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勇者パーティーの旅 ~魔王へと至る道~

魔物の大群

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 ボルゴとサシェは、めでたく恋人同士になった。とはいっても、その実感はまったくないんだけど……だって、告白イベントをこの目で見られなかったんだもの。くそぅ。

 だけどそれからというもの、ボルゴの実力はわかりやすく上がった。ただでさえ硬かった盾が、さらに硬さを増したのだ。これは、ボルゴ自身の力が上がった、ということだろう。

 もしやこれが、愛の力というやつだろうか? 今まで募らせていた恋心が叶ったことにより、奥底に眠っていた力が目覚めたのだ。多分。

 それに、今までよりも、ボルゴに対してのサシェの距離感が近い気がする。これまでペタペタしてたのが、恋心になってからベタベタし出した感じ。

 ……くそぅ、人が恋人と離ればなれなのに見せつけよって。当て付けかこの。


「はー、いいなぁ」

「あれ、でもアンズ、ボルゴの恋応援してたじゃない?」


 私のぼやきが聞こえてしまったらしく、エリシアが私の発言に矛盾を感じたようで話しかけてくる。

 応援か……うん、してたよ、確かに応援は。でも……でもね!


「こういうのって、くっつくかくっつかないかの焦れったいとこが一番楽しいんだよ! くっついちゃったら、なんの楽しみもない!」

「それやっぱり、前言ってたこととすごい矛盾を感じるんだけど。前は焦れったいから伝えろとか言ってたじゃん」

「言ったよ! 焦れったく思ってたよ! でも、こうしてくっつかれて目の前でイチャイチャされると! なんかこう、むしゃくしゃするんだよ!」

「わがままだなぁ」


 まさか、応援してた恋が成就したことでこんなにむしゃくしゃすることになるとは思わなかった。イチャイチャカップルを見せつけられることが、こんなに苦痛だなんて!

 私には彼氏がいるから、余計にそう感じるのかもしれない。もしかしたら、私と彼氏も周りからこう思われてたりして?

 そうだとしたら……帰ってから、気を付けよう。うん。


「こほん。ま、まあ……ボルゴの力が上がったのはいいことだよ。これで、早く帰るために一歩近づいたってことよ!」


 うん、むしゃくしゃすることだけじゃなくて……ここは物事をプラスに考えよう。ボルゴの恋がうまくいったことで、ボルゴの力が上昇した……それはつまり、この旅を生き抜く可能性がぐんと上がったってことだ。

 しかも、ボルゴの力は守りの力。私たちのことを守ってくれる盾であり、なくてはならない存在だ。ま、なくてはならないのはみんなそうなんだけど。

 師匠の腕力、グレゴの剣、エリシアの魔法、サシェの狩人力、ボルゴの守りの力……誰が欠けても、この旅はうまくはいかない。

 けどみんなが揃っていれば、きっとなにも怖くない。魔王だって、すぐにやっつけて帰るんだ!


「……やっぱり、帰っちゃうん、だよね」

「?」


 その横で、何事かエリシアが小さく呟く。あまりに小さすぎて、聞き取れなかった。なので、今なにを言ったのか、聞き直そうとするが……


「! 来る、魔物のにおい!」


 サシェが魔物の反応を察知したことで、聞きそびれてしまった。まあいいや、魔物を倒したあと、聞けばいいや。

 ……そう、思っていた。


「お、おい……なんだ、あれは」


 驚愕するグレゴの視線に釣られ、魔物が来ているであろう方角を見ると……そこにいたのは、とてつもない数の魔物。十や二十どころじゃない……百はゆうに越えている!

 こんな数、初めてだ……もしかして、目的の魔王に近づいてるってこと?


「けど、魔物なんかがいくら集まっても……」

「グォオオオオ!」


 魔物がどれだけ集まっても怖くはない……だが目の前の魔物の群れからこちらに放たれるのは、無数の火の玉、電撃、闇の波動……つまり、様々な種類の魔法だ。


「魔法……じゃ、魔獣が!?」

「どれだけ、いるんだ!」


 これまで、魔獣と退治することは何度もあった。でも、それはせいぜい一匹か二匹。それでも、魔物の群れに混ざるだけでも脅威……それが、今一体何匹……!?

 魔法の威力は、『魔女』と呼ばれるエリシアには遠く及ばない。それでも、並の魔法術師のそれを凌駕する。それが、無数に放たれたのだ。


「みんな、下がって!」


 来る猛攻に真っ先に反応したのは、ボルゴだ。ボルゴは一歩前に出て、手を前に出す。手のひらから彼の守りの力を展開し、大きな盾を造り出す。

 ボルゴの守りの力は、物に守りの力を付与するだけでなく、こうやって自分の力で展開することも可能だ。見た目は透明の盾だが、確かにそこにあると、わかるものだ。

 私たち五人はボルゴの側に固まり、盾に隠れる。盾は、無数の魔法を難なく受け止め打ち消していくが……こうしている間にも、魔物の大群は歩みを止めない。

 それに……


「くっ……うぅ!」


 いくらボルゴの盾が固くったって、無限に攻撃を受け続けられるわけではない。それに、攻撃を受ける衝撃も本人に伝わっている。

 このままじゃ、じり貧だ……止まない魔法の雨がいつかは盾を破り、魔物の大群に潰される。そんなことにさせてたまるか!


「エリシアとサシェは、ここで援護をお願い」

「アンズ!?」

「ボルゴ、もうちょっと踏ん張れる?」

「……任せて」


 せめて、魔法を撃ってくる魔獣を、潰す。そうすればボルゴの負担は減るはずだし、魔物だけになればなんとか切り抜けられる!


「はは、弟子だけにカッコつけさせるわけにはいかんな」

「師匠……」

「俺たちで、あの大群に穴を開ける。ここへは来させない」

「グレゴ……」


 私の両隣には、師匠とグレゴが。どちらも、魔物の大群に対する恐怖は見てとれない。まったく、頼りになる仲間だよ。

 あの大群に突っ込むのは気が引けるけど……この二人が一緒ならば、それにエリシアとサシェの援護があるならば。なにも怖くない。ボルゴが守ってくれてるから、後ろを気にしなくても住む。


「アンズ、グレゴ、ターベルトさん……」

「無理、しないでね!」

「うん、わかってる! 二人も援護、よろしく!」


 迫り来る魔物の大群……数は数えるのも、嫌になるくらい。けど、嫌とは言えない状況だ。

 いいよ、迎え撃って……全部返り討ちにしてやるよ!
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