魔獣は、私に頭から突っ込んできて……
「ぬ、ぅうううう!!」
私はその突進を、素手でもって受け止める。魔獣の額を両手で受け止め、踏ん張る。全身の力を込めて踏ん張るが……止まらない。踏ん張っている足はゆっくりと後ろに押され、地面を削り、なおも押さ続ける。
こ、いつ……まさか、身体強化の魔法を自身にかけているのか? それが、このバカ強い力の正体、か……!
「こ、んのぉ……!」
ただでさえでかい巨体がぶつかってきたのだ……それを受け止めるだけでも衝撃は半端ではないというのに。それに留まらず、力負けしている。
このままじゃ、ボルゴたちの位置にまで押し戻されてしまう。それに……両手両足、塞がっている。この状態を、周りの魔物たちが放っておくはずもない。
「ガルルルァ!」
「しまっ……!」
鋭い牙が光り、噛まれる……と、本能が緊急のベルを鳴らす。そうなれば、痛みに一瞬でも意識を奪われてしまえば……魔獣の突進に吹き飛ばされる!
こうなったら、今自由に動かせる顔で、なんとか凌ぐしか……!
「グギャ……!」
頭突きでもなんでも、やれることはやってやる……迎え撃とうとしたが、しかし魔物は倒れる。その額に、矢を受けて。
それは、サシェの矢だ。私がピンチだと見て察したのか、私に襲いかかる魔物に次々矢をヒットさせていく。
そのすべては、狙いが狂うことなく魔物の眉間や喉、急所を仕留め、私に流れ矢が当たることはない。周りの魔物を倒すと同時、魔獣にも矢を放つが……その強固な体に、矢は通らない。
やっぱり、魔獣は一筋縄じゃいかない。半端な攻撃は効かない……なら、半端じゃないほどの一撃を叩き込むしかない!
「ぬぅう……ぅううううらぁあああい!」
魔獣の突進を受け止めている状態から、力の入れ具合を変える。押されないために踏ん張るのではなく、魔獣を持ち上げるために握力に力を注ぐ!
身体強化の魔法は、体の機能を上昇させる魔法。なら、体の機能が介在しない部分で攻めれば、意味を為さない!
こうして持ち上げられるのは、身体強化してても防ぎようがないだろう!
「ヴ、ォ……!」
「ふっ、飛べぇえええええ!!」
何十……いやもしかしたら百キロ越えてるんじゃないかというほどの巨体を持ち上げ、それを少し離れた場所へとぶん投げる。そこには魔物が固まっており、見事に直撃、ストライクだ。
そうして、少しでも動きを止めることができれば上等。このまま放置するではなく、追撃のために魔獣が倒れた場所へと突っ込む。
この右拳に、渾身の力を込めろ!
「貫けぇえええ!!」
倒れたままの魔獣の体に、思い切り拳を打ち抜く。その衝撃は魔獣の体内へと伝わり、それが内から外へと流れて……破裂する。
魔獣の体は内から破裂し、殺しきれなかった衝撃が周りの魔物をも吹き飛ばす。自分で言うのもなんだけど、この拳は……日に日に、強くなっている。
けど、倒せた魔獣はまだ一体。グレゴも師匠も、どうやら魔獣と対峙しているようだが……そう簡単には、突破できてないようだ。
魔獣は、魔物よりも知能がある。だから本能的に危険信号を発する相手がわかるのか、師匠には三体もの魔獣が襲いかかっている。それぞれ身体強化しており、魔物にはないはずの連携をもって師匠を翻弄している。
手助けに行くべきか……いや……
「ガルルルァア!」
「ゴァアアァア!」
「むぅうん!」
速さで翻弄し、左右から挟み込むように突進してくる魔物を、師匠はそれぞれを受け止める。私が両手で受け止めなおも押されていたあの突進を、片手で……それも、まったく押されていない。
両側から来る魔獣を右手左手のそれぞれで受け止め、結果として体は無防備になってしまう。その隙を逃さず、残る魔獣が正面から突進してくる。その身に、闇の波動をまとって。
単なる身体強化よりも、上位の威力。それを師匠は……
「どっ、せぇええええい!!」
頭突きをもって、真っ向からぶつかり合う。闇身体強化した魔獣と、師匠のただの頭突きがぶつかり合い……
「グォアアアア!」
魔獣が、打ち負けた。師匠の額から血は流れているものの、それ以外のダメージは見られない。
……うん、あの人は大丈夫そうだ。自分のことに集中しよう。私は私のやるべきことをやるだけ……
「きゃあああ!!」
再び、魔物の大群に突っ込む……その覚悟を決めた瞬間に聞こえてきたのは、後方にいる、ボルゴの盾に守られているはずのサシェの悲鳴だった。
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