異世界召喚され英雄となった私は、元の世界に戻った後異世界を滅ぼすことを決意した

白い彗星

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勇者パーティーの旅 ~魔王へと至る道~

引退した本当の理由

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 弟子入りを志願するグレゴ。その意思は簡単に変わることはないように思える。やれやれ頑ななんだから……

 その後、立ち話もなんだという話になったので、ヴラメさんの家に戻ってきた。時間にすると、一時間も経っていないのに……ずいぶん、懐かしく思えるな。

 で、早速グレゴはヴラメさんに頭を下げているわけだが……


「いやいや、いきなりそんなことされても……!」


 突然弟子にしてくれと言われ、頭を下げられ……ヴラメさんも、困惑しているな。まああっちはあっちで、うまく話をつけることだろう。


「ところで、サシェは?」


 この家に戻ってきてから……いや戻る前から、サシェの姿を見ていない。さっきの広間では、泣いてたコメット氏に寄り添ってはいたのを見ているけど。


「あぁ、あの剣のお墓作ってたよ」

「お墓!?」


 サシェの行方を答えるボルゴの言葉に衝撃。いやいや、剣のお墓って……あの砕けた欠片全部拾って、土に埋めてるんだろうか。

 なんか、想像したら泣けてきてしまう。


「ヴラメさんも手伝おうとしてたんだけど、グレゴの話を聞いてあげてー、と言って断ってたよ」

「サシェらしいっちゃサシェらしいけど」


 見ず知らずの人の、剣のためにお墓まで作るとは……すごいや。私にはとても、そんな真似はできない。

 コメット氏には、ヴラメさんが後々新しい剣を買ってくれるようだし、砕けたシューベルトは供養したし……とりあえず一件落着なのかな?

 残る問題は、こっちだ。グレゴによる、ヴラメさんへの弟子入り志願。結局話はつかず、グレゴが弟子入りヴラメさんが断るの平行線だ。


「なぜです! 復帰する気がないのなら、せめて剣を教えてください!」

「キミに教えられるほどじゃないって俺は。キミならすぐにもっと上にいくさ」

「ならその方法を教えてください!」

「いやぁ……」


 ううむ……グレゴもいきなりだけど、ヴラメさんもヴラメさんだ。弟子とまではいかなくても、少し剣のコツを教えるくらいやってもいいのに。


「はっきり言ってやれヴラメ。俺は人に教えるのがド下手なんだ、とな」

「た、ターベルトぉ!?」


 なんだか漫才を見ている気分だ。とはいえ、強くなれるチャンスがあるならそれにすがりたい気持ちは、わからないでもない。

 もし立場が逆で、私が剣を嗜んでいたなら……今のグレゴのような行動に、出たかもしれない。


「まあグレゴ、弟子入りは諦めろ。こいつは人に教えるのはくそがつくほど下手なくせに、自分はどんどん上達していく。そんな嫌みな奴なんだ」

「なんか言葉に悪意がある気がするんだが」


 ふむ……まあ、実力があっても教えるのが苦手な人はいるもんな。かくいう私も、同類だ。

 こう、バーンと拳を打ち出して、ドガーンと蹴る……こんな説明しかできないだろう。

 けど……惜しいなぁ。誰よりも剣の力を持っているのに、それを人に教える能力はなく、本人は他者を傷つけるのをよしとしない。

 こう言ってはなんだが、才能の無駄遣いってやつなんじゃないだろうか。


「くっ……どうしても教えてもらえませんか」

「そういう言い方は悪いことしてるみたいで引けるけど……そうなるね。俺に教えられることはないよ」


 結局断られてしまったグレゴは、それでも納得できてなさそうだ。自分たちの旅に同行してくれ……それが無理ならせめて技術を教えてくれ、と目が訴えている。

 それを受け、ヴラメさんは長い長いため息を吐いて……


「なあターベルト。この子らには、ホントのことを話した方がいいんじゃないか」

「……お前がいいなら、俺は構わんが」


 と、二人でなにかを話している。なんだなんだ?


「グレゴくん……いや、キミたちも。俺が、騎士団から引退した本当の理由を話そう」

「本当の?」

「理由?」


 先ほどの勝負のときのような、真剣な表情。今から話すのは、現役を退しりぞいた本当の理由だという。

 確か表向きの理由は、戦いで負った傷が原因。そして本当の理由が、他者を傷つけるのがつらいから……だったはずだ。本当の向こうにさらに本当の理由があるってことか?


「俺が現役を退いたのは、ある『呪い』の影響なんだ」

「のろ、い?」


 それは、これまでに聞いてこなかった話。それに、魔法という単語は馴染みが深いが……呪いなんて、初めて聞いた。

 その表情の深刻さは、とても冗談を言っている風ではない。


「俺が現役の頃は、まだ他国との戦争が盛んでね。俺が団長を務める騎士団は、他国の騎士団とぶつかり合ってた」

「その戦いでは、俺も参加していてな。自分で言うのもなんだが、俺とヴラメのコンビがいた我らは敵国を圧倒しててな」

「でしょうね」


 他国の戦力がどれほどかは知らないが、師匠とヴラメさんがいれば、どんな相手にだって負けないだろう。

 それにしても、戦争か……昔は私のいた世界でも、あったものだ。どこの世界でも、やることは変わらないってことか。


「戦況は有利、このまま押しきれば我らの勝利は揺るぎない……はずだった」

「はず?」

「あぁ……あの男が、俺に『呪い』をかけた」


 二人が、顔を曇らせる。この二人にこんな表情をさせるなんて、いったいどんな男なんだ?


「その男は、戦場にいて驚くほど冷酷だった。敵や、味方が討たれても顔色ひとつ変えないほどに」

「そいつに、『呪い』をかけられたんだ。……『他者を傷つければ傷つけるほど、寿命が減っていく』という呪いを」


 それは、とんでもない呪いであった。しかも、騎士団という、戦いの部隊に身を置いている人間としては致命的なもの。

 その呪いのせいで、ヴラメさんは……


「俺もその場にいたんだが……呪いをかけた男は、そのままどこかへ消えてしまってな」

「この呪いが本物であることは、本能がそう感じたんだ。誰かを傷つけるのがつらいのは、元々なんだ。けど、それまではつらいながらもやってはきた。が、呪いをかけられてからは、体が動いてくれない」


 ヴラメさんのお人好しの性格は、元々のもの。それでも、呪いをかけられる前までは、自分の成すべきことをやってきたんだ。

 それが呪いのせいで、できなくなった。戦いの場から退しりぞくしか、できなくなった。


「なら、なぜそれを言わないんです? 傷が原因だなんて、そんなことを……」

「あながち嘘でもないだろう。それに……王の判断だ。『剣豪』が不覚をとられ、『剛腕』も揃って仕留められなかった相手……そんな相手の存在を明るみにしたら、みなの士気に関わるとな」

「それは……」


 私には、士気だとか国だとかそんなことはわからない。ただ、それが当時のやり方でそう決めたのなら、私にはなにも言えない。

 ヴラメさんにかけられたという、『呪い』……それが、ヴラメさんが戦いの場から退いた、本当の理由だったのか。
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