23 / 522
勇者パーティーの旅 ~魔王へと至る道~
引退した本当の理由
しおりを挟む弟子入りを志願するグレゴ。その意思は簡単に変わることはないように思える。やれやれ頑ななんだから……
その後、立ち話もなんだという話になったので、ヴラメさんの家に戻ってきた。時間にすると、一時間も経っていないのに……ずいぶん、懐かしく思えるな。
で、早速グレゴはヴラメさんに頭を下げているわけだが……
「いやいや、いきなりそんなことされても……!」
突然弟子にしてくれと言われ、頭を下げられ……ヴラメさんも、困惑しているな。まああっちはあっちで、うまく話をつけることだろう。
「ところで、サシェは?」
この家に戻ってきてから……いや戻る前から、サシェの姿を見ていない。さっきの広間では、泣いてたコメット氏に寄り添ってはいたのを見ているけど。
「あぁ、あの剣のお墓作ってたよ」
「お墓!?」
サシェの行方を答えるボルゴの言葉に衝撃。いやいや、剣のお墓って……あの砕けた欠片全部拾って、土に埋めてるんだろうか。
なんか、想像したら泣けてきてしまう。
「ヴラメさんも手伝おうとしてたんだけど、グレゴの話を聞いてあげてー、と言って断ってたよ」
「サシェらしいっちゃサシェらしいけど」
見ず知らずの人の、剣のためにお墓まで作るとは……すごいや。私にはとても、そんな真似はできない。
コメット氏には、ヴラメさんが後々新しい剣を買ってくれるようだし、砕けたシューベルトは供養したし……とりあえず一件落着なのかな?
残る問題は、こっちだ。グレゴによる、ヴラメさんへの弟子入り志願。結局話はつかず、グレゴが弟子入りヴラメさんが断るの平行線だ。
「なぜです! 復帰する気がないのなら、せめて剣を教えてください!」
「キミに教えられるほどじゃないって俺は。キミならすぐにもっと上にいくさ」
「ならその方法を教えてください!」
「いやぁ……」
ううむ……グレゴもいきなりだけど、ヴラメさんもヴラメさんだ。弟子とまではいかなくても、少し剣のコツを教えるくらいやってもいいのに。
「はっきり言ってやれヴラメ。俺は人に教えるのがド下手なんだ、とな」
「た、ターベルトぉ!?」
なんだか漫才を見ている気分だ。とはいえ、強くなれるチャンスがあるならそれにすがりたい気持ちは、わからないでもない。
もし立場が逆で、私が剣を嗜んでいたなら……今のグレゴのような行動に、出たかもしれない。
「まあグレゴ、弟子入りは諦めろ。こいつは人に教えるのはくそがつくほど下手なくせに、自分はどんどん上達していく。そんな嫌みな奴なんだ」
「なんか言葉に悪意がある気がするんだが」
ふむ……まあ、実力があっても教えるのが苦手な人はいるもんな。かくいう私も、同類だ。
こう、バーンと拳を打ち出して、ドガーンと蹴る……こんな説明しかできないだろう。
けど……惜しいなぁ。誰よりも剣の力を持っているのに、それを人に教える能力はなく、本人は他者を傷つけるのをよしとしない。
こう言ってはなんだが、才能の無駄遣いってやつなんじゃないだろうか。
「くっ……どうしても教えてもらえませんか」
「そういう言い方は悪いことしてるみたいで引けるけど……そうなるね。俺に教えられることはないよ」
結局断られてしまったグレゴは、それでも納得できてなさそうだ。自分たちの旅に同行してくれ……それが無理ならせめて技術を教えてくれ、と目が訴えている。
それを受け、ヴラメさんは長い長いため息を吐いて……
「なあターベルト。この子らには、ホントのことを話した方がいいんじゃないか」
「……お前がいいなら、俺は構わんが」
と、二人でなにかを話している。なんだなんだ?
「グレゴくん……いや、キミたちも。俺が、騎士団から引退した本当の理由を話そう」
「本当の?」
「理由?」
先ほどの勝負のときのような、真剣な表情。今から話すのは、現役を退いた本当の理由だという。
確か表向きの理由は、戦いで負った傷が原因。そして本当の理由が、他者を傷つけるのがつらいから……だったはずだ。本当の向こうにさらに本当の理由があるってことか?
「俺が現役を退いたのは、ある『呪い』の影響なんだ」
「のろ、い?」
それは、これまでに聞いてこなかった話。それに、魔法という単語は馴染みが深いが……呪いなんて、初めて聞いた。
その表情の深刻さは、とても冗談を言っている風ではない。
「俺が現役の頃は、まだ他国との戦争が盛んでね。俺が団長を務める騎士団は、他国の騎士団とぶつかり合ってた」
「その戦いでは、俺も参加していてな。自分で言うのもなんだが、俺とヴラメのコンビがいた我らは敵国を圧倒しててな」
「でしょうね」
他国の戦力がどれほどかは知らないが、師匠とヴラメさんがいれば、どんな相手にだって負けないだろう。
それにしても、戦争か……昔は私のいた世界でも、あったものだ。どこの世界でも、やることは変わらないってことか。
「戦況は有利、このまま押しきれば我らの勝利は揺るぎない……はずだった」
「はず?」
「あぁ……あの男が、俺に『呪い』をかけた」
二人が、顔を曇らせる。この二人にこんな表情をさせるなんて、いったいどんな男なんだ?
「その男は、戦場にいて驚くほど冷酷だった。敵や、味方が討たれても顔色ひとつ変えないほどに」
「そいつに、『呪い』をかけられたんだ。……『他者を傷つければ傷つけるほど、寿命が減っていく』という呪いを」
それは、とんでもない呪いであった。しかも、騎士団という、戦いの部隊に身を置いている人間としては致命的なもの。
その呪いのせいで、ヴラメさんは……
「俺もその場にいたんだが……呪いをかけた男は、そのままどこかへ消えてしまってな」
「この呪いが本物であることは、本能がそう感じたんだ。誰かを傷つけるのがつらいのは、元々なんだ。けど、それまではつらいながらもやってはきた。が、呪いをかけられてからは、体が動いてくれない」
ヴラメさんのお人好しの性格は、元々のもの。それでも、呪いをかけられる前までは、自分の成すべきことをやってきたんだ。
それが呪いのせいで、できなくなった。戦いの場から退くしか、できなくなった。
「なら、なぜそれを言わないんです? 傷が原因だなんて、そんなことを……」
「あながち嘘でもないだろう。それに……王の判断だ。『剣豪』が不覚をとられ、『剛腕』も揃って仕留められなかった相手……そんな相手の存在を明るみにしたら、みなの士気に関わるとな」
「それは……」
私には、士気だとか国だとかそんなことはわからない。ただ、それが当時のやり方でそう決めたのなら、私にはなにも言えない。
ヴラメさんにかけられたという、『呪い』……それが、ヴラメさんが戦いの場から退いた、本当の理由だったのか。
0
お気に入りに追加
154
あなたにおすすめの小説
完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-
ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。
自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。
そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。
安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。
いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して!
この世界は無い物ばかり。
現代知識を使い生産チートを目指します。
※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。
老女召喚〜聖女はまさかの80歳?!〜城を追い出されちゃったけど、何か若返ってるし、元気に異世界で生き抜きます!〜
二階堂吉乃
ファンタジー
瘴気に脅かされる王国があった。それを祓うことが出来るのは異世界人の乙女だけ。王国の幹部は伝説の『聖女召喚』の儀を行う。だが現れたのは1人の老婆だった。「召喚は失敗だ!」聖女を娶るつもりだった王子は激怒した。そこら辺の平民だと思われた老女は金貨1枚を与えられると、城から追い出されてしまう。実はこの老婆こそが召喚された女性だった。
白石きよ子・80歳。寝ていた布団の中から異世界に連れてこられてしまった。始めは「ドッキリじゃないかしら」と疑っていた。頼れる知り合いも家族もいない。持病の関節痛と高血圧の薬もない。しかし生来の逞しさで異世界で生き抜いていく。
後日、召喚が成功していたと分かる。王や重臣たちは慌てて老女の行方を探し始めるが、一向に見つからない。それもそのはず、きよ子はどんどん若返っていた。行方不明の老聖女を探す副団長は、黒髪黒目の不思議な美女と出会うが…。
人の名前が何故か映画スターの名になっちゃう天然系若返り聖女の冒険。全14話+間話8話。

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します
怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。
本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。
彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。
世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。
喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

俺が死んでから始まる物語
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。
だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。
余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。
そこからこの話は始まる。
セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕
『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?
釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!
父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。
その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。
最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。
その他、多数投稿しています!
https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

城で侍女をしているマリアンネと申します。お給金の良いお仕事ありませんか?
甘寧
ファンタジー
「武闘家貴族」「脳筋貴族」と呼ばれていた元子爵令嬢のマリアンネ。
友人に騙され多額の借金を作った脳筋父のせいで、屋敷、領土を差し押さえられ事実上の没落となり、その借金を返済する為、城で侍女の仕事をしつつ得意な武力を活かし副業で「便利屋」を掛け持ちしながら借金返済の為、奮闘する毎日。
マリアンネに執着するオネエ王子やマリアンネを取り巻く人達と様々な試練を越えていく。借金返済の為に……
そんなある日、便利屋の上司ゴリさんからの指令で幽霊屋敷を調査する事になり……
武闘家令嬢と呼ばれいたマリアンネの、借金返済までを綴った物語

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?
お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。
飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい?
自重して目立たないようにする?
無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ!
お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は?
主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。
(実践出来るかどうかは別だけど)
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる